仕事の未来 組織 人財 数字で見るダイバーシティ&インクルージョン

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2018.04.26

海外のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の最新事情や統計調査に詳しいボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクターの津坂美樹氏が、海外と比較した日本企業の多様性戦略の現状について自社で行った統計調査などからひもとく。

タテ割りのダイバーシティ施策を、より包括的・横断的な取り組みに

「20年以上前からダイバーシティに取り組んできた米国企業でも、インクルージョンの考え方は比較的新しく、この5年ほどで急速に普及したものです。『女性』『人種』『LGBT』などタテ割りだったダイバーシティ施策にいわば横串を刺し、より包括的な取り組みとして考えるようになっています」。BCGの津坂美樹氏はこう語る。

「人間の半分は女性ですから、多様性施策の中でも女性活躍の推進は成果が出やすいものです。しかし最近では、先天的な特徴による多様性だけでなく、私たちが“Strong Company”としてのダイバーシティに求める、後天的に身に付ける知識や経験などの多様性(図1参照)を取り込むことが重視されています。それが競争力の一層の強化につながることが各国のサーベイでも明らかになっているからです」

また海外では、IoTやAIなどテクノロジーの進化に対応した人財獲得競争が激化している。日本企業が、イノベーション的発想力を磨き、そのテクロノジーが世界で再び評価されるためには、人財の多様性を認めて生かすことが急務だ。

「日本はすべての企業がD&Iに取り組み、いわば国全体で“Strong Country”を目指す必要があるはずです。D&Iの施策は、実は大規模な投資は不要で、比較的コストがかからないものが多い。経営層をはじめ、あらゆる層の意識改革が成果を左右していることを、ぜひ認識していただきたいです」

図1:ダイバーシティの切り口と意義 「切り口」の軸としては、後天的特徴(経験、知識、考え方など)、先天的特徴(民族、人種、性別など)がある。「意義」の軸としては、差別的待遇の撤廃、競争力向上がある。先天的特徴と差別的待遇の撤廃が重なった部分は、歴史的背景の中で取り組まれてきた“ダイバーシティ”→“Good Company”、先天的特徴・後天的特徴と競争力向上の重なった部分は、研究を通じて企業のパフォーマンスとの関係が立証されつつある“ダイバーシティ”→“Strong Company”として2つの考え方があるとしている

BCGでは、社会的平等性や公平性に貢献するための“Good Company”としてのダイバーシティと、競争力・生産性を高めるために、多様性が有効に働くと考える“Strong Company”としてのダイバーシティの2つの考え方があるとしている。“Strong Company”としてのダイバーシティでは、先天的な特徴の多様性にとどまらず、後天的に身に付けた知識・経験、視点、能力を含めることが多い。

図2:イノベーションによる売り上げの割合 ダイバーシティ対応が進んでいる企業のイノベーションによる売上の割合が45%であるのに対し、ダイバーシティ対応が進んでいない企業のイノベーションによる売上の割合が26%。

BCGが世界8カ国、1,700社以上の企業を対象にダイバーシティとイノベーションに関する調査を実施。ダイバーシティ対応が進んでいる企業とそうでない企業で、イノベーションによる売上の割合を調べたところ、前者が45%であるのに対し後者が26%。「性別や年齢、出身国だけでなくキャリアパスや教育など幅広い要素での多様性を調査した結果。多様性がイノベーション創出の原動力になることが明らかになったといえます」

図3:女性役員比率が変える企業の業績 日本では7ポイント増

BCGで日本の上場企業を対象に、女性役員の割合と企業業績の関係を調査したところ、女性役員が20%以上の企業と10%未満の企業では、EBITDA(金利・税・償却前利益)で7ポイント、ROEで4ポイントの差が出ることがわかった。女性が元気に活躍している企業は、業績も良いということだ。「女性活躍だけに限りませんが、会社ごとに人財の多様性に関する相応しいKPIを設定し、時間をかけて取り組んでいくべきです」

図4:女性と男性が考える”個人の事情への配慮”の優先順位 女性マネージャーが優先順位4位とする項目に対して男性マネージャーは優先順位28位、女性マネージャーが優先順位4位とする項目に対して男性マネージャーは優先順位26位と考える
図5:日本企業における女性の活躍推進のために必要と考える取り組み 取り組みと女性マネージャー/シニアマネージャー(大半が男性)が認識する優先順位 “時短勤務が可能” 女性マネージャー1位/シニアマネージャー(大半が男性)9位。“法律で定められている以上に育児休暇を取れる” 女性マネージャー2位/シニアマネージャー(大半が男性)5位。“柔軟な勤務時間と勤務場所” 女性マネージャー3位/シニアマネージャー(大半が男性)4位。“上司やチームが各社員の個人的な事情を配慮する” 女性マネージャー4位/シニアマネージャー(大半が男性)28位。“勤務時間を柔軟に変更できる(個人的な事情がある場合など)” 女性マネージャー5位/シニアマネージャー(大半が男性)26位。“CEO/経営陣による女性活躍推進の目標設定/公表” 女性マネージャー6位/シニアマネージャー(大半が男性)1位。”社内の女性リーダー/ロールモデルの姿の見える化/発信“ 女性マネージャー7位/シニアマネージャー(大半が男性)20位。”緊急時の託児支援“ 女性マネージャー8位/シニアマネージャー(大半が男性)22位。“男女平等な評価・昇進プロセスを設計するための意識的な取り組み” 女性マネージャー9位/シニアマネージャー(大半が男性)14位。“育児休暇中の社員に対する適度な連絡の実施/復職者へのサポート” 女性マネージャー10位/シニアマネージャー(大半が男性)10位。(出所)BCG「グローバル・ジェンダーダイバーシティ調査 2017」

日本の職場における人財の多様性は外形的には進んでいる。しかし、その能力が十分発揮できていないのが課題だ。その原因の1つを示すのがこちら。男女のマネージャー間での認識のギャップを見てとれる。「女性活躍にとどまらず、コミュニケーションと相互理解がD&Iに欠かせません。女性から求められているのは比較的コストのかからないものばかり。有効な施策を取り入れるためにも、こうした声を経営層がしっかり吸い上げる仕組みも大切です」

Profile

津坂美樹氏
ボストン コンサルティング グループ
シニア・パートナー&マネージング・ディレクター

ハーバード大学政治学部および東アジア研究学部卒業(Magna Cum Laude)。同大学経営学修士(MBA)。1984年、ボストン コンサルティング グループ(BCG)東京オフィスに入社。ニューヨークオフィスを経て現在に至る。消費財業界を中心に、幅広い業界に対してのプロジェクトを数多く手がける。BCGチーフ・マーケティング・オフィサー。BCGエグゼクティブ・コミッティ(経営会議) メンバー。