働き方 インタビュー・対談 仕事の未来 人財 落合陽一氏 若い世代の発想がイノベーションにつながる道を閉ざしてはいけない

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2018.10.25
落合陽一氏 メディアアーティスト/筑波大学准教授/ピクシーダストテクノロジーズCEO

科学者にして、教育者にして、アーティスト──。
ジャンルと国境を股にかけて活躍する当代きっての才人は、デジタルネイティブ世代をどう見ているのだろうか。
ミレニアル世代までを視野に入れた独自の「若者論」を落合陽一氏が語った。

──大学での研究・教育、企業経営、アート制作、書籍執筆と八面六臂の活躍を続けていらっしゃいます。一日どのくらい働いているのですか。

どのくらいだろう? 今日は朝7時からミーティングをして、7時半から取材を受けて、9時、10時にそれぞれ会議があって、そのあとアート制作をして……、それから何をやったかな(笑)。夜は10時から取材。そのあと書籍の編集会議が2本あって、家に帰って寝るのは2時半ごろになると思います。睡眠時間は3時間から4時間くらい。もうかれこれ3年以上こんな生活をしています。

──これからの時代は「ワークライフバランス」ではなく「ワークアズライフ(人生やライフスタイルと仕事の一体化)」を提唱されています。まさにそれを実践されているということですね。いろいろな分野を横断しながら、働きつつ、遊びつつ、充実した生活を送る──。そんなスタイルがこれからの若い世代では当たり前になっていくのでしょうね。

そう思います。とはいえ、個人の特性や能力にもよるのではないですかね。若い世代でも、1つの仕事をコツコツやりたいという人は必ずいるはずですから。

──1990年代前半生まれのデジタルネイティブ世代の特性をどう見ていらっしゃいますか。

僕が1987年生まれですから、僕より5歳くらい年下の人たちですよね。僕の研究室にいるのがそのくらいの人たちですが、正直、それほど大きな世代間ギャップがあるとは感じていません。
もちろん、みんなパソコンとの親和性は高いのですが、僕も8歳か9歳くらいでパソコンを使い始めていますから、その点で特に差はありませんね。

逆に、わりと古い価値観の人も多いように思います。
例えば、学生からよく「どうやったらいい企業に就職できますか?」という相談を受けたりします。「それ、俺に聞く?」という感じですが(笑)。ずっと不況下で育ってきて、物心がついたころにはGDP は中国に抜かれていて、10代でリーマンショックを経験して、という世代ですから、どうしても安定志向になってしまうのだと思います。

──なるほど。デジタルネイティブ世代を「デジタル」という切り口だけで見てはいけないのですね。

ええ。こと日本においては。日本ならではのデジタルネイティブという視点が必要だと思います。

僕自身がギャップを感じるのは、今20歳前後の人たちですね。スマートフォンがはじめから身近にあった「スマホネイティブ世代」です。
スマホ以前と以後には大きな断絶があると僕は考えています。その最大の理由は、スマホでは海外発のアプリやプラットフォームを使うことが当たり前だからです。スマホ時代になって、日本のミクシィはフェイスブックに完全に負けてしまいました。若い子たちは、フェイスブックを米国のサービスだとは考えずに日々使っています。

これが何を意味するかというと、この世代では、国内と海外、あるいは日系企業と外資系企業という区分けが感覚的になくなってきているということです。就職するときも、日本企業だろうが外資系だろうが、自分に合った会社をごく自然に選択するのだと思います。

──デジタルネイティブ世代が新卒として企業に入社するようになっています。今後、スマホネイティブも含めた新しい世代の人たちの力を企業の組織力に結びつけていくには、どうすればよいと思われますか。

「思想訓練」をやめるべきだと思います。僕は大学で教育を実践していますが、高等教育の場でやるべきことは、自分で評価基準をつくる力を身につけてもらうことだと考えています。小中高のように誰かがつくった評価基準に合わせるのではなく、自分で何をやるかを決め、それに対する評価基準を自分で定め、それを自分で達成していくということです。このやり方についてくることができる学生は多くはありませんが、ついてきた学生は確実に自分の思考を解放し、既成概念から自由になることができます。

これからの大学に求められているのが、既成概念を脱する教育であることは間違いありません。しかし、一方の企業教育の柱が、これまでのように新入社員を会社の枠にはめる思想訓練のままだとしたら、必死になって抜け出した殻に若者をもう一度閉じ込めることになってしまいます。 もちろん、仕事に必要な専門的技能を身につける訓練は必要だと思います。でも、思想訓練はもうやめたほうがいい。若い世代の発想がイノベーションにつながる道を閉ざしてしまうことになるだけですから。

──デジタルネイティブ世代に期待することは何ですか。

デジタルツールが使いこなせるのはもはや当たり前なので、そのスキルを磨きながら、アートとか教育とか学術とか、とにかくいろいろな分野に活動領域を広げていってほしいですね。
若い世代はもっともっとフットワークを軽くしていっていい。僕はそう思っています。それが仕事の選択肢を増やしていくことにも確実につながるはずです。

──企業の人事部への期待もお聞かせください。

相性が合わない企業に就職してしまう人がとても多いと僕は常々感じてきました。
それは企業にとってもその人にとってもデメリットでしかありません。入社前の時点で、いかに上手にマッチングを実現させるか。それが課題ではないでしょうか。例えば、SNSに何を書き込んでいるかを見れば、その人の人格をおおむね把握することができます。
それはごく初歩的なAI活用でできる分析ですから、ぜひ実践すべきではないでしょうか。

Profile

落合陽一氏

1987年東京都生まれ。筑波大学情報学群情報メディア創成学類、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学学長補佐・准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤長、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。次世代のコンピューター技術を開発するピクシーダストテクノロジーズ株式会社のCEOも務める。
著書に『日本再興戦略』(幻冬舎)、『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『魔法の世紀』(PLANETS)、『10年後の仕事図鑑』(SBクリエイティブ、堀江貴文氏との共著)などがある。自身で撮影した作品を集めた写真集を近日出版予定。