津坂美樹氏
ボストン コンサルティング グループ
シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
ハーバード大学政治学部および東アジア研究学部卒業(Magna Cum Laude)。同大学経営学修士(MBA)。1984年、ボストン コンサルティング グループ(BCG)東京オフィスに入社。ニューヨークオフィスを経て現在に至る。消費財業界を中心に、幅広い業界に対してのプロジェクトを数多く手がける。BCGチーフ・マーケティング・オフィサー。BCGエグゼクティブ・コミッティ(経営会議) メンバー。
海外のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の最新事情や統計調査に詳しいボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクターの津坂美樹氏が、海外と比較した日本企業の多様性戦略の現状について自社で行った統計調査などからひもとく。
「20年以上前からダイバーシティに取り組んできた米国企業でも、インクルージョンの考え方は比較的新しく、この5年ほどで急速に普及したものです。『女性』『人種』『LGBT』などタテ割りだったダイバーシティ施策にいわば横串を刺し、より包括的な取り組みとして考えるようになっています」。BCGの津坂美樹氏はこう語る。
「人間の半分は女性ですから、多様性施策の中でも女性活躍の推進は成果が出やすいものです。しかし最近では、先天的な特徴による多様性だけでなく、私たちが“Strong Company”としてのダイバーシティに求める、後天的に身に付ける知識や経験などの多様性(図1参照)を取り込むことが重視されています。それが競争力の一層の強化につながることが各国のサーベイでも明らかになっているからです」
また海外では、IoTやAIなどテクノロジーの進化に対応した人財獲得競争が激化している。日本企業が、イノベーション的発想力を磨き、そのテクロノジーが世界で再び評価されるためには、人財の多様性を認めて生かすことが急務だ。
「日本はすべての企業がD&Iに取り組み、いわば国全体で“Strong Country”を目指す必要があるはずです。D&Iの施策は、実は大規模な投資は不要で、比較的コストがかからないものが多い。経営層をはじめ、あらゆる層の意識改革が成果を左右していることを、ぜひ認識していただきたいです」
BCGでは、社会的平等性や公平性に貢献するための“Good Company”としてのダイバーシティと、競争力・生産性を高めるために、多様性が有効に働くと考える“Strong Company”としてのダイバーシティの2つの考え方があるとしている。“Strong Company”としてのダイバーシティでは、先天的な特徴の多様性にとどまらず、後天的に身に付けた知識・経験、視点、能力を含めることが多い。
BCGが世界8カ国、1,700社以上の企業を対象にダイバーシティとイノベーションに関する調査を実施。ダイバーシティ対応が進んでいる企業とそうでない企業で、イノベーションによる売上の割合を調べたところ、前者が45%であるのに対し後者が26%。「性別や年齢、出身国だけでなくキャリアパスや教育など幅広い要素での多様性を調査した結果。多様性がイノベーション創出の原動力になることが明らかになったといえます」
BCGで日本の上場企業を対象に、女性役員の割合と企業業績の関係を調査したところ、女性役員が20%以上の企業と10%未満の企業では、EBITDA(金利・税・償却前利益)で7ポイント、ROEで4ポイントの差が出ることがわかった。女性が元気に活躍している企業は、業績も良いということだ。「女性活躍だけに限りませんが、会社ごとに人財の多様性に関する相応しいKPIを設定し、時間をかけて取り組んでいくべきです」
日本の職場における人財の多様性は外形的には進んでいる。しかし、その能力が十分発揮できていないのが課題だ。その原因の1つを示すのがこちら。男女のマネージャー間での認識のギャップを見てとれる。「女性活躍にとどまらず、コミュニケーションと相互理解がD&Iに欠かせません。女性から求められているのは比較的コストのかからないものばかり。有効な施策を取り入れるためにも、こうした声を経営層がしっかり吸い上げる仕組みも大切です」
津坂美樹氏
ボストン コンサルティング グループ
シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
ハーバード大学政治学部および東アジア研究学部卒業(Magna Cum Laude)。同大学経営学修士(MBA)。1984年、ボストン コンサルティング グループ(BCG)東京オフィスに入社。ニューヨークオフィスを経て現在に至る。消費財業界を中心に、幅広い業界に対してのプロジェクトを数多く手がける。BCGチーフ・マーケティング・オフィサー。BCGエグゼクティブ・コミッティ(経営会議) メンバー。