濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)。
2019年は働き方改革関連法が施行され、これまで3年以上議論してきた働き方改革が本格的な実行段階に入ると同時に、新たな政策課題として浮上した外国人労働者と高齢者の雇用拡大に取り組んでいく――。日本の雇用・労働にとって大きな節目の年として記憶されることになるかもしれない。
法整備の過程では労働者の保護が議論の中心となったが、企業が取り組むうえでは生産性向上につなげる発想が欠かせない。創業時から働きやすい魅力的な職場づくりに力を入れているスタートアップ企業が日本でも増えており、改革に出遅れた企業は人財獲得競争でも劣勢に立たされていく。
2019年に注目されるトピックスのなかから、企業とそこで働く人はどんなことに留意するべきか。雇用・労働の専門家に話を聞いた。
2019年以降の日本の労働市場を大きく変えることになりそうなのが、19年4月の改正出入国管理法(入管法)施行に伴う外国人労働者の受け入れ拡大だ。具体的には「特定技能」という在留資格を新たに設け、人手不足が顕著な業種を中心に受け入れを拡大する。
「これまで日本では、外国人の入国管理を労働政策として明確には位置づけていませんでした。今回の法改正により、外国人労働者を真正面から受け入れる方針に舵を切ったのは極めて大きな政策転換であるといえます」(濱口氏)
日本で働く外国人は約127万人(17年10月末時点)にのぼると見られ増加傾向にあるが、増えているのは働きながら技能を身につける「技能実習」や、留学生のアルバイトなど、就労目的以外で入国した人々が中心だった。
しかし今回の法改正により、初めて単純労働を目的とした外国人の受け入れが認められることとなった。新設された在留資格「特定技能」には2種類ある。一つは、最長5年の技能実習を修了するなど、相当程度の知識・経験を要する技能を持つ外国人に与えられる「1号」資格だ。もう一つは、より高度な試験に合格し熟練した技能を持つ外国人に付与される「2号」資格。こちらは条件が厳しい分、1~3年ごとに在留期間を更新でき、しかも更新時の審査を通過すれば更新回数に制限がない(図参照)。
政府は今後5年間で、1号資格で最大34万5150人の受け入れを想定している。人手不足に悩む業種の企業にとっては労働力を確保しやすくなるという意味で朗報だ。これまで最大5年で帰国してしまっていた技能実習生が、より長く働き続けることが可能になる。技能実習生を多く活用してきた地方企業に恩恵があるとの見方もある。「特定技能1号と2号で在留可能期間は異なりますが、実際には一度日本で就業したら当分帰国しない人々が大半となるはず。それを前提として、家族の生活も含めてフォローするような総合的な支援策が求められます」
外国人にとって魅力ある就労先となるような企業努力も欠かせない。これまで日本では、外国人労働者の受け入れを人件費コスト削減策の一つとして捉える企業が多かったが、経済成長に伴い新興国の賃金水準は上昇している。同時に、世界的な労働人口の減少傾向もあり、これまで低賃金での外国人就労を前提としてきた企業は、ビジネスモデルの転換を求められていくことが想定される。
濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長
東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)。