2000年以降に社会人になったミレニアル世代。その上の世代とは異なる価値観を持つため、「今どきの若者は……」と手を焼くマネージャーや管理職は少なくない。ミレニアル世代をどう理解し、育成すればいいのか。次世代リーダーの育成に力を注ぐ、ジェイフィールの高橋克徳氏と佐藤将氏に、ミレニアル世代の中でも20歳から30歳前後の若手とどう向き合うべきか、コツをうかがった。
若手の可能性を見出し、その力を組織の成長へ
「ゆとり世代」や「意識高い系」とも揶揄されるミレニアル世代。仕事をお願いしても返事はいいが行動が伴わなかったり、少しの注意で落ち込んだり、対話をしようと飲みに誘えば「お酒は飲まないんで」と断られる……。最近の若手が何を考えているか、さっぱり分からないと感じる上の世代は多い。
でも「ミレニアル世代をひとくくりで語ると、彼らの本質を見逃す」と、ジェイフィール代表取締役の高橋克徳氏は指摘する。ミレニアル世代は、ものごころがついた時にはすでにインターネットがあり、SNSの普及とともに育っているためか、ボーダーレスなつながりの中で生きているという意識が強い。「研修などで多くの若者に接していますが、考え方が非常にフラットで自然体。周囲とつながりながら社会的に意味のあることを成し遂げたいという意向があり、素直ないい特性を持った人が多いと感じています」(高橋氏)
ミレニアル世代の中でも、30歳前後と20歳前後とでは、また違った特徴が見えてくると分析するのは、ジェイフィールでグローバル人材育成などに取り組むコンサルタントの佐藤将氏だ。「30歳前後の人たちは、社会システムを変えたいと高い志を持っているものの、競争・格差社会を経験したのちに会社に身を置いているので、企業社会を完全に否定できないジレンマを持つ世代。対して20歳前後は、人生100年時代が進む中で、企業社会への依存度は低く、キャリアは自分たちでデザインしなくてはならないという意識が強い傾向があるように感じます」
そんなミレニアル世代は、会社で価値観を否定されて落ち込んだり、規範的な上下関係の違和感に悩んだりと、戸惑うことも多いという。「彼らはいい理性を持ち、相手を受容しながら対話もできるし、自然に人を巻き込むこともできる。それを生かせない組織はもったいない」と高橋氏は言う。
ミレニアル世代の感じていることに向き合い、世代間ギャップを埋めて組織を成長させるためには、どのように育成すべきか。ケース別の対応策を教えていただいた。
ケース1
ミレニアル世代が抱く仕事への違和感
「この仕事に何の意味があるの?」
「売上、生産性向上……、これが会社への貢献なのだろうか?」「仕事の目標や意味を、上司がきちんと話をしてくれない」「業務をしっかり見てくれていない上司に評価されても……」。これまでの組織では常識とされていたことだが、ミレニアル世代はこのような違和感を覚える。でもこの感覚が、組織に新しい風を吹き込むきっかけにもなるという。「ミレニアル世代は、SNSで“いいね!”をする感覚で、フラットな人間関係の構築を望みます。じっくり対話をし、価値観さえ共有できれば、上の世代との隔たりも埋まるでしょう」(高橋氏)
しかし、一歩踏み出すことに抵抗感がある世代。未来に向かって、その壁を乗り越える後押しが必要だ。そのためには、対話を通して、彼らの心が動く原動力を一緒に見つけてあげること。その上で、その若手自身が、周囲を巻き込んでチームを動かすリーダーになる「コネクティング・リーダーシップ」のスキルを身に付けることが有効(図1参照)。さらに「リベラルアーツを取り入れて、社員に常識を疑う技術を学ばせることもおすすめします」(佐藤氏)
ケース2
部下の育成に悩むマネージャー
「返事はいいけれど動かない、どう接するべき?」
自分たちが上の世代から受けてきた育成方法が、ミレニアル世代には通用しないと悩む管理職は多い。「これまで、組織の常識の中で一生懸命やってきたのに、若手からは仕事の意味を問われ、上司からは成果のプレッシャーをかけられる。40代は非常に苦悩している世代」と佐藤氏は分析する。
そんな悩みが多い職場で有効なのが「リバースメンター制度」だ。上司や先輩がメンター(相談役)となって若手を育成するメンター制度に対し、若手が上司に助言を与えていく逆の仕組み。「メンターになる若手は、別部署の人でもOK。互いが気づけていない点、感じていること、そう思う背景などを、率直に対話することで、ミレニアル世代の気持ちが見えてきて、適切なマネジメントができるようになります」(高橋氏)。管理対象が多様化している今の時代、チームが機能していくためには、管理の枠組みを変革できる「リフレーミング・リーダーシップ」のスキルを身に付けることも有効だ(図2参照)。
ケース3
管理職・経営層の誤解
「意識高い系の若者は扱いが難しい。うちの会社では生かせそうもない」
「20代のミレニアル世代には、実にたくましい人が多い。その人たちは、いわゆる“意識高い系”としばしば呼ばれていますが、未来は明るいと私は感じています」(高橋氏)
意識高い系は、社会をよくしたいと願い、興味を抱くと、海外にも飛び出せるフットワークの軽さも併せ持つ。彼らの中には、企業社会に依存せずに、自らスタートアップを立ち上げて、「いいね!」と共感し合いながらビジネスを生み出し、格差を生み出さない社会の幸せのあり方を求める人もいる。「デジタルの進化が著しい、金融、自動車、医療・医薬業界は、組織風土改革は待ったなしの段階にきています。イノベーションを起こせるのは、そんな若手なのかもしれません」(佐藤氏)
だからこそ、上の世代には過去の成功体験を払しょくする意識改革が必要だ。競争が多角化するVUCA時代において、部下へ自分の存在価値を示そうとする高圧的な言い方は通用しなくなっている。一方で、現場を放置して実態を把握していない人もいる。管理職は、自分のふるまいを客観視した上で、真のリーダーとして組織文化をつくる「オーセンティック・リーダーシップ」を目指す必要がありそうだ。
ケース4
ミレニアル世代が思う次世代リーダー
「精神論や努力を強いる、そんなリーダーにはついていけない」
「私たちは研修のなかで、リーダーシップを3分の即興劇で表現するワークショップをしています。すると、だいたいがリーダーとフォロワーに分かれ、リーダーがみんなを引っ張るという構図が見えてきます」(高橋氏)。一方で、ミレニアル世代が望むリーダーを、「サザエさん型リーダー」と表現する。「サザエさんのエンディング映像のように、リーダーはメンバーを手招きして一緒に行こうと誘い、みんなが後をついていく。途中でつまずく人がいたら声をかけ、リーダーがつまずくとほかのメンバーが駆けつけて助けてあげるんです」(高橋氏)。今の若手は、リーダーだって辛い時もある。それならば、ほかのメンバーが引っ張ってあげればいいという柔軟な考え方を持つ人たち。これまでのように、リーダーが背中を見せて、「みんな黙ってついてこい」「壁をのりこえろ」という従来のやり方が通用しなくなっているという。
「日本では、管理職が、この人はここが苦手でここが得意などのレッテルをはって仕事を振り分け、上司が描いている像に若手を近づけていくことが従来の育成方法でした」(高橋氏)。その方法では今の時代は、若手の力は発揮できなくなってしまう。仕事の意味や楽しさを教え、一緒に取り組む中で修正していくことが大切だ。挨拶やトラブルを解決する時の対応など、日常を観察するとその人の良さが見えてくるもの。それを本人にフィードバックしてあげて、潜在的な力を伸ばしてあげることが、若手の育成につながるだろう。
Profile
高橋克徳氏
株式会社ジェイフィール 代表取締役
野村総合研究所、ワトソンワイアットを経て、2007年ジェイフィール設立に参画。2013年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、2018年より武蔵野大学経済学部経営学科特任教授を兼務。組織論、組織心理学、人材マネジメント論、人材育成論を専門とする。 特に、互いの感情に向き合い、人と人との相互作用が組織に与える影響を研究し、組織づくり、リーダーシップ、組織変革コンサルティング、 人材育成プログラムの開発などに力を入れている。著書に『みんなでつなぐリーダーシップ』(実業之日本社)ほか多数。
佐藤将氏
株式会社ジェイフィール コンサルタント
複数の外資系コンサルティング会社を経て、2013年3月にジェイフィールに参加。これまでのキャリアの半分以上が海外。クロスボーダーのM&Aや組織再編、グローバル環境下でのチェンジマネジメントや現地幹部マネジメント、グローバル人材育成など、数多くの案件を手掛ける。「日本と世界の若者を元気に」の実現のため、21世紀型の組織変革、人材育成に力を入れている。