組織 仕事の未来 ニューノーマル時代の働き方とマネジメント

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2020.10.20
ニューノーマル時代の働き方とマネジメント

経営環境が大きく変化し、ビジネスモデルの転換が求められるニューノーマル時代。
働き方を再定義し、ポジティブな変化を組織に浸透させるために、何が必要か。
働き方やマネジメントのあり方はどう変わるべきか。働く個人に求められることは何か。
デロイト トーマツ グループ アソシエイトディレクター田中公康氏に、同社の調査レポートを踏まえて語っていただいた。

パーパス(目的意識)をベースにした自律支援型のマネジメントへ

デロイト トーマツ コンサルティングが2020年7月に公表した「新型コロナウィルスに対するワークスタイル及び課題対応調査」によれば、今後の働く場所のあり方について、回答者の70%が「出社」と「在宅」のハイブリッドを希望していることが明らかになった。

前出のアデコグループの報告書とほぼ同様の結果だ。企業側も、ハイブリッドを志向するとの回答が半数以上にのぼっている(図1参照)。

図1会社の方針として、出社と在宅を併用することが想定されており、個人としては半数以上が在宅勤務を主軸とすることを希望している

分類 項目 調査結果
働く場所のあり方と、インフラ・セキュリティに関する取り組み 職種ごとの在宅・出社頻度
  • 在宅と出社のハイブリッド(※)を志向する企業が半数以上となっている。 ※ハイブリッド:週2以上の在宅勤務と出社を併用すること
  • 一方で、専門・技術職については、35%程度の企業が週5出社を想定している。
会社として設定している出社率の目安・期限 現時点で設定されている出社率の目安は、出社率40~60%未満が30%と最も多い。
リモートワーク実現のためのインフラ整備状況
  • Web会議システムについては、94%の企業が既に導入している。
  • 一方で、今後導入予定で優先度が高いものとして、24%の企業が外部契約時の電子署名を挙げている。
リモートワークの実施・拡大に伴うセキュリティ面の課題と取り組み
  • 46%の企業が、リモートワークの実施・拡大に伴い、サイバー攻撃の脅威が増したと感じている。
  • 30%以上の企業が、セキュリティ組織や業務プロセスの見直し、及びセキュリティ監視の強化を既に実施している。今後実施予定の企業も多い。
働く場所に関する取り組み ソーシャルディスタンスを考慮したオフィスレイアウトへの見直しに加え、40~50%程度の企業が、サテライトオフィス活用オフィススペース縮小・移転を検討している。
個人として希望するワークスタイル 回答者の70%出社と在宅のハイブリッドを希望している。また、原則在宅勤務を希望する人も10%いる。

出典: デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 2020年7月「新型コロナウィルスに対するワークスタイル及び課題対応調査第3回速報レポート」を元に作成

日本でもリモートワークが当たり前の働き方になるので、一人ひとりが自分の裁量で勤務時間や仕事のやり方を決めていく時代に自ずと向かっていく。リモートワークが難しいとされるエッセンシャルワーカーの仕事も、AIやロボティクスなどテクノロジーの活用が広がり、単純に人が手を動かす領域はどんどん減っていくはずだ。

「その意味で、今後はあらゆる業種・職種の人々に、クリエイティブに新しいものを生み出したり、既存の業務をより高度化したりするような姿勢が求められます。自律的に自分の働き方やキャリアを考えていくことが必要で、企業側もそれを支えるようなマネジメントや制度設計が重要になります」

ワークスタイルが変われば、マネジメントスタイルも見直しを求められる。前述のデロイト トーマツ コンサルティングの調査では、81%の企業が「リモートワークにおける新しいマネジメントスタイルの確立」を課題として挙げている(図2参照)。

図2リモートワーク下でのマネジメントスタイルの確立が目下の課題となっている

分類 項目 調査結果
リモートを前提とした働き方における働き手のあり方 従業員に関する課題・取り組み
  • 81%の企業がリモートワークにおける新しいマネジメントスタイルの確立を課題として挙げている。その他、自律的組織・働き方への移行、新しいコミュニケーションスタイルの確立といった、リモートを前提とした従業員の働き方の確立に対して過半数の企業が課題認識を持っている。
  • 50%程度の企業が、アウトプットや従業員状況などの可視化に取り組みたいと回答している。
労働力確保に向けた今後の取り組み
  • RPA、AIに代表される機械化の取り組み、次いでアウトソーシング・ギグワーカー等の社外リソースの活用に着目している企業が多い。

出典: デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 2020年7月「新型コロナウィルスに対するワークスタイル及び課題対応調査第3回速報レポート」を元に作成

これまでメンバーシップ型雇用が定着してきた日本では、「いつ、誰が、どこで、どんな仕事をしているか」を組織として把握・管理しようとするケースが多く、上司も部下に対しマイクロマネジメントに陥りがちだった。ところが、リモートワーク環境ではこのマネジメントが機能しにくくなっている。

今後は「業務の見える化」を進めるとともに、パーパス(目的意識)をベースにした自律支援型のマネジメントにシフトすることが求められると田中氏は話す。

「仕事を『what(何をやるか)』『how(どうやるか)』『why(なぜやるか)』の3要素に分けたとき、見える化によって『what』は明確にしたうえで、『how』については個々のメンバーの裁量に任せることが重要です。リモートワーク環境では『how』に上司が細かく関わるのは現実的ではありません。

上司は今後、『why』にフォーカスしたマネジメントを意識すべきです。
なぜこの仕事をするのか。それは会社のビジョンや社会に提供する価値とどう結びついているのか。目的意識を浸透させることで部下の主体性・自律性を引き出し、モチベーションを高めていくようなマネジメントスタイルが求められるでしょう」

デジタルツールの活用をマネジメントスタイル見直しの契機に

テレワーク環境における生産性向上のためには、デジタルツールの活用も欠かせない。デロイト トーマツ グループでは、デジタルツールの利活用を通じて、距離や時間といった物理的制約を可能な限り取り除き、生産性の維持・向上につなげるような働き方を「スマートワーク」と呼び、推進している。

同社の調査結果では、すべての職種・役職の階層において生産性を維持・向上したと回答した企業(131社中37社)は、それ以外の企業に比べ、IT環境や制度の整備だけでなく、会議ルールの見直しやオンラインでのコミュニケーション・業務ガイドラインを策定し、浸透を図っていることが明らかになっている。

生産性の向上のためには、単にデジタルツールを導入するだけでなく、マネジメントスタイルやワークスタイルの変革の契機にすることが重要だと田中氏は話す。

「例えば、社内の会議は大別すると『情報共有』『意思決定』『議論』の3つの機能があります。このうち『情報共有』は必ずしも会議でやらなくても、チャットツールで代替することが可能です。『意思決定』を仰ぎたい場合も、事前に関係者にチャットで承認を得ておけば会議の時間を大幅に短縮化できるでしょう。従来の会議機能のすべてをオンライン会議に移行する発想ではなく、これを機に会議自体を見直し、より効率的な方法がないかを検証していくのです」

同様に上司と部下の間の『ホウ・レン・ソウ』も、長文メールで行うよりチャットツールのほうが効率化できるケースが多い。デジタルツールを導入すると同時に、社内コミュニケーションを最適な形で組み立て直すことで、効率化されるだけでなくコミュニケーションの質も高まり、互いのストレスを軽減できる。

「出社信仰」が揺らぎ、働き方に対する価値観が大きく変わる

今般のコロナ禍は私たちに「働く意味とは何なのか?」という大きな問いを投げかけたと田中氏は指摘する。

「これまでの日本では『働くこと=会社に行くこと』という出社信仰が根強くありました。しかしウイルス感染に対する不安感が広がり、自分や家族の健康を損なうリスクを負ってまで出社する意味があるのか、こういう生き方や仕事のあり方でいいのだろうかと、深く考えた人は多いと思います」

一方で、リモートワークが広がり、自分のライフステージに応じて生活環境を変えることも可能になりつつある。

「プライベートも充実して、結果的に働くことに対するマインドセットもポジティブになっていく。公私ともに充実させるような生き方、働き方にシフトしていく一つのきっかけになるかもしれません。

これは企業側にとっても大きな投げかけです。今後は個々人が最適な就労環境や勤務形態を選べるようにして、働くことについての制約をなくすような制度設計が求められていく。これは社員の多様性を受容し、自律性を育成するためにも必要なことだと思います」

Profile

田中公康氏
デロイト トーマツ グループ アソシエイトディレクター

外資系コンサルティングファーム、IT系ベンチャー設立を経て現職。Digital HRとEmployee Experience領域のリーダーとして、デジタル時代に対応した働き方改革や組織・人材マネジメント変革などのプロジェクトを多数手掛けている。
直近では、HRテック領域の新規サービス開発にも従事。講演・執筆多数。LicensedScrum Master保持者。

田中公康氏