堀 公俊氏
日本ファシリテーション協会 フェロー
組織コンサルタント。大手精密機器メーカーで商品開発・経営企画に携わったのち、2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立、初代会長に就任。研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ファシリテーション・ベーシックス』『ビジネスフレームワーク』『問題解決フレームワーク大全』(以上、日本経済新聞出版社)など多数。
働き方改革が進む一方で、管理職への業務のしわ寄せや現場の疲弊感など課題は多い。そこで重要になるのが、従業員一人ひとりの力を引き出す組織づくりだ。
組織開発におけるアプローチのなかでも、ファシリテーションの有用性に注目が集まっている。
「今、組織のあり方は大きく変化しています。不確実性が高い社会になり、いろいろな価値観を持った人たちと仕事をするのが当たり前になりました。
そこで、チームを強く引っ張るリーダーシップではなく、チームを一つにまとめるファシリテーターシップがより重要になってきています」
日本ファシリテーション協会のフェローとして活躍する組織コンサルタントの堀公俊氏はこのように語る。
組織が成熟しない時代には、強いリーダーシップが必要だった。しかし組織内のメンバーが、それぞれに異なる能力を持ち、多様な価値観を持つようになると、旧来の指示型のリーダーシップは機能しなくなる。
個人の自律性を支援し、メンバーの相乗効果を生かして高い成果を生み出すことが新しい時代のリーダーに求められている(図1参照)。
先導型リーダーシップ | 管理型リーダーシップ | ファシリテーション型リーダーシップ | |
---|---|---|---|
適用環境 | 大きな変化が必要なとき | 組織が安定状況にあるとき | 絶え間ない変化が必要なとき |
上位者の役割 | 組織の方向づけをする | 目標を達成するシステムをつくる | 場(関係性)を築き、協働を促進する |
下位者の役割 | モチベーションを高める | 与えられた役割を全うする | 自律的に問題解決を図る |
人を動かす手段 | ビジョン・戦略(What) | 計画・構造(How) | 意味・関係(Why) |
組織の考え方 | 意思決定のピラミッド型の連鎖 | 知的相互作用のネットワーク | |
コミュニケーション | 権威的・官僚的 | 民主的 | |
組織システム | 専制的・固定的 | 流動的 |
出典:『ファシリテーション入門』(堀公俊著、日本経済新聞出版社)、組織を動かす3つの働きから作成
「2019 年ラグビー・ワールドカップで活躍した日本代表チームも、フィールドの外では、話し合いや対話を通してチームを一つにまとめるために徹底的にファシリテーションの考え方を活用していたといわれています」
ファシリテーションは、元々「促すこと」「円滑にすること」といった意味を持つ言葉だ。「モノカルチャー(単一的文化)の日本では、あなたと私は同じで『話さなくてもわかる』で済ませてきたところがあります。
しかし多様化が進み、これからはあなたと私は違う人だということを前提に仕事をしていかなければなりません。話し合いの重要性が高まっており、それに伴ってミドルマネージャーは、メンバーの出す答えを最良の成果に導くためのファシリテーターのスキルが必要です」と堀氏は指摘する。
メンバーの意欲や能力を引き出すには、まずは自分たちにとって、安心して対話ができる場をデザインすることから始まる。
たとえばチームでの会議を例にあげると、まず参加する人数は少ないほうが対話は促されやすい。知識やスキルがかぶらないように多様な人財で構成する。場のセッティングも重要だ。会社の会議室のようにロの字型をつくるのではなく、参加者の距離を詰めるなど気楽に話ができるようにするだけで、参加者の安心感は増す。
「最初から活発に意見交換するというのは無理な話です。始めるときには話しやすい話題でアイスブレイクを設けること。また、否定されるようなことを言われるとそれ以上意見を言いにくくなるものです。『人の意見は否定しない』などのルールをつくっておくことも有効です。
そして、相づちなどのリアクションも大切。相づちを打たれると、話しているほうには『自分の話を聞いてもらっている』という安心感が生まれます。こういったことに気をつけるだけで、対話は見違えるように活性化します」と堀氏は語る。
今は、結果が即座に求められる時代だ。しかし、業績などの結果はチームという土台に乗っかるもの。チームが一つにまとまっていなければ、結果はおぼつかない。ファシリテーションを活用したチームづくりにおいて、以下の3つのステップを試してほしいと堀氏は言う。
1つ目は、チームの人間関係を円滑にするために「お互いを知る」ことだ。2つ目は「共通の目標を立てる」。同じ目標がチームの核となる。そのうえで、3つ目として「お互いを助け合う」経験を重ねることが重要だという。そして、仕事の区切りのたびに「振り返り」を行うことで、チームを高めていくことができる(図2参照)。
あるチームメンバーを思い浮かべてください。その人の、出身地、趣味、家族構成など「知っていること」をできるかぎりたくさん書き出してみてください(制限時間3 分)。
「出身地は東京」「家族構成は両親と弟1人」「サッカーが趣味」「夏休みは毎年海外旅行に行く」……。多く書けた人でも10個程度ではないだろうか。チームメンバーについて知っていることは意外に少ない。自分のことを積極的に伝え、相手について聴ける場をつくろう。互いの価値観を認め、信頼し合える関係づくりが第一歩だ。
チームには柱が必要。対話を通して、メンバーが一つになれるような共通の目標をつくる。「売上何億円」といった数値目標ではなく、気持ちに訴えかけるような目標が好ましい。
目標の例
お客さんの笑顔が見たい!
●●支店には負けない!
世界で最初の商品をつくる!
「応援できることない?」などと声をかけ、助け合う経験を実際にすること大切。事実確認、課題、提案の3つの視点から、相手に声をかけるとスムーズ。
事実確認
「どう、最近仕事はうまくいってる?」
課題
「どんなことで悩んでいるかな?」
提案
「私にできることはない?」
プロジェクトが終わったときなど、仕事の区切りで振り返りをする。目標を達成したかどうかではなく、「助け合いが十分に行われたか」などチームのあり方を振り返ると、次のプロジェクトに役立つ。
「ボランティアや趣味のサークルなど社外の集まりには、社内以上にさまざまな考え方の人たちが集まっています。あえて会社の外に身を置いて、ギャップを感じるような経験をすることで、社内でのふるまい方や接し方が違ってきます。こうした所に参加することも、合意形成力や問題解決力の訓練になります」と堀氏は言う。
生産性向上に不可欠な要素がチームワークだという堀氏。メンバー一人ひとりが「自律性」を発揮し、さらに互いを助け合う「協働性」を兼ね備えてこそ、チームは活性化する。
「不確実性が増すなかで、活性化されたチームこそ一番普遍的なものです。それを実現するのが、ファシリテーター型リーダーの役割になるでしょう」
堀 公俊氏
日本ファシリテーション協会 フェロー
組織コンサルタント。大手精密機器メーカーで商品開発・経営企画に携わったのち、2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立、初代会長に就任。研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ファシリテーション・ベーシックス』『ビジネスフレームワーク』『問題解決フレームワーク大全』(以上、日本経済新聞出版社)など多数。