働き方 仕事の未来 キーワードで見る2019年の雇用・労働⑥「変化に対応できるキャリア」VUCA時代と人生100年時代において、変化を前向きに捉えられるキャリアづくりを

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2019.04.09

2019年は働き方改革関連法が施行され、これまで3年以上議論してきた働き方改革が本格的な実行段階に入ると同時に、新たな政策課題として浮上した外国人労働者と高齢者の雇用拡大に取り組んでいく――。日本の雇用・労働にとって大きな節目の年として記憶されることになるかもしれない。
法整備の過程では労働者の保護が議論の中心となったが、企業が取り組むうえでは生産性向上につなげる発想が欠かせない。創業時から働きやすい魅力的な職場づくりに力を入れているスタートアップ企業が日本でも増えており、改革に出遅れた企業は人財獲得競争でも劣勢に立たされていく。
2019年に注目されるトピックスのなかから、企業とそこで働く人はどんなことに留意するべきか。雇用・労働の専門家に話を聞いた。

大ベストセラー『ライフ・シフト』の著者リンダ・グラットン氏は、100年時代の人生戦略には、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」の3つの無形資産が必要だと示した。そのなかでも、特に「変身資産」の重要性が高まってきていると説くのは、法政大学キャリアデザイン学部教授の武石恵美子氏だ。

変身資産とは、社会的な変化に柔軟に向き合いながら、自分を変えていける力のこと。VUCA時代といわれる現代では、技術の進歩によりビジネス構造がドラスティックに変化しているため、従来のように丁寧な"人材育成"が難しくなっている。「実際、企業側も今後どのような能力を持った従業員が必要で、彼らをどう育成すればいいか模索している状況です」と武石氏。従来の育成法を継続しても、その効果が見えにくくなっているのが課題だという。
「だからこそ、自分で自分のキャリアを考えられる、自律的なキャリア観を持った個人が求められます。そして、組織も自律的な個人が活躍できる環境に変わらなければ、時代の変化に柔軟に対応できる優秀な人が残らなくなるでしょう」(武石氏)

こうした流れを受け、キャリア理論も変化している。「従来は『適性理論』という、本人の特性と職種を紐づける考えが主流でしたが、今は、米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱する『計画的偶発性理論』のような理論が受け入れられるようになってきました。これは、予期せぬ出来事をプラスに受け止めて、キャリアを築いていく考えのこと。そのためには、常にオープンマインドであることが必要だといわれています」

変化が激しい時代だからこそ、前向きにその変化を楽しみ、予期せぬ出来事を受け入れていく。働き方改革で増えた自由な時間を、夜間学校や資格取得などの自己研さんに使ったり、地域活動やNPO活動を始めたり、会社外での経験を広げてみる。「そうした機会が、『変身資産』を育むことにつながり、人生100年時代でも自身の価値を発揮できる、『変化に適応できるキャリア』を構築していけるのです」(武石氏)

Profile

武石 恵美子氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授

お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2007年より現職。
著書に、『キャリア開発論』(中央経済社)など。厚生労働省「労働政策審議会 障害者雇用分科会」、「労働政策審議会 雇用均等分科会」等の公職を務める。