阿部 淳一
アベ ジュンイチ
人事部 チーフプロデューサー
入社以来、生活者・消費者行動分析を中心としたマーケティング戦略立案に関するコンサルティングに従事。2011年8月より、日本最大規模の3万人、2,000設問の生活者情報を蓄積し企業マーケティング担当者に提供する「生活者市場予測システム(mif)」の開発と運営を担当する。現在はmifデータを用い、日本人のライフスタイル変化を分析し情報発信を行う。
2000年以降に成人となった若年層を指す「ミレニアル世代」。どのような価値観や労働観を持っているのか。企業におけるマネジメントや人財教育の対象として見た場合、どのような特徴があるのか。三菱総合研究所による「生活者市場予測システム(mif)」の調査結果(2011~2017年)を踏まえ、三菱総合研究所 営業本部 チーフプロデューサー 阿部淳一氏、プラチナ社会センター 研究員 劉瀟瀟氏に語っていただいた。
「ミレニアル世代」とはもともと米国で登場した世代呼称だ。具体的には1980年以降、2000年前後までに生まれた世代で、現在38歳以下。日本においてこれに近い世代といわれるのが、いわゆる「ゆとり世代」で、1987年以降に生まれた現在31歳までの年齢層を指す。本稿ではこの世代を日本の「ミレニアル世代」として、その特徴を見ていこう。
この世代は一般に、バブル崩壊後の急激な景気低迷期に育ったことと、生まれた時にはすでにネットが普及していた“デジタルネイティブ”であることが特徴だと捉えられることが多い。大企業が相次いで破綻する様子を見ながら育ち、未来に明るい希望を抱いていない。その一方で、リーマンショック後の過去最悪の就職難を過ぎてから成人しているので、絶望的な体験にも乏しい。何もしなくてもそこそこ生きていけるため、良くも悪くも「未来を良くしよう、変えていこう」というインセンティブが弱いといわれる。
また2011年に18%だった20代のスマートフォン(スマホ)の普及率は、17年には78%にまで達した。多種多様なアプリやネットサービスがあふれ、コミュニケーションはもちろん、レジャーやショッピングなどすべてのライフスタイルがスマホで完結する。行動範囲が狭くなり、70代よりも出不精な世代、と呼ばれるほどだ。実態はどうなのだろうか?
「もちろんこれらの側面はありますが、ミレニアル世代全体をステレオタイプ的に捉えることには注意が必要です」
三菱総合研究所営業本部チーフプロデューサー、阿部淳一氏はこう語る。
「価値観の多様化が進み、同じ世代の中でも明らかに異なる考え方や行動特性を持つグループが混在しているのが大きな特徴です。それが、この世代を捉えどころがないと感じる一因かもしれません。一般的な世代論が通用しにくい世代だという点はぜひ認識しておく必要があります」
では、具体的にどんな価値観のグループが多いのだろうか。
三菱総合研究所がこの世代の基本的な価値観を7タイプに分け、その比率を調べたところ、図1に示したように、過去7年間で「無気力あきらめ派」と「積極派」に顕著な変化が見られた。20代男性では、無気力あきらめ派の割合が19%から34%へと大幅に増加した一方で、積極派の割合は22%から16%へと減少した。変化幅はやや小さいが20代女性の傾向も同様で、無気力あきらめ派が増え、積極派が減っている。また、図2・図3に示す働き方に関する考え方の調査では、仕事と家庭、どちらもホドホドに取り組む「ホドホド派」が最も大きな割合を占めている。しかも過去7年で大幅に増加している。
このように統計全体で見ると、前向きな姿勢が乏しい世代のように見える。
「しかし、比率が相対的に小さいとは言え、積極派が2割弱存在することは見逃せません。この世代の積極派は、出世意欲や起業意識が強いと同時に、家族との団らんや地域ボランティアにも非常に前向き。これは『家庭生活を犠牲にして仕事をがんばる』という旧来の世代には見られない特徴で、ゆとり世代はみんなテンションが低いなどと捉えていると見誤ってしまいます」(阿部氏)
女性の場合はさらに複雑だ。
「ライフコースが多様化したため、独身女性、DINKS女性、DEWKS女性、専業主婦のいずれかによって、同じ世代でも価値観が明らかに異なります。女性の場合は特に、世代論よりもライフコースを丁寧に見ることのほうが重要です」と、ミレニアル世代女性のマーケティング分析に詳しいプラチナ社会センター研究員、劉瀟瀟氏は話す。「私らしく生きていきたい」という願いが強く、自分の「場」を作ることには積極的な一面もあるため、セグメントにより大切にするものが違う傾向がある。
もう一つ、覚えておきたいのがこの世代の「情報感度」に関する特徴だ。マーケティングでよく知られる「イノベーション理論」の5分類で見ると、図4に示すように、積極派は「イノベーター」と「アーリーアダプター」が計3割近くに達し、無気力あきらめ派は「アーリーマジョリティー」が4割以上を占める。
つまり、積極派は圧倒的に情報感度が高く、また無気力あきらめ派は「流行に出遅れたくない」という思いから、身近な先行事例に飛びつく追随志向が強いといえる。
「インフルエンサーマーケティングはこの傾向を捉える試みですが、企業におけるマネジメントや人財育成にも活用できるのではないでしょうか。まず積極派の社員に働きかけ、彼らが職場におけるイメージリーダーの役割を果たすようになれば、無気力あきらめ派の社員がそれに追随し、社内全体の変革機運が高まると期待できるからです」(阿部氏)
こうした状況に対応する意味でも、組織のフラット化や職場コミュニケーションの見直しなどはますます重要になりそうだ。
「無気力あきらめ派は職場のストレスに弱く、昔ながらの社内の上下関係が苦手な人が多いのです。情報感度はそれなりに高いので、外資系企業ではフラットな組織風土が定着していることは彼らもよく知っています。その意味でも、この世代は上司が部下を動かそうとする縦の関係性より、同世代の横の関係性を活用して、共感や同調によって動かすほうが効果的ではないでしょうか」(劉氏)
また、積極派はワークライフバランスを重視していることから、フレックスタイム制度、在宅勤務制度など企業の人事施策に対する感度が高く、同時に転職願望も強いと阿部氏は言う。働き方改革に取り組んでいない企業は、積極派から去られてしまう可能性があるのだ。
「人事施策にもマーケティングが必要な時代が到来したのだと思います。世代を一律に平均値で捉えるのではなく、多様な価値観や個々のライフコースに注目して、きめ細かな人事施策、教育研修が求められていくのではないでしょうか」(阿部氏)
阿部 淳一
アベ ジュンイチ
人事部 チーフプロデューサー
入社以来、生活者・消費者行動分析を中心としたマーケティング戦略立案に関するコンサルティングに従事。2011年8月より、日本最大規模の3万人、2,000設問の生活者情報を蓄積し企業マーケティング担当者に提供する「生活者市場予測システム(mif)」の開発と運営を担当する。現在はmifデータを用い、日本人のライフスタイル変化を分析し情報発信を行う。
劉 瀟瀟
リュウ ショウショウ
プラチナ社会センター 兼 地域創生事業本部 地域づくり戦略グループ研究員
中国人の深層意識のきめ細かい理解とともに、日本人の価値観・意識・行動を研究。生まれ育った中国にて日本法人に勤務。東京大学大学院、三菱総研での研究を踏まえ、中国の動きを客観的・理論的にわかりやすく解説。中国在住同世代との豊富なネットワークとインタビュー取材等を通じ、中国マーケット動向の「今」を発信している。また、3万人生活者予測システムmifを用いて、日本消費市場を研究し、情報発信する。