一方、ニューロサイエンスによって、定説が逆の意味で覆されたところもあります。例えば、リーダーシップというのは才能であって、素晴らしいリーダーは最初からその能力がある、と捉えられていました。しかし脳科学の研究によれば、脳には神経可塑性というものがあって、人の能力は固定されたものではなく、やり方によっていくらでも能力を伸ばせることがわかってきました。だとすれば、従業員の成長を促す仕組みをつくれば、それぞれのパフォーマンスが上がり、結果として組織の成長につながります。今後、ニューロサイエンスの知見が組織開発にもどんどん使われていくようになるでしょう。
以前は、「与えられたゴールに向かって競争環境のなかでとにかくがむしゃらに取り組み、負けてはいけないというストレスをかけることによって成果を出す」という考え方が仕事やスポーツにおいては主流でした。しかし、人材開発や組織開発の分野などでは、90年代の半ばくらいから、ひたすら同じようにがんばるだけよりも、むしろそれぞれのペースで自分なりに個性や強みを生かして工夫しながら、伸び伸びと取り組んだほうが結果的にいい成果に結びつくんじゃないか、失敗はむしろそこから学んで次に生かすことができる成長機会、という考え方がだんだん支持されてきました。実際に、そうした練習法で優れた結果を出してきたスポーツチームも少なくありません。ここ最近になり、従来経験的に効果があると見られてきたそうした方法論に科学的な裏付けが増えてきました。そのひとつがニューロサイエンスです。