仕事の未来 インタビュー・対談 働き方 “シェア”をする生き方で、人生が豊かになる。 シェアリングエコノミー伝道師 石山アンジュ氏

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2021.03.09
“シェア”をする生き方で、人生が豊かになる。 シェアリングエコノミー伝道師 石山アンジュ氏

「シェアリングエコノミー」とは、インターネットを通じて個人と個人がつながり、さまざまなものをシェアする新しい経済の動きのこと。個人間のつながりは「共感」や「信頼」によって広がっており、複数の肩書きを持って働いたり、自分が持っている場所やスキルをシェアして収益を得たりするなど、この新しい概念はコロナ禍で急速に浸透している。 “シェア”をする生き方には、どんなメリットがあるのか。私たちの働き方にどんな変化をもたらすのか。シェアリングエコノミー伝道師として、マルチな分野で活動する石山アンジュ氏に話を聞いた。

コロナ禍という大きなリスクに直面し、人々の価値観が変化

──場所をシェアする、仕事をシェアするといった「シェアリングエコノミー」の動きは、2020年のコロナ禍以降、どのように変化しているのでしょうか。

「シェアリングエコノミー」という概念は、2016年頃から日本でも普及し始めました。コロナ禍においては、シェアリングエコノミーの業界も大きな影響を受けたといっていいと思います。お客様と接触してサービスを提供するような対面型ビジネスや、民泊やスペースを貸し出すようなインバウンド観光客を対象としたビジネスは、一時的に影響を受けました。

一方で、オンライン上でのモノの売買、仕事のマッチングや食事のデリバリーなど、非対面型のサービスは伸びるケースもありました。

また、これまでシェアサービスを利用する側だった人が、テレワークにより時間ができたために副業を始めるなど、サービスを提供し収入源とするケースも増えました。コロナ禍をきっかけに社会全体でオンライン化が進んだことが追い風となり、シェアサービスの裾野が広がっていると感じます。ニューノーマルな生き方、働き方の受け皿として、シェアサービスへの期待はどんどん高まっています。

──新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大という大きなリスクと直面したことで、人々の考え方や価値観が変化しているということですね。

シェアサービスが広がっている背景の1つとしては、現在のようなリスクと共存することが前提の社会に対する不安があります。この先、景気も後退するかもしれないなかで、1つのサービスや1つの会社に依存することへの不安がある。あるいは、都市集中型の消費スタイルやライフスタイルに不安を覚えている人が増えているように思います。

感染リスクを避けるために、あるいはテレワークの普及により、都心ではなく地方に住む、公共交通機関を利用せずにカーシェアを利用する、カフェではなく限られた人だけが利用するシェアオフィスを活用する、1つの収入源に依存せず複数の収入源を確保するなど、半所有・分散型のライフスタイルを実現したいと考える人が増えました。その新しい仕事のスタイルやライフスタイルを実現するための手段として、シェアサービスの活用が増えていると思います。

収入源は労働だけではない。自分の資産を深掘りしてみよう

──副業を始める人が増えているなかで、仕事の内容や選び方に変化はありますか?

オンライン上でできる仕事やフリーランスといわれる働き方は、いわゆるホワイトカラーの職種がメインだったと思います。その傾向は今もそれほど変わっていないものの、シェアリングエコノミーが浸透してきたことで、仕事の選択肢の幅や、利用する年齢層は格段に広がっています。例えば、部屋を宿泊場所として貸し出すサービス「Airbnb」でも60~70代の人が活躍しているケースもありますし、学びのシェアサービス「ストアカ」では外食産業で働いていた人がリタイアしてから、オンラインで包丁の研ぎ方レッスンを流したところ人気になり、書籍まで出版されたというようなケースもあります。

また、家事サービスのニーズの高まりにより、料理や整理整頓など、得意な分野を生かしやすくなりました。シニアや子育て中のママが活躍できる受け皿になっています。

──副業をしたいけれど、自分にはスキルがない、どうやって稼げばいいかわからないという方もいます。

まずは、自分の持っている「時間」「スキル」「場所」「経験」などを必要としている人とマッチングするようなシェアサービスがたくさんあることを知ってほしいと思います。また、私が事務局長を務めるシェアリングエコノミー協会では、自治体と連携して、その地域にいながら副業をしたい、スキルを身に付けたいと考えている人に対して、セミナーや教育、オンラインで仕事を受注するところまでをサポートするような取り組みを推進しています。

また「働く」というイメージを変えることも大切です。多くの人が労働の対価を得ることが働くことであると考えていると思います。でも、例えばメルカリで物を売って収入を得る、空いている部屋を貸し出して民泊で収入を得るというように、遊休資産や経験、知識も手段の1つであり、「生活のなかで稼ぐ」といった働き方が誰でもできるようになってきました。

企業の研修に伺うと、「自分は営業職だから、営業しかできません」などと思い込んでいる方が多いのですが、実は深掘りしてみると、編み物が得意、韓国語が話せるなどのスキルを持っていることがありますよね。今の1つの肩書きや職種に絞らずとも、さまざまなジャンルのアセットをインターネットを通じて人の役に立たせることができ、結果的に収入を得ることができます。ぜひ、発想を広げて考えてみてほしいなと思います。

複数の組織に所属することで、幅広い視点で自己を評価できる

──石山さんは会社員を経て、今は複数の仕事を組み合わせて働く「ポートフォリオワーカー」です。そのような働き方は生活や考え方にどんな変化をもたらしたのでしょうか。

今、シェアリングエコノミー協会の事務局長とPublic Meets Innovationの代表理事の仕事が8割程度で、そのほかメディア出演、講演、政府関連の仕事もしています。今のような働き方を始めて、まずは関われる人の数が圧倒的に増えました。複数のテーマ、複数の組織に属することで、それぞれの領域で関わる人が増えていくので、これまでとは違う交友関係や多様なつながりを構築することができています。また、その人間関係のなかから新しい視座も得られています。

さらに、大きな価値観の変化としては、1つの会社に所属していると、その会社での評価が自分の仕事の評価であるという感覚を持ってしまいがちです。でも、複数の組織に属し、まったく違う評価基準のなかに身を置くと、特定の会社の評価がすべてという感覚はなくなります。むしろ、会社の外の社会と自分という関係性のなかで自分をどう評価するか、どう評価されるかに視点が移り変わっていきます。特定の上司の評価だけではなく、もっと広い視野で自分を捉えられたり、自分を認めてもらえたりすることは、人生にとって、とても豊かなことだと感じています。今の働き方を選択してよかったと思っています。

──複数の顔を持つことで、仕事の管理、スケジュール管理は難しくなると思いますが、意識していることはありますか。

正直、とても難しいなと感じます。私は経営者としてスタッフを雇っており、スタッフのなかにも副業をしている人や、ポートフォリオワークをしている人もいます。そのため、稼働時間やプロセスよりも、きちんとゴールを決めて、それに対してどのような成果を出せたのかを見るように意識しています。

時間に関しては、あまり無理をしないようにしています。20代ならがむしゃらに働いていたと思いますが、30歳を過ぎてからは、きちんと寝るようにしています。徹夜をして1人で頑張るのではなく、お願いできる人を増やしてチームでやりきれるマネジメントを心がけています。

実は、2020年に子宮筋腫の手術をしました。経営者やフリーランスとして働いていると、健康診断を受けていない人がすごく多いと感じます。会社員であっても、婦人科検診は会社の健康診断に含まれていないことが多い。ポートフォリオワークが進んでいくことで、健康管理に対するリテラシーも上げていく必要があると自分の経験をもって実感しているところです。

個人として築く人脈が大きな財産になる

──シェアリングエコノミーが浸透していく時代に、企業はどうあるべきでしょうか?

新型コロナウイルス感染拡大の混乱はもうしばらく続くでしょうし、景気も後退していくでしょう。そのなかで企業が持続的に経営していくためには、固定で抱えていたものを分散しながら新しい事業やイノベーションに回していくことが重要です。例えば、自社の社員だけで新商品を開発していたやり方を、人財のシェアで外部を活用したり、自社オフィスを手放してシェアオフィスに変えていき外部との連携を生み出しやすくしたりするなども考えられるでしょう。

また、シェアリングエコノミーは新たな資源を使い大量生産型のビジネスでなくても、すでにあるものに付加価値をつけることができる。サステナブルなビジネスモデルで収益を出していく考え方が大事になってくるのではないかと思います。

──企業が副業を解禁するメリットについてはどうお考えですか?

リスクとの共存を余儀なくされ、変化のスピードも激しく、物が飽和している時代には、柔軟な発想で未来を描ける人財が企業の財産になります。これまではそんな人財を社内の画一的な研修制度などを通じて育成してきたと思いますが、社員が副業として違う業界、違う会社を自ら経験することは、会社が研修などをやらなくても結果として人財育成につながるのではないでしょうか。

また、社外の人脈が広がることで、潜在顧客を発見する可能性もありますし、協業できるパートナー企業と出合うきっかけになるかもしれません。副業解禁には企業の成長の可能性があると思います。もちろん、ただ解禁するのではなく、セキュリティやプライバシーを守るためのデジタル化や、労働時間や評価制度の見直しも同時に進める必要があります。

──先の見えない時代に、不安を抱えている方々にメッセージをお願いします。

これからの時代は1つの企業、場所に依存するのではなく、リスクを分散させるポートフォリオ的な働き方や暮らし方が豊かさのスタンダードになっていくのではないかと思います。多様な働き方をするうえでカギになるのは、人と人とのつながりであり、信頼関係です。会社名や肩書きではなく、個人として構築する人間関係や信頼関係が、皆さんの財産になっていくはずです。ぜひ、豊かな人生に向けて、一歩を踏み出していただきたいと思います。

Profile

石山アンジュ氏
一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師

1989年生まれ。シェアリングエコノミーの普及に従事。シェアの思想を通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、厚生労働省・経済産業省・総務省などの政府委員も多数務める。また2018年にミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立し、代表理事に就任。ほかNewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC出演やコメンテーター、新しい家族の形「拡張家族」を広げるなど幅広く活動。著書に『シェアライフ――新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。