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2025.02.06
AIを“使いこなす”ために必要なのはプロンプト、マインドセット、人間力

近年登場した生成AIは、「誰でも使える」のが特徴だ。
そのため、多くの人がそれなりに「使えている」かもしれない。しかし、使えるのと、「使いこなせる」のとでは、アウトプットに格段の差が出てしまうのもまた、生成AIの特徴だ。業務を最大限に効率化し生産性を上げるには、使いこなすためのスキルが必要になる。
今リスキリングで求められるAI活用スキルとは何か。どうすれば習得できるのか。企業向け生成AIのリスキリングや人財育成などに取り組んでいるCynthialy代表取締役CEOの國本知里氏に聞いた。

AIを「使いこなす」ために必要な
プロンプトのスキル

リスキリングの重要性が高まるなか、特に重視されているのがAIを活用するスキルだ。生成AIの登場は日本の職場にも大きな影響を及ぼし、AI活用の動きは急速に進むといわれてきたが、実態はどうなのか。

「米国金融大手のゴールドマン・サックスが発表した予測レポートで、既存職業の3分の2がAIの影響を受けると報告されているとおり、今後AIが人間の仕事のあり方を変えていくのは間違いありません。日本企業でもAIの活用方針を定める企業は年々増えています。ただそれでもまだ全体の半分程度で、業務に活用している企業となるとごくわずか。中国や米国では8割程度の企業が活用方針を打ち出し、業務活用が当たり前になっているのと比べると、かなり遅れているのが実情です」(國本知里氏)

ChatGPTなど生成AIは、いわば「誰でも使える」ものだ。なぜ活用が進まないのだろうか。國本氏は、「確かに『誰もが使える』からこそ、わずか1、2年でユーザーが爆発的に増えました。ですが蓋をあけてみれば、使いこなせていない人が圧倒的に多いというのが実情です」と指摘する。プロンプト、つまりAIへの指示の出し方によって、アウトプットの質がまったく異なるのがAIの世界なのだという。

「実はAIへの指示の出し方は、対人間に対する指示と同じです。例えば『健康的な食事を教えて』といった曖昧な指示では、AIも大雑把な答えしか出してくれません。部下に期待通りの成果を出してもらうには明瞭で具体的な指示が必要なように、AIにも的確でかつ具体的な指示をする必要があります。つまり、AIに対するプロンプトエンジニアリングのスキルが必要なのです(図1参照)」(國本氏)

図1AIを「使いこなす」ために必要なプロンプトスキル

AIを「使いこなす」ために必要なプロンプトスキル AIを「使いこなす」ために必要なプロンプトスキル

出典:國本氏の資料を基に作成

AIから質の高いアウトプットを得るには、的確で具体的な指示が出せるかが大きなポイントになる。國本氏はその基準として「5Sの法則」を提唱する。

AI時代にAIとどう向き合うか
マインドセットが重要

企業のAI活用を支援する國本氏が、リスキリングをテーマにした人財教育の際に伝えるのが、「マインドセット」「リテラシー」「スキル」の3つだ。「この3つのうちどれが欠けても、うまく活用できません。なかでも最も重要なのが『マインドセット』です。実践的なスキルを学ぶ前にまず、今後AIなしでは仕事が成立しない時代になるということを、十分に頭で理解して取り組むことが重要です。目的意識もなく危機感も乏しい状態で取り組むと、“ちょっと便利なツール”くらいの効果しか出せず、そこで終わってしまいます」(國本氏)

働き手個人の努力に任せるだけでなく、企業側もマインドセットの醸成のための場を設けることも必要だという。

「人財不足が深刻化するなか、生成AIを活用して生産性を上げることは、企業にとっても存続にかかわる重要課題です。AIの影響を受ける職種や業界であればあるほど、会社が社員のマインドセットを醸成し、意識を一つにしてAI活用に取り組む必要があります」(國本氏)

ではマインドセットを身につけるには具体的に何をすればいいのか。國本氏はキーワードとなる「5K」を提唱している(図2参照)。①好奇心、②仮説思考(結果を想定して質問する)、③解像度の高さ(曖昧な指示ではなく、具体的な指示を出す)、④構造化(指示を構造化する)、⑤教養の5つだ。

図2AI活用に必要な3つの要素と5Kマインド

AI活用に必要な3つの要素と5Kマインド AI活用に必要な3つの要素と5Kマインド

AI活用を推進するうえで必要な3つの要素のうち、最も重要なのが「マインドセット」。5つの要素を高めることがポイントになる。

出典:國本氏の資料を基に作成

「生成AIはいずれ今のスマートフォンと同じく、誰にとっても必須のツールになります。スマホで撮った写真をアプリで加工するのを楽しむ若者のように、まずはAIでできることに好奇心を持つことが大切です」(國本氏)

④の「構造的に質問できるスキル」は、前述のプロンプトのスキルだ。だが、これが十分な人はまだ少ない。

「私の場合、100行のプロンプトを書くことも珍しくありません。前提知識からアウトプットの形式まで、明確に指示しないと精度の高い結果が得られないからです。これはロジカルシンキングの領域でもあります」(國本氏)

企業のAI活用、今後のカギは
デジタルトラストと人間力

一方、企業側は会社として生成AIをどう活用し、業務やビジネスをどう変えていくのか、従業員たちにそのロードマップを示し、理解を促す必要がある。そのためには、変革を促すカルチャー醸成の工夫が必要だという。

「トップの一声だけでは社内にAI活用を浸透させることは難しいので、AIの推進役となるリーダーを立てる、もしくは推進室のような専門組織を設置することも重要です」(國本氏)

國本氏によれば、大手企業ではこうした取り組みが進んでいる一方、中小企業ではいまだにAIのつくる未来が見通せていないケースが多く、それがAI活用の遅れにつながっているという。

「今まで8時間かかっていた作業が、生成AIの活用で5分に短縮できる世界が見えてきました。それは、例えば子育てや家族の介護の問題を抱えてフルタイムで働けない人が、フルタイムと同等のパフォーマンスを発揮できるということでもあります。AI活用においては、まずはそのメリットの大きさに注目してほしいです」(國本氏)

また、AI投資が業績に反映されていないといった声も聞かれる。これに対して國本氏は、「登場して間もない技術の効果をこの段階で問うのは性急というものです。私は、DXのDは『泥臭い』のDと呼んでいますが、何かを変えるには試行錯誤を繰り返しながら、徐々に企業のカルチャーを変えていくプロセスがどうしても必要になります」と指摘する。

写真や映像の加工・偽造によるディープフェイクの問題や、事実に基づかない情報を生成するハルシネーションの問題など、AIにはリスク上の課題もある。そのため、今後はデジタルトラストが企業の課題になっていくだろうと國本氏は指摘する。

「企業のAI活用は、そうしたリスクに対してどのような姿勢で臨むかによって明暗が分かれるでしょう。リスキリングというとAIのスキルやリテラシーばかりに注目しがちです。ですが、AIによるアウトプットの良し悪しを判断するのは人間です。5Kマインドにも『教養』がありますが、AIを活用するということは、使う側の人間にそれだけの業務知識や教養が必要だということでもあるのです。デジタルトラストにおいても同様で、最後はAIを活用する企業側の総合的な人間力が問われるというところに、AI活用のポイントがあると思います」(國本氏)

Profile

國本知里氏
Cynthialy株式会社 代表取締役

早稲⽥⼤学⼤学院卒業後、SAP、AIスタートアップ等で事業開発に従事。AI特化のエージェント会社創業を経て、生成AIの社会実装を加速するためCynthialyを創業。企業向けの生成AI人材育成「AI Performer」、AI Transformation(AIX)事業を展開する。女性AI推進リーダーコミュニティ「Women AI Initiative」を創設したり、生成AI活用普及協会 協議員を務めるなど、生成AIの普及に取り組む。Business Insider「BEYONDMILLENNIALS 2024」受賞。

國本知里氏