働き方 組織 部下の残業時間を減らし、生産性を高めるタイムマネジメント 今すぐ取り組める対策とは

  • このページをFacebookでシェアする
  • このページをTwitterでシェアする
  • このページをLinkedInでシェアする
2017.08.29

残業につながる4つの原因と、今すぐ取り組める対策とは

働き方改革が推進される昨今において、部下の残業時間が減らないというのは、管理職共通の悩みではないだろうか。タイムマネジメントによる残業削減を提唱する時間管理コンサルタントの水口和彦氏によると、残業の多い部下には共通する問題点があるという。「仕事の全体像と量の把握が苦手」「優先順位をつけるのが苦手」「考えをまとめるのに時間がかかる」「残業前提で作業している」などがそれだ。それぞれの問題点ごとに、改善案を解説する。

case1 仕事の全体像と量の把握が苦手対策:すべての仕事を「見える化」するように指導

タスク実行日の即断と余裕のあるスケジュールがカギ

ビジネスパーソンの抱える仕事量は膨大である。主に「アポイントメント」「タスク」「割り込み仕事」の三つに分類される(図1参照)。開始時刻の決まっている「アポイントメント」を管理できている人は多いが、それでも予定が狂うのはタスクや割り込み仕事の管理ができていないからだと水口氏は言う。
「タスクは締め切りがあっても、いつやるかは本人次第。割り込み仕事はいつ発生するかわかりません。タスクを管理してもらうことと同時に、割り込み仕事にうまく対応してもらうことが必要です」(水口氏)

【図1】タスク処理に充てられる時間を最初に把握する
タスク処理に使える時間は、「『1日の労働時間』-『アポイントメントと、移動にかかる時間』」ではないことに注意。必ず「割り込み仕事の発生に備える時間」も確保しないと、予定が狂ってしまう。

1日の労働時間 タスク タスクの処理に当てる時間 アポイントメント アポイントメントと、移動にかかる時間 割り込みの仕事 割り込み仕事の発生に備える時間(1.5~2.5時間)

タスクが発生したら、即座に実行日を決めて、予定表の欄外に記入する。期限ではなく実行日に書くことが、タスクを行うタイミングや仕事量の見える化につながる。「いつまでにやる」ではなく、「いつやるか」という発想で常に考えるようにするとよい。仕事量を見て、余裕のある日にタスクを書いていくことは仕事量の平準化にもつながる。
仕事量が適正か(時間が足りるか)どうかを判断するためには、アポイントメントなどのない空き時間から「タスクに必要な見込み時間」を引いて、どれだけ時間が残るか考えるとよい。一般的に割り込み仕事は1日に1.5時間程度、多い人で2.5時間程度あるので、その時間を残すことが必要だ(図2参照)。
「タスクを書き込むためには、手帳やスケジュール管理ソフトが使えますが、一つに統一するのが基本です。タイムマネジメントというと、分刻みでびっしり予定を立てることを想像する方も多いのですが、そんな必要はありません。タスクの実行日を決め、その日の仕事量をつかむことのほうが大事です」(水口氏)

【図2】タスク管理の見本所要時間を見積もりにくいタスクは、作業を分割して考えるとよい。分割したタスクは、それぞれの実行日に明記しておく。 アポイントメントのない空き時間がどれだけあるか把握する。そこから、予測されるタスクのよ所要時間を引いて、割り込みしごとに出来るだけのし時間が残るなら、仕事量は適正な範囲にあると判断できる。 アポイントメントは終了時刻もわかるように記入する。どうしても長引きそうな案件は、約束の終了時刻よりも30分まから1時間程度、時間をあ余分に抑えておく。移動時間もアポイントメント同様に記入しておく。

case2 優先順位をつけるのが苦手対策:「今日のタスク」から実行させる

長期的なスケジュールをもとに段取りを決める

タスクを実行日に記入するようにすると「今日のタスク」が明確になり、優先順位の判断がしやすくなる。あれこれ目移りするのではなく、「今日のタスク」から終わらせていくように指導しよう。ただし、長期的な仕事を進めていくことも忘れてはいけない。部下が仕事の段取りをするのが苦手な場合は、納期などの締め切りを確認し、そこから逆算して、「どのタイミングで何をすべきか」を決め、タスクとして実行日に書き込むように促す。最初に長期スケジュールを確認しておかないと、大切な仕事が後回しになったり、納期直前にずれこんでしまう危険性がある。日々発生するタスクと、長期的な仕事のためのタスク、この両方を書き込むように指導するとよい。
「誰しも難しい仕事は後回しにして、簡単な仕事を先に始めたくなるもの。しかし、難しい仕事も小分けのタスクにして、一日一つでも行うようにすれば着実に進めることが可能です。そのためにも、長期のスケジュールを踏まえた段取りを身に付けてもらいましょう」(水口氏)

case3 考えをまとめるのに時間がかかる対策:考えるというタスクを、何日かに分けてやらせる

アイディア出しも細分化できる

新商品の企画書や調査報告書などの作成、はじめてやる仕事などは時間のあるときにじっくり取り組みたいと考えがちである。しかし、普段忙しい人が急に時間の余裕ができるということはまずないと水口氏はいう。
「『時間があるときにじっくり考えよう』という発想ではなく、細切れの時間で少しずつ考えをまとめる習慣を身に付けさせるべきです(図3参照)」(水口氏)

【図3】細切れの時間でアイディアをまとめる悪い例 4日目4時間 間近になって考える 思考時間4時間 良い例 細切れ時間を使って何度も考える 1日目30分早めに一度考え、メモをとる 2日目30分前日のメモを見て考える。メモを追加 3日目30分2日目と同様に 4日目30分3日目と同様に 思考時間合計2時間

ただし、水口氏によるとこの方法にはいくつかコツがあるという。一つめは「後戻り」や「二度手間」をしないようにすること。10分しか空き時間がないのに、「前回どこまで考えていたか」を思い出すのに2分かかれば、大切な時間の二割を浪費してしまう。
思い出す時間を短縮するためにメモをとったり、資料にチェックペンで書き込みをしておくと、前回どこまで考えたり、調べたりしたかが一目で分かる。Web上の資料やPDFファイルの場合、必要な部分をピックアップしてWordなどのアプリケーションに貼り付け、自分の考えなどを追記していく方法もある。
二つめは、考えたりアイディアを練ったりする際は、考えてからメモするのではなく、メモしながら考えることだ。同じアイディアを考えたり、迷ったりせずに済む。次回はそれを見て追記していく。こうすれば、細切れ時間でも効率よく、考えを深めることができる。

case4 残業前提で作業している対策:退社時刻を決めて焦らせる

「残業から本気」はNG

「タスクが終わらなかったので、残業で取り戻す」という考えでは、仕事にメリハリがなくなりがちだ。出社直後に当日の退社時刻を決め、その時間に終わるよう、1日の段取りを考えて行動してもらおう。もし、割り込み仕事が特に多く、今日のタスクが終わらない場合は、明日の仕事量を確認した上で、タスクの一部を明日に回しても構わない。当日の状況に応じて調整し、仕事量を平準化することも必要だ。
また、静かな残業時間にならないと集中できないという理由で、残業が多くなる部下もいるだろう。「難しい仕事は残業でやるという習慣で、私は『残業から本気』と呼んでいます。しかし、これが習慣になってしまうと、残業は長くなる一方です。タスクの細分化を進め、日中の空き時間もできるだけ活用して処理するよう促してください」(水口氏)

振り返りと部下へのフィードバック

これらの取り組みをある程度続けたら、部下と振り返りの面談を行う。できれば部下に実行したタスクと所要時間を記録してもらうとよい。例えば単なる社内資料の作成に時間をかけすぎる社員がいたら、業務の優先順位を説明して見直しを促す。
いわゆる「つきあい残業」は禁止し、本人の計画性のなさに起因する「なりゆき残業」は、タイムマネジメントの実行と振り返りの継続で減らすことができる。こうしたタイムマネジメントの基本を徹底するだけでも、労働時間の二割程度を削減できると水口氏は語る。
「残業する部下に『頑張っているね』とほめるのは禁物。心情的にはわかりますが、改善が中途半端になってしまいます。管理職自身の意識改革を徹底することも忘れないでください」(水口氏)

Profile

水口和彦氏
ビズアーク時間管理術研究所 取締役社長

時間管理コンサルタント。住友電気工業にて研究開発・生産技術・品質管理エンジニアとして勤務しながらタイムマネジメントを研究し、残業を大幅に削減。その経験を活かし2006 年に独立し、タイムマネジメント専門講師として、様々な企業や自治体、教育機関において研修や指導を行っている。著書に『残業ゼロ!時間管理のコツ39』(学研プラス)など。