過去のことは振り返らず、少し先の未来と目の前の「今」に集中する。これがいい仕事をする秘訣。
ただ目の前のことに一所懸命だっただけ
僕は、何かに「挑戦しよう」と考えて作品を作ったことは一度もありません。後から振り返ってみて、「ああ、あれはチャレンジだったな」と思うだけです。
たとえば『風の谷のナウシカ』。あの作品を製作した頃、僕はまだ徳間書店の『アニメージュ』という雑誌の編集者でしたから、映画作りについて何も知りませんでした。ただ、宮崎駿という"面白い人" と出会って、「この人と映画を作ったら楽しいだろうな」と思って作った。それがあの作品です。大変なこともありましたが、多くの方が作品を観てくれて、ビジネスとしても興行的に悪くなかった。今思うと無謀な挑戦だったかもしれません。でも作っている時は、そんなこと考えていませんでしたね。目の前のことに一所懸命だっただけです。
『となりのトトロ』と『火垂るの墓』は、徳間書店の役員層に企画を通すのに苦労した作品でした。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』と、いわゆる冒険活劇を続けて製作したので、今度は違ったものを作りたかったんです。それだけだったのですが、どちらも地味な話だったので、「これじゃ客が入らない」と随分反対されました。しかし、宮崎駿と高畑勲がそれぞれ監督を務めたあの2作品が、内容も、同時上映という形態でも成功したことによって、ジブリ作品の幅はかなり広がりました。そう考えれば、あれもまたチャレンジだったのでしょう。