スペシャル対談:厚切りジェイソン氏、アデコ株式会社 代表取締役社長 川崎健一郎

スペシャル対談 Why Japanese Work Style? これからの日本の働き方を考える テラスカイグローバルアライアンス部長 厚切りジェイソン アデコ代表取締役社長 川崎健一郎

2016年の日本は、女性や高齢者の活躍や、長時間労働の是正など、「働き方改革」が注目された1年でした。お笑いタレントとして、またIT企業の会社役員として日本に住み、働いている厚切りジェイソンさんと、アデコ社長の川崎健一郎が、日本人の働き方の課題や今後どう変わっていくべきかについて、語り合いました。

厚切りジェイソンさんは日ごろから日本人の考え方や日本企業の風潮について疑問を呈しておられますが、働き方についてはいかがでしょうか?

ジェイソン

働き方についても疑問はたくさんありますよ! いちばんフシギなのは「就職」や「採用」のあり方ですね。日本とアメリカでは全然違う。

アメリカでは、もしプログラミングをやりたいと思ったら、学生時代からその専門性を身につけなければ仕事に就けません。だから入社して即戦力になるし、社内にはそういう人ばかりが集まるので競争も生まれる。でも日本で就職というと、プログラミングとかマーケティングといった「仕事」を選ぶことじゃなくて、「会社」を選ぶことでしょ? 学生には専門性は求められず、入社した後にその会社のやり方を一から勉強する。合理的じゃないよ!

だから、日本とアメリカでは同じ新卒社員でも能力の差があるし、成長するスピードも違う。入社5年後の若手社員の仕事の経験値を比べると、アメリカと日本では非常に大きな差があるというのが僕の実感です。

川崎

なるほど。いわゆる総合職の採用については、そういう面もあるかもしれません。でも、日本でも技術職は学生時代からの専門性を求められると思いますよ。

ジェイソン

それでもアメリカとは違うと思います。日本は、同じ自動車メーカーでも、技術開発のやり方が会社によって違ったりする。日本では、技術者が数年おきにほかの会社に移ったりすることはないでしょう?

川崎

逆にアメリカでは、例えばGMにいた技術者がフォードやクライスラーに移るのは当たり前ということですね?

ジェイソン

そうです。アメリカではそれが普通。だから、みんな自分の専門分野だけに集中できる。雇用の流動性があるから、どこがいちばん自分を評価してくれるかを判断基準に、次々と企業を渡り歩いていく。

これは僕の解釈ですが、日本企業は社員に転職してほしくないのですか? 僕には日本企業が新卒一括採用をする理由もよくわかりません。

川崎

おっしゃることはわかります。背景には、会社をできるだけ長く存続させようという日本独特の考え方があると思います。新しい企業が次々生まれる国は、やはり消えていく企業も多い。日本の場合、創業100年、200年という長寿企業が世界的に見ても圧倒的に多い。それが人々の雇用を長く守ってきた面はあるし、だからこそ「仕事」や「事業」ではなく、「会社」を存続させるための次世代の人財を育てようとする傾向があるのだと思います。

ジェイソン

そのよさはわかります。でも、そのやり方が有効な業種とそうじゃない業種があるはずです。最近伸びている産業はすべて変化やスピード感が求められる。

川崎

たしかにITのような変化のスピードが速い業種は、経営の存続を優先して社員の個性より会社の指示を重視するような企業文化では追いつけないですね。

リスクをとらなければ
新しいビジネスは生まれない

川崎

ジェイソンさんがおっしゃるように、みんなが最初からその道のプロを目指していくのは素晴らしいことだけど、大学時代はコンピュータにまったく興味がなかった人たちが、一度社会に出たあとでIT業界を目指したくなることもあるでしょう。当社では、一度就職した経験のある29歳ぐらいまでの人財を採用して、専門性を一から身につける「セカンドキャリア」の育成プログラムに力を入れています。

自分の未来にとってどの道が正解かなんてわからない。だから就職してから別の道を目指してみたいという人に対して、それを支える社会構造があってもいいんじゃないかというのが私たちの思いです。ジェイソンさんから見れば日本的な発想に思えるかもしれないけれど、アデコはそれを支えられる存在でいたいと考えています。

ただ、雇用を守るはずの日本の企業文化が、リスクテイクできない社会を生み出しているとすれば、それは変えていく必要がありますね。人々のチャレンジが生まれなければ、新しいビジネスも、よりよい社会も生み出せない。

ジェイソン

最近、日本の大企業の出世の仕方を聞きました。20代で少しだけリスクをとって、成果を出す。そして、その後はなんにもしない(笑)。大きな失敗がなければ出世できるって。

川崎

それはちょっと極端な表現だけど、社内の主要部門で無難に仕事をこなしてきた人が順番に出世するといった発想は、たしかに以前はあったと思う。でも最近は日本企業も変わってきていますよ。

最近では、海外事業の立ち上げや不採算事業の立て直しなど、困難な事業に意識的に人財を配置して“修羅場体験”をたくさん積んでもらい、その中で将来を担う人財を見極めるようになっています。おそらくアメリカでも、社内のエリート層に難しいミッションを与えて育てていくような発想はありますよね?

ジェイソン

あります。ただ、日本の場合は「失敗したら終わり」でしょう?アメリカでは、失敗しても何らかの成長を認めてもらえるし、必ず再度チャレンジできる。その違いが大きい。

川崎

たしかに、結果を出せなかったらセカンドチャンスを与えないという会社は存在すると思います。しかし、それではチャレンジをする人が出てこなくなりますね。

日本にダイバーシティはない?
異なる考え方や価値観がもっと必要

政府や産業界が女性や高齢者の活躍を推進する中で、ダイバーシティ(多様化)が日本で注目されています。ジェイソンさんはどう見ていますか?

ジェイソン

いわゆる日本企業でのダイバーシティはまだまだ発展途上だと思います。例えば「女性の活躍」が進んでいるのはいいことですが、これはダイバーシティではありません。同じ日本人だし、同じ教育環境で育ってきた人たちだから、僕から見れば考え方もそんなに違わない。外国人も含めて、もっといろんな考え方や価値観、文化的な背景の違う人たちを集めないとダイバーシティとはいえないと思います。

川崎

逆に米国企業の多様性の度合いというのは、具体的にどうですか?

ジェイソン

アメリカはもともと移民の国という国家の成り立ちもありますが、文化も宗教も育ち方もまったく違う人が一緒に働いています。僕が最初の会社(GEヘルスケア)にいたときは、30歳ぐらい年上のロシア系の同僚がいました。少し苛立ちやすい人で、日本語で言うと「気難しい人」というんですかね。正直、僕も自分から付き合いたいとは思わないような人でした。でも、そういうバックグラウンドがまったく違う人たちが同じ仕事をしているからこそ、喧嘩にもなるけど、そこから新しい発想が生まれてくる。

そもそも人間は、同じ価値観の人と付き合いたいと思うものですよ。アメリカでも、仕事以外では自分に近い考え方の人と付き合うことが多いから、そこは日本と違わない。だから会社にダイバーシティがなければ、ほかでは実現しないと思います。

川崎

「働き方の多様性」という意味では、2016年は「副業・兼業」の議論が進んだ年でした。収入源を増やすというだけでなく、キャリアや能力の幅を広げたりするような副業や兼業を認めるべきだとして、政府も推進に動いています。我々アデコも、今までとは違った仕事にチャレンジする「パラレルキャリア」の推進に取り組みはじめました。

まさにジェイソンさんは、「お笑いタレント」と「IT企業の会社役員」という、まったく異なる2つのジャンルで活躍されていますね。

ジェイソン

はい。僕の場合も、この2つの仕事をすることで、ほかの人にはできないような専門性を生み出したいという思いがあります。

日本でも副業・兼業が進むのはいいことですけど、たぶん「今の仕事に支障のない範囲で」と言われるでしょう? その「支障」の意味が曖昧だから、どこまでなら認めてもらえるのかも曖昧で、なかなか副業も兼業も進みにくいのだと思います。

川崎

なるほど。おそらくアメリカでは、仕事で成果を出していれば、あとはどんな副業をしても問題ないという認識なのでしょう。日本で推進していくには、制度の整備はもちろん、職場の意識改革なども必要ですね。

日本はなかなか変わらないとおっしゃいますが、それでもジェイソンさんが日本で活動している最大の理由は何なのでしょうか?

ジェイソン

疑問や課題はたくさんあるけれど、やっぱり日本は好きです。今日話したことと矛盾してしまうんですが、日本人はみんなが同じ価値観を持っているから、物事がスムーズに進みやすい。電車の時間も正確だし、トラブルも少ない。日常生活については、日本は本当に住みやすい国だと思います。

ただ、多様性が少なくてなかなか変化しようとしないことは、ビジネスとしては絶対にダメ。理想なのは、日常生活はこのままで、ビジネスでは多様性や変化を取り入れて、新しいチャレンジやビジネスが生まれるようになることですね。

川崎

それは十分目指せると思います。日本では、和を重んじるという文化が人々の間にしっかり根付いている。これはジェイソンさんのおっしゃる日本の過ごしやすさの最大の理由だと思う。ビジネスのダイナミックさは弱いかもしれない。しかし住みやすい国という文化や美徳は残すべきですよね。

ジェイソン

オンとオフのスイッチのようなものがあればいいですね。職場での多様性はもっと広げて、ビジネスにおいて「出る杭」になるような人がたくさん出てくるといいと思います。

川崎

日本人は器用なので、スイッチのオンオフ、できると思いますよ。

ジェイソン

ぜひやってください!

profile
お笑いタレント兼
テラスカイグローバルアライアンス部長
厚切りジェイソン

1986年生まれ、アメリカ・ミシガン州出身。飛び級でミシガン州立大学入学の後、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校へ進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程修了。米GEヘルスケア、米国企業の日本法人支社長等を経て、2012年にテラスカイ入社。14年にお笑いタレントとしてデビュー。多くのテレビやラジオ番組、CM、舞台などで、幅広く活躍している。

profile
アデコ代表取締役社長
川崎健一郎

1976年生まれ、東京都出身。99年青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現VSN)入社。2003年事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、10年に代表取締役社長&CEOに就任。12年、VSNのアデコグループ入りに伴い、日本法人の取締役に就任。14年から現職、VSN社長兼務。

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