労働力不足が進み深刻化するなか、人財を確保し今後の経済成長を支えるために「女性の登用、活躍推進」は国をあげての目標となった。
しかし肝心の女性管理職候補が育っていないという実態もある。
女性が管理職を目指すための真のマネジメントとは何かを探った。
2020年に指導的地位(管理職レベル)に占める女性の割合30%を達成する──。安倍政権が掲げる成長戦略の目玉のひとつが女性活用だ。政府が明記した20年に30%という目標を受け、経団連会員27社が女性役員・管理職の数値目標を公表した。
1986年の男女雇用機会均等法施行以来、仕事と育児の両立支援制度の整備が年々充実し、大手や外資系企業では女性社員の定着は徐々に進んできた。
だが女性管理職比率では部長相当職4.9%、課長相当職7.9%(図1)、国際的に見ても低い比率に留まるのが現状だ(図2)。制度が充実したにも関わらず、女性の登用や活躍がなかなか進まない理由はどこにあるのか? ニッセイ基礎研究所主任研究員の松浦民恵氏は、女性社員に立ちはだかる2つの壁の存在を指摘する。
「女性管理職・役員がなかなか生まれない背景には、見えないところでジェンダー・バイアスがかかっているからです。企業の中で特に目立つのは、一人前になるまでの20代の初期キャリア。同じ総合職でも男性とは微妙に仕事内容が異なるケースが少なくありません。例えば困難な仕事、面倒な仕事を女性に任せなければ、その女性社員が一人前になったときに、男性と経験値に差が生じ、スピード感やタフさで劣ってしまうのです」
これは上司からすれば女性社員への配慮ともいえるが、結果的には「ぬるま湯体質に慣れてしまう」「期待されていない、とやる気を失う」など、裏目に出てしまいがちだという。
これが初期キャリア時に立ちはだかる第1の壁とすると、第2の壁は育児期に立ちはだかる。「育児期が始まると、どうしても一時的に仕事をセーブせざるを得なくなりますが、このときどのくらいセーブするかでキャリアに相当差が出てしまいます。手厚い育児支援制度がある企業では1人目の子ども、さらに2人目と時短勤務を利用しているうちに、10年以上時短ということも。これでは、いくら生産性を上げて働くといっても、上司も育児中の女性に大きな仕事は振りにくく、割り振られる仕事の幅は狭まります。このような2つの壁があり、管理職候補となりえる経験値を持った女性が十分に育っていないというのが現実なのです」
多くの先進企業に女性活用研修などを行っているダイバーシティコンサルタントの藤井佐和子氏は「“管理職”に対するイメージにも問題がある」点を指摘する。「日本ではプライベートを犠牲にして『管理職=仕事第一主義』というイメージがあります。実際、周りの男性管理職を見ていると、仕事の拘束時間が長く『育児をしている自分にはとても無理』と女性社員は思ってしまう。今まで会社側も女性を管理職候補と意識して育成していませんし、また女性社員も入社時から管理職を目指している人が多いわけではありません。だから管理職を打診されると、戸惑いも大きく、辞退してしまう人もけっこういます。そこで残業を減らすなど、ワークライフバランス重視の働き方をどの会社も指向していますが、あまり進んでいないのが実態。長く会社にいて貢献した人が出世するという残業文化が根強く残っているからです。これらの事情が女性管理職登用の大きな障害となっています」
“残業文化” “男社会文化”というカルチャーが残るうえ、家事・育児分担が男性より圧倒的に多い女性は、そもそも不利な立場でキャリアを築かなくてはならず、管理職に対しても消極的になってしまうのが実態である。では、女性が不利にならないためのマネジメントとは、どのようなものなのか?
「初期キャリアにおいて、手加減や過度な配慮をせず、可能な限り男性社員と同じ仕事を割り当てるべきです。また育児期にはできるだけ早くフルタイムの勤務に戻りたくなるような職場の環境や雰囲気を作ること。そうすれば育休・産休期間中の遅れも早めにキャッチアップを図ることができます。重要なのは、20代のころに仕事のやりがいや目標とするキャリア像を醸成させ、女性社員が仕事に対して執念や欲を持てるようにすることです」(松浦氏)
新卒から数年の期間と育児のタイミングで、なんとか昇進への意識やモチベーションを高める戦略が人事部には求められる、と松浦氏。最近では育児休業・時短から通常勤務に早く戻すために奨励金を出したり、育休復帰のタイミングで女性社員の夫も研修に招き、会社での妻の貢献を説明、育児・家事分担を考え直し、協力態勢を築いてもらうなどの例もある。
「昇進へのモチベーションをすでに失ってしまった女性社員に対しては、次善の策としてキャリア研修で意識改革を行う必要があるでしょう。また優秀な管理職のもとで、OJTを懇切丁寧に行っていくことも効果的。活躍している女性管理職には、身近にロールモデルがいた、あるいは社長や会社から評価された経験などから、大きく成長を遂げた方もいます」(松浦氏)