若年層の自己理解を深め、働くことへの内発的動機を高めるプログラム「IKIGAI Compass(いきがいコンパス)」とは

2024.07.11

「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」という日本におけるビジョンの実現を目指すアデコ株式会社では、働く人の内発的動機を高めるアプローチの一つとして、2022年9月より若年層向けのプログラム「IKIGAI Compass(いきがいコンパス)」の提供を開始。このプログラムは、若年層を対象に就職前の段階から自己理解を深め、生きがいや働きがいにフォーカスする機会を提供するもので、埼玉大学工学部や十文字学園女子大学の後期授業などでも導入されています。

「IKIGAI(生きがい)」のフレームワークを活かし、ロジカルにビジョンを明確化する

「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」というビジョンを掲げる背景には、人口減少に直面する日本において、人財のポテンシャルを最大限引き出すことにより労働生産性を飛躍的に向上させ、持続可能な社会の実現に貢献していきたいという想いがあります。2021年にアデコが実施した2,000人のビジネスパーソンを対象にしたエンゲージメントに関する調査によると、ビジネスパーソンの約50%が「仕事にやる気を感じていない」という回答でした。

 2021年にアデコが実施した2,000人のビジネスパーソンを対象にしたエンゲージメントに関する調査によると、ビジネスパーソンの約50%が「仕事にやる気を感じていない」という回答

この結果に対して、内発的動機を高めることで労働生産性を高められるのではないかという考えのもと、働きがいや生きがいアップのためのプログラムの開発がスタートしました。

開発の過程では、働く人の内発的動機が弱い要因について、「社会人になる前の段階から、働く意義について考える機会が乏しいのではないか」という仮説を立てました。開発チームのコアメンバーに新規学卒者を据えて仮説を基に議論し、就職前の学生にヒアリングを実施。その結果、全体の半数以上から「周囲の期待や情報に捉われて、自分の軸で人生の選択ができていない」という声が寄せられました。このことから、若年層を対象に働く意義や生きる意義について考える機会を提供し、働くことの内発的動機を向上させることを目的として、「IKIGAI Compass」の開発を進めることになりました。

「IKIGAI Compass」の特徴の一つは、英国出身の実業家であるMark Winn(マーク・ウィン)氏が提唱する「IKIGAI(生きがい)」のフレームワークの活用です。同プログラムの責任者である、 Academy事業部事業推進部 部長 矢崎亮平は語ります。

「『IKIGAI(生きがい)』のフレームワークは、『生きがいとは、好きなこと、得意なこと、社会が求めること、稼げることの4つの要素が合わさるところにある』と定義されています。ロジカルに、一つひとつステップを踏みながら、生きがいや働きがいを言語化することが可能です」

 IKIGAI Compassのコンセプト IKIGAI Compassのコンセプト

さらに同プログラムは、アクティブ・ラーニングの要素を取り入れることで自己理解を深めるために必要な力を鍛え、楽しみながら言語化を進められるように設計しています。

大学の講義では、学生達のユニークな回答が続出

「IKIGAI Compass」は、2023年9月から埼玉大学工学部や十文字学園女子大学の後期授業にも導入されました。埼玉大学工学部での導入の背景には、「学生達が大学で学んでいることが、実際に社会でどう役立つのかをイメージするのが難しい」という課題がありました。また、十文字学園女子大学では、社会情報デザイン学科2年生のキャリア教育の授業として取り入れられることになったのです。

プログラムではまず、「自分史」を紐解くことからスタート。自分自身にベクトルを向ける経験が少ない若者が多いことから、最初のステップでは自己理解のために必要な力を鍛えていきます。

 IKIGAI Compassのコンセプト 授業の様子

埼玉大学工学部の授業で教授を務める今井陽子(Academy事業部キャリアコンサルタント/GCS認定プロコーチ)はこう話します。

「プログラムでは『多角的に物事を感じる力(感受性)』、『物事を深堀りし、自分ごとにする力(深耕力)』、『ビジョンに基づく行動力(主体性)』の3つの力を育むトレーニングを行います。まずはステップ1で、『答えのない問い』のワークを通して『多様な考えがある』『自分が人と違ってもいいんだ』ということを体感して思考の柔軟性を高めた後に、ステップ2のグループディスカッションで他者理解、自己理解を深めていきます。ステップ3で、IKIGAIのフレームワークを使い、自分にベクトルを向けて自分の興味や関心、強みを明確化していきます。思考の柔軟性を高めてから、自己理解のフレームに進むことが、IKIGAI Compassの特徴です

たとえば、埼玉大学工学部の講義では、『答えのない問い』の問いで思考力を鍛えつつ、IKIGAIのフレームワークを使って、自身の『好きなこと』『得意なこと』『社会が求めていること』『社会にできること(稼げること)』を具体化していきます。『社会が求めていること』のパートでは、SDGsの専門家に登壇していただき、世界が抱えている大きな課題と科学技術の関わりから、それらを組織である企業はどのように実現しようとしているのかについて理解を深めました。その後に、『社会』を『社会→組織→個人』にサイズダウンして取り組みました。学生からは、『社会と自分はまだ繋がっていないと思っていたけれど、社会の一員であることを自覚した』『自分も埼玉大生として求められていることがあると理解し、目的をもって授業を受けたいと思った』などのレポートがありました。」

講義の最終日に行う「あなたの生きがいを生かしながら社会に貢献できることは何か」をテーマにした、1人90秒のスピーチについて、今井はこう振り返ります。

「どの学生も、ゲームや旅行、音楽やミュージカルなど、自分が好きなこと(興味や関心)と科学技術と掛け合わせてスピーチを行っていました。例えば、『旅行に行くなら"上に"行きたいですよね』と、宇宙旅行の低価格化を促進する部品の開発をテーマにした学生がいました。またコーヒー好きの学生は、『体に良い甘味料の開発し、コーヒーをより健康で美味しく楽しみたい』と語った学生もいました。思考力を鍛え自己理解を深めることで、好きなことが多角的に捉えられるようになり、学生達の視野が広がっていることを感じました。同時に、学生たちは『科学技術を使って社会に貢献ができる』ということにも気づくようになっていきました」

就職前から義務教育課程の学生まで、より幅広い層を対象としたキャリア教育支援を

講義終了後に学生に対して実施しているアンケートでは、講義前を100%として、「ビジョンの明確度」が156%、「感受性」が126%、「主体性」が130%、「深耕力」が114%と、高い効果を示す結果が得られています。

今井はプログラムを受講した学生のその後について、このように語ります。

「埼玉大学の学生からは、授業を受けたことで、『社会に出て働くのは意外と楽しいことなんだと気づいた』という声が多く寄せられており、将来を明るく捉えたことを嬉しく思いました。また、以前高校生が授業を受けたのちに、『やりたいことに気づいたので通信制の高校に転校した』『今はアメリカに留学している』という報告があり、行動力に驚いたこともあります。IKIGAI Compassを受けた学生の行動が、自分のビジョンに向けて変化していく姿が見られるのがとてもうれしいですね」

埼玉大学や十文字学園女子大学での「IKIGAI Compass」の講義は、今年も継続されることがすでに決定しています。今後の展開について、矢崎は言います。

「今後も就職前の学生達に向けては、学校におけるキャリア教育プログラムとして『IKIGAI Compass』を通じたキャリア形成支援を行っていきたいです。このVUCA時代においては、大学に限らず、専門学校や短大はもちろん、義務教育においてもキャリア教育が一層重要であることから、中学校などでも展開を進めています。また、すでに社会に出ている若手社員にとっても効果的なプログラムですので、さまざまなお客様とコラボレーションしながら、本プログラムを通じて、1人ひとりの躍動化に良い影響をもたらしていきたいと考えます」

矢崎 亮平

矢崎 亮平
Academy事業部事業推進部 部長

今井 陽子

今井 陽子
Academy事業部/キャリアコンサルタント