【取材協力】早乙女 真(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部/アソシエイトパートナー)
アウトソーシングには、多くのメリットがありますが、デメリットもないわけではありません。まずは考えられるメリットを挙げてみます。
一方のデメリットは、以下のような点です。
「業務の標準化の手間」とは、「アウトソーシングの5つの形態」の「属人化の防止」で触れた内容に該当します。外部の事業者に業務を委ねるには、それが誰にでも分かる形に「標準化」されていなければなりません。しかし、それまで社内でいわば、暗黙知となっていた業務内容を整理し標準化する作業は容易ではなく、アウトソースすることのメリットより、その負担の方が大きく見えることがあります。
また、「ノウハウの蓄積が困難」とは、委託化した部分のノウハウを組織の中でためていくことが難しいことを意味します。「ガバナンスの弱体化」とは、業務が社外に出ることで、「目が届かなくなる」ということです。
しかし、これらのデメリットは、視点を変えればすべてメリットとなると早乙女氏は指摘します。
「業務の標準化は、その過程で無駄が顕在化し、業務をスリム化できるという点で、確実に企業のメリットとなります。同様に、何が"コアノウハウ(内部で蓄積し、競争力を高めていくもの)"で、何がそうでないのかが、アウトソース化する過程で明確になるケースもしばしばあります。ノウハウの中身を整理することで、より汎用的なものは外部に出し、より機密性の高いものは引き続き社内にとどめるという判断が可能になるわけです。また、アウトソーシングとは、外部事業者をパートナーとして起用する=企業対企業の取り引きの中で業務を進めることですから、むしろ意思や要望の伝達はしやすくなるとも言えます。ガバナンスが弱体化することにはあたらない場合が多いのです」
アウトソーシングは、今後、どのような方向に向かうのでしょうか。考えられるのは、次のような二つの方向です。
一つが、「すでにアウトソーシングしている業務のさらなる効率化(集約化)」です。従来、個々の業務単位として外部に委託していた複数の業務を結びつけたり、一方に一方を統合したりするなど、アウトソーシングの再設計が進んでいく可能性があります。
もう一つが、業務単位があまりに小さいため外部に出せるレベルではないと見なされていた、「小規模業務のアウトソーシング」です。たとえば、人員規模が2人程度の委託化でも、今後は容易になるでしょう。多くのアウトソーシング事業者が、複数企業の小規模業務を束ねることで業務を格段に効率化するノウハウを蓄積してきているからです。
このような"新しいアウトソーシング"を実現するためには、業務の単位・プロセス・人材配置を見直す「コーディネーター的視点」が不可欠になります。想定されるのは、たとえば次のようなモデルです(下図参照)。
従来は、部署ごとの要請で個別に外部委託していた業務を、まず取りまとめます。同時に、外部委託している業務を統括する「アウトソーシングマネジャー」というポジションを作り、上記で取りまとめた委託業務全体をそのマネージャーが見通せる仕組みを作ります。次に、外部の「アウトソーシングコーディネーター」と協力して、各業務をどう外部事業者に委ねるかを検討していきます。
こういった「アウトソーシングの再設計」の過程で、無駄が省かれ、より総合的で効率的な業務委託の体制が成立することになります。また、先に挙げたデメリットをメリットに変えることも容易になるでしょう。
アウトソーシングを一切活用していない企業は、現在、少数派となっています。アウトソーシングがここまで一般的な経営手法となっている今日、多くの企業が次に求めているのは、「アウトソーシングそのものの効率化」と言えます。今後は、コーディネーターの機能をもち、アウトソーシングをトータルで設計できる事業者の選択が、重視されていくのではないでしょうか。
profile
NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部/アソシエイトパートナー 大手コンピュータメーカーにて、さまざまなシステム構築・運用の現場を経験後、2000年より現職。ICT関連の経験を活かし、リスクマネジメントから上流工程支援まで幅広い分野のコンサルティングを手がけている。