片岡裕司氏
株式会社ジェイフィール取締役
組織開発コンサルタント
多摩大学大学院 客員教授
1974年生まれ。アサヒビール株式会社、同関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。株式会社ジェイフィールに設立から参画し、組織開発やミドルマネージャー向けの研修講師を中心に数多くのプロジェクトを担当。
著書に『なんとかしたい!「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』(日本経済新聞出版社)がある。
生産年齢人口が年々減少し、シニア世代の活躍推進が急務となる一方で、
多くの企業はいまだにシニア社員を生かすマネジメントを実行できていない。
では、どのようにシニア社員の活躍を後押しすればいいのか。
ジェイフィールの組織開発コンサルタントである片岡裕司氏にマネジャーが知っておくべき心得を聞いた。
約10年以上にわたりシニア社員の活性化を支援してきた、組織開発コンサルタントの片岡氏は、シニア社員の意欲を引き出すには、シニア社員を一括りに捉えるのではなく、違いを理解したうえで、目標設定を促すことが大切だと説く。
片岡氏によると、シニア社員はおもに次の3 つのタイプに大別できるという(図1参照)。
ポストオフタイプ | 職人タイプ | のんびりタイプ | |
---|---|---|---|
特徴 |
・元管理職(役職定年後、一般職に) ・基本能力は高いが、現状では発揮できていない |
・限定された専門性を持つ ・異動経験が少ないと、過去のやり方にこだわってしまう |
・現状に不満なし ・期待される役割よりも低レベルの業務であっても、本人は会社に貢献していると思っている |
陥っている課題や悩み |
・特に「年下上司」とのコミュニケーション不全が起きやすい ・本人はアドバイスしたつもりが、問題児のレッテルを貼られている |
・専門性が発揮できない部門に異動させられている ・専門性が時代の流れで陳腐化し、本人の付加価値が低くなっている |
・積極性に欠ける ・自分自身と向き合ったことがない ・何事も流れに任せる結果オーライ主義 |
効果的なアプローチ法 | ・目標を与えず、自分で考えさせる | ・専門性が陳腐化する前に、部門異動や再教育の機会をつくる | ・多様なキャリアの選択肢を提示する |
「『ポストオフタイプ』の元管理職は仕事への意欲はもともと高いのですが、プライドが邪魔をしてしまい、年下の上司とのコミュニケーションが上手くいかない傾向にあります。例えば、アドバイスのつもりで提案したことを年下の上司には『いつも反発してくる問題児』と受け止められてしまうことも。
こうした関係性の問題から、やる気を失ってしまうのがポストオフタイプのシニアです」と片岡氏。このタイプを活性化させるには、自ら目標を設定してもらうことが重要なのだという。
「役職定年を迎える前になったら、この先、達成したい仕事や課題をプレゼンしてもらうといいでしょう。どのように活躍したいのか、自分で意思決定してもらうのです」
一方、「職人タイプ」の場合は「専門スキルの陳腐化」「柔軟性の低下」など、まわりから低評価を受けたことがきっかけで、意欲の低下を招く。「対応策としては、専門性を1つに絞らずに複数掛け持ちする『Wジョブ』のような制度の構築や週1 日は別の部署で働く『社内副業』の推進などを通して、専門性や柔軟性を磨ける環境を提供するといいでしょう。そのためには、目標も挑戦的なものが効果的です」
「のんびりタイプ」の人たちはどうだろうか。「もともと仕事への意欲が低いため、シニアになってから意欲を高めるのは難しいでしょう。とはいえ、自身の興味関心に近い分野と重なれば、変わる可能性があります。『やりたいことがない』と言われても、チームのビジョンを語り、課題を共有し、『どうしたらいいと思うか』を一緒に考えていくといいでしょう」
各々のタイプに応じた目標設定をした後は、シニア社員に自発的に動いてもらうための働きかけが重要だ。「シニア自身がつくってしまった心理的な壁(図2参照)、つまり、意欲的に働けないネガティブな気持ち(図のふきだし)を理解して、ポジティブな気持ちへ転換させるような対応が求められます」と片岡氏。
「例えば、図2のふきだしにある『今さら成長なんて……』というネガティブな気持ちに対して、言葉のまま受け取るのではなく、『本当は職場で重要な仕事に取り組みたいと思っているはず。ただ、プライドが邪魔して、自分からやりたいと言いだせないのではないか』と察してあげられるかどうかで、シニアのやる気は変わってきます。有能なマネジャーであれば、『〇〇さんしかできないよ』と成長の機会を与え、意欲を引き出すことができるでしょう」
シニアの心情に寄り添うスキルは、フィードバックするときにも求められる。「多くのシニアは、年下の上司から褒められたいとは思っていません。『〇〇さんのおかげです』と感謝されるほうが喜びます。そのうえで、『もっとできる方なので、ぜひお願いします』と期待されたら、さらに意欲が高まるでしょう」
「企業の人事担当者から、『シニア社員はモチベーションが低い』と聞くたびに、『では、シニア社員の活躍を期待し、そのための策を講じていますか』と逆に問いたくなります」と指摘する片岡氏。シニア社員を戦力化できていない企業の多くは、「このような組織で、こんなふうにシニア社員に活躍してもらいたい」というビジョンを持ち合わせておらず、若手への積極的な育成と対照的に、シニアの活躍推進に対しては、場当たり的なのだという。
「人手不足が叫ばれるなか、人財の採用や定着に課題を抱えている企業は増えています。特に、若手社員への採用・育成に惜しみなく投資する企業は後を絶ちません。ですが、残念ながら小手先の対応では効果はあまり期待できないでしょう。なぜなら、今の若手社員は、長く社員を大事にしてくれる企業かどうかをシビアに見ているからです」
片岡氏によると、シニア世代が元気でない企業は若手の離職率も高く、女性も活躍していない傾向にあるという。「子育て期や老年期も安心してき続けられる土壌を整えることは、人生100年時代に企業が良い人財を確保するための重要な経営戦略になるでしょう。図3の『シニア社員の意欲を高める5つのステップ』を参考に、シニア社員の育成も強化してほしいです」
片岡裕司氏
株式会社ジェイフィール取締役
組織開発コンサルタント
多摩大学大学院 客員教授
1974年生まれ。アサヒビール株式会社、同関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。株式会社ジェイフィールに設立から参画し、組織開発やミドルマネージャー向けの研修講師を中心に数多くのプロジェクトを担当。
著書に『なんとかしたい!「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』(日本経済新聞出版社)がある。