雇用形態に限らず、多様化する働き方を考えたうえで、キャリアを開発・形成していくことが、これからの重要課題といえます。変化の激しい時代だけに未来の予測は困難で、具体的にどうなるかは誰にもわかりません。しかし、「働く人自身が変わらざるを得ない未来」は間違いなくやってきます。
近年、働く人一人ひとりの価値観やバックグラウンドの多様性が増しつつあります。フルタイム、パート、派遣、政府が普及を進めている限定正社員など、雇用形態は多角的に見直されています。それに伴い、在宅勤務や時短勤務など、個人の事情に合わせて働き方を選べる制度を導入する企業も増えています。
雇用形態に限らず、多様化する働き方を考えたうえで、キャリアを開発・形成していくことが、これからの重要課題といえます。変化の激しい時代だけに未来の予測は困難で、具体的にどうなるかは誰にもわかりません。しかし、「働く人自身が変わらざるを得ない未来」は間違いなくやってきます。
大事なのは、冷静に状況を把握し、柔軟に視野を広げて、変わる方向を見誤らないようにすることです。キャリアには正解も不正解もありません。まずは現状から目をそらさず、今何ができるのか、何をしたいのか、改めて考えることがキャリア自律の第一歩です。
とはいえ、キャリアの方向性を最初から一つに絞ることは難しいものです。「間違えたくない」というプレッシャーから逆に選べなくなり、この先の具体的なキャリアを描けない方も多いはずです。
そんな時には「することを決める」のではなく、「しないことを外す」、つまり消去法で考えるのも一つの手段です。個人の価値観と照らし合わせ、大まかなアウトラインを描き、そこからキャリアを描けば精神的な負担も減るでしょう。
もう一つ有効な方法は、近隣の知人や趣味の仲間など、顔見知り程度のゆるいつながりの相手(ウイーク・タイ)との交流です。利害関係がなく、相手の職業もさまざまですから、間接的に多くの働き方を知ることができます。同僚や取引先など仕事上強い結びつきのある相手(ストロング・タイ)とは、すでに濃密な関係があるため、ニュートラルな視点で判断ができません。つかず離れずの距離で付き合うからこそ、意外な情報や新たな気付きを得ることも多いのです。
ただ、個人的な意見として、家族の介護のために仕方なくキャリアを断念することはお勧めしません。介護サービスの利用にも費用は必要ですし、収入源は確保すべきです。介護と仕事を両立するためにプロの手を借りることも選択肢にあっていいのです。育児に関しても同様かもしれません。
キャリア自律の推進には、企業側のフレキシブルな支援も不可欠です。例えば、勤務地・職種・年代などの壁を越えた交流の機会を設けるのも有効な手段です。キャリアを考える時、ほとんどの人は、すでに知っていることを判断の基準にします。未知の仕事には不安や苦手意識があるため、慣れた職種や分野からキャリアを選択しようとするからです。しかし、今までのキャリアを活かすことだけを考えていたら、自分の可能性を狭めてしまいます。企業が、キャリア形成の幅を広げるために、多くの選択肢があることを働き手に伝えれば、キャリアの多様性を考える間接的なサポートになります。
さらに、働き方の多様化に伴う制度の整備と、働き手が慣習や平等意識にとらわれずに制度を利用できるよう働きかけていく企業の姿勢も必要でしょう。
profile
労働省(現・厚生労働省)を経て、ニッセイ基礎研究所に勤務しながら、2001年にお茶の水女子大学人間文化研究所博士課程修了。博士(社会科学)。東京大学助教授、ニッセイ基礎研究所上席主任研究員などを経て、2007年4月より現職。専門は人的資源管理、女性労働論。主な著書に『職場のワーク・ライフ・バランス』(日本経済新聞社、共著)、『雇用システムと女性のキャリア』(勁草書房)など。