組織 働き方 エンプロイー・エクスペリエンスを実践するうえで、知っておきたい心得と事例

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2019.01.30

従業員のエンゲージメントに寄与するといわれているエンプロイー・エクスペリエンス。では、人事部門が自社に取り入れる際、何からどう始めればいいのか。職場の業務改善や働き方に詳しい沢渡あまね氏に聞いた。

EXを目的化してはいけない

「エンプロイー・エクスペリエンス(EX)はプロセスであり、その結果として生まれるのが、従業員エンゲージメントです」と語るのは、複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」や「業務改善プロジェクト」などのアドバイザーを務める沢渡あまね氏だ。

「EXは従業員エンゲージメントを高めると期待されているため、その必要性が注目されています。働き方改革が日本企業において推進されるなか、働き方改革を広義に捉え"ビジネスモデル変革"だと考えている企業は、人事施策にとどまらず、経営戦略と捉えて、働き方の変革を進めています」

このように、EX成功のカギを握るのは、経営戦略まで目線を上げられるか否かだと諭す沢渡氏。大事なのは、一部署で推進しようとするのではなく、例えば、人事部門などの管理部門が旗振り役となり、他部署を巻き込みながら社内で連携して進めていくことが望ましいと説く(下図参照)。

図:人事部門は他部署をつなぐプロデューサーになる 人事「従業員エンゲージメントを高めよう!」 経営×人事「前向きにチャレンジしたことを評価したらどうだろう」、「ワクワク働けるような業務内容にするためにビジネスモデルを見直そう」 広報×人事「仕事のやりがいを広報誌で紹介しよう」 総務×人事「社内の会話が生まれるような空間はどうすればつくれるだろう」 情報システム×人事「ムダな業務をITで減らせないか考えてみよう」

人事部門は、EX推進のプロデューサー役へ

EXを実践するうえで知っておきたい心得と事例の詳細は右頁に委ねるが、沢渡氏は、「連携の旗振り役、つまりEX推進のプロデューサー役として適任なのは人事部門」だと強調する。なぜなら、EXに欠かせない"従業員目線"の情報が人事部門に集まりやすいためだ。

「従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員の目線に立った施策が必要不可欠です。職場環境の不満を課題に変えて、快適な環境を整えること。次に、どのような経験を積むことで、その従業員が成長できるかを考えること。その結果、従業員の生産性や成長意欲が向上していくのです」

これまでの人事部門は、制度設計や運用管理が主な業務だったが、今後は、社内のEX 向上のために他部署との協働など、創造的な業務を増やすことが求められるだろう。

心得1 ビジネスモデルから議論する 職場環境を改善しようとすると、自社のビジネスモデルを根底から見直す必要に迫られるときがある。その場合は、一部署だけで解決しようとせず、経営層を巻き込み、議論することが重要だ。 経営層×人事部門ができること ビジネスモデルと従業員エンゲージメントがともに向上できるような変革を考える。 EX向上のアイデアを出した部署が認められるような評価制度に刷新する。 事例1 人事部門の採用課題から、ビジネスモデル変革へ 課題:営業人財不足で悩んでいた企業では、飛び込み営業やテレアポ営業が、従業員の定着率を妨げていた。 対策:経営者は従来のプッシュ型からプル型の営業手法に変革。自社の製品を体験できるショールームを社内に設置して、お客さまに足を運んでもらうことを促した。 結果:「ショールームに集客するイベント企画」「お客さま同士のコミュニティ構築」など、従業員が自主的にさまざまな企画を実施。従業員のエンゲージメントが高まり、定着率も改善した。
心得2 自社の人的資源を可視化する 従業員が仕事にやりがいを見出せない理由の一つに、自身の仕事の価値を認識できていないことがある。普段、注目されてない職種だとなおさらだ。そうした職種にも平等に光を当て、仕事の価値を可視化することが、従業員エンゲージメントを高めていく。 広報×人事部門ができること 社内報のような媒体を通じて、さまざまな職種の価値やロールモデルとなる人財を紹介することで、自社の人的資源を可視化する。 事例2 社内報を活用し、職種の魅力を紹介 課題:製造現場で働く職人たちの活躍が、全社に共有されていない。 対策:ヤマハ発動機では、製造現場で働く社員にフォーカスした特集を社内報で連載。仕事へのこだわりや入社してから今までの成長を、プロのライターの取材により言語化し、プロカメラマンの撮影により質の高い誌面に仕上げて紹介した。 結果:取材対象者は、本人すら自覚していなかった仕事の価値に気づき、誇りを見出した。今では、他の工場から「ウチも取材に来てほしい」と依頼が来るほど、人気連載になっている。
心得3 従業員目線で、職場環境を創る 「オフィスでは気軽に言いたいことが言えない」というような不満をそのままにするのは好ましくない。コミュニケーションの量は、従業員エンゲージメントと相関関係にあるためだ。例えば、会話が自然に生まれるようなコミュニティスペース、集中する時間を確保するためのワークスペース、勉強会を開催できるような食堂など、用途や目的のニーズを従業員から聞き出し職場環境を改善していくことが大切だ。 総務×人事部門ができること 人事部門は、「社内のコミュニケーションを増やしたい」「一人で集中する時間を確保したい」というような声を従業員から拾い上げる。 総務は人事部門と連携して、従業員のニーズをくんだオフィス環境を考える。
心得4 快適なIT環境を整える 現代は日常生活で、快適なIT環境を享受しているため、職場が古いIT環境のままでは、従業員のストレスになる。IT化の恩恵を受けられないことで、業務効率が落ち、活躍の機会が制限されれば、従業員の成長意欲は育ちづらい。なぜなら、IT化に投資しないということは、従業員の成長にも投資しないのと同義だと思われてしまうからだ。 情報システム×人事部門ができること 従業員にどのようなITスキルを習得してほしいかを議論し、成長意欲を高められるようなIT環境に刷新する。 IT化でムダな業務を減らして、従業員の生産性を向上させられるよう努める。

Profile

沢渡あまね氏
業務改善・オフィスコミュニケーション改善士

1975年神奈川県生まれ(東京都品川区在住)。早稲田大学卒業後、日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。著書に『働く人改革~イヤイヤが減って、職場が輝く! ほんとうの「働き方改革」』がある。