内藤博之氏
ピープルブランドマーケター
株式会社パスウィーヴCEO
多国籍企業ユニリーバで日本、インド、シンガポールを拠点に、ブランドマーケティングを10年間リード。2015年に独立し、マーケティング思考を応用した人財ブランド育成と活躍を支援する株式会社パスウィーヴを起業。30業界以上の力に。キャリアコンサルタント(国家資格)、立教大学GLP兼任講師、慶應義塾大学SFC研究員。
企業の寿命よりも、働く人の労働期間が上回るともいわれる「人生100年時代」。その中でビジネスを発展させるには、一人ひとりが自身のキャリア形成に意識的に取り組むとともに、次世代を担う人財を育成することが重要だ。ではどのように、自身のキャリア形成を考え、企業は個人を育てていけばいいのか。「ヒントはライフキャリアの発想にある」と説く、人財育成の事業を手がける内藤博之氏に聞いた。
「新卒の就職活動では、自分の人生のビジョンが求められる一方で、その後のキャリアでは、今までの専門性に特化した経験だけが評価されたことに疑問を抱きました」
こう話すのは、10年間のマーケティングのキャリアを生かし、人財育成・活用支援事業に携わる株式会社パスウィーヴ創業者の内藤博之氏。グローバルブランドマーケターとして活躍していた頃、あるヘッドハンターに、「マーケターであれば、CMO(Chief Marketing Officer)になることが成功の証。そのためには、他業界でマーケティングの経験を積まなければならない」と諭された。
ただ、自分が実現したいのは、「人の自己実現を後押しすること。だからこそ、今まで本業外の活動で学生のキャリア支援をしてきた」。そう自身のビジョンを伝えると提案されたのは、若い世代向けの商材を扱うマーケティング職ばかり。自分の市場価値はマーケティングという枠の中にしかないのだと気づきました」。
個性やビジョンを持つことが重要だと言われているのに、現実ではキャリアチェンジの機会や支援に偏りがあるのではないかと考えた内藤氏は、「出身業種や職種の固定観念の枠にとらわれずに、キャリアの可能性をひろげ、新しい可能性に挑戦できるようにしたい。人の見えない価値をブランディングすることで、自己実現を後押しし、一人ひとりが持つ価値や力を顕在化できないか」。そう試行錯誤して、人それぞれの価値と未来像を可視化する「パスウィーヴサークル」という独自の手法を編み出した。
この手法が今までのキャリアビジョンの手法と異なる点は、未来へ続く"線"ではなく"円"であること。「人生100年時代のキャリア形成では、みんなが出世を目指すような勝ち負けの発想だけでは行き詰まります。長い人生を、どう自分らしく歩んでいくか。仕事だけではなく、社会、生活、趣味を含めたライフキャリアの発想で形成していくと、主体性が高まり、企業の成長へ貢献しながら、自己実現をしていく人財になっていくのです」と内藤氏。
「優劣ではなく、個々の価値観や能力や適性は違うということを示すべき」と考え、仕事、社会、生活、趣味の4つを軸に据えた円でキャリア形成を考えられるようにしたという。描き方は簡単。円の外枠に具体的な活動や興味関心事を記入し、楽しい・好き・挑戦したいといった「ワクワク度」が高いものを外側へ配置する。
パスウィーヴサークルを描いたことで、20代の開発職の男性は現職と自分の未来がつながっていることに気づいた(図1左参照)。自分と社会のために行っていた「勉強会運営」が、その先のビジョン「教育関係・後進育成」を実現するための布石だったこと、そして、今のアプリ開発の仕事を通してもそのビジョンを実現できることが明確になり、仕事への意欲が高まったという。
また、30代の技術職の男性は、未来に目を向けたところ、社内外の相談役や人と人をつなぐ役割への興味関心が浮きぼりになった。(図1右参照)「これは会社にとってはネガティブな情報ではありません。むしろ、今のタイミングで管理職へ昇進すると非常に能力を発揮するでしょう」と内藤氏。「こうして、4つの軸から活動を整理すると、その人が何に好奇心やモチベーションを持つのか、今後はどこに進みたいのかが、自然と見えてきます。視覚化されることで、その人のビジョンを周りが共有できるのも価値の一つです」
社員のライフキャリアに耳を傾ける重要性を理解しても、実際に取り組む機会を作るのはハードルが高い場合、どうしたらいいのだろうか。内藤氏が、ライフキャリアの視点で、社員それぞれが持つ力を理解するためのもう一つの手段として推奨しているのは、「原動力、貢献意欲、人生への本音」を聞く質問だ(図2参照)。将来の夢ややりたいことを聞くだけでは、難しくて本音はなかなか出てこないという。
「今のミレニアル世代を理解できないという先輩世代の人たちの声を耳にしますが、若い世代と接していて感じるのは、やる気がないわけではないということ。ただ、"競争"という価値観に馴染まない人が増えてきているだけなんです」と内藤氏。競争好きなミレニアル世代もいると言及した上で、「競争意欲が原動力ではない彼らを紐解くキーワードは"夢中になること"」だと分析する(図3参照)。「好きなことや得意なことに夢中になる人が多いと感じます。夢中になると、生産性が高くなったり、新しい発想が生まれたり、企業の成長の原動力となります。今後、企業側に求められることは、「社員が夢中になれること」と「企業の事業」をどうシンクロさせるかだと説く内藤氏。
「優秀な人財であっても、企業で成果を出す人財になるとは限りません。ただし、成果を出してもらうように働きかけることはできる。そのための第一歩が社員一人ひとりのライフキャリアを把握して、業務内容を近づけてあげることです。そうすることで、社員のパフォーマンスが向上するだけではなく、会社へのエンゲージメントも高まります。一見、遠回りのように見えて、持続可能な人財戦略といえるでしょう」
内藤博之氏
ピープルブランドマーケター
株式会社パスウィーヴCEO
多国籍企業ユニリーバで日本、インド、シンガポールを拠点に、ブランドマーケティングを10年間リード。2015年に独立し、マーケティング思考を応用した人財ブランド育成と活躍を支援する株式会社パスウィーヴを起業。30業界以上の力に。キャリアコンサルタント(国家資格)、立教大学GLP兼任講師、慶應義塾大学SFC研究員。