働き方 組織 仕事の未来 DX時代のリスキルのあるべき姿とアプローチのポイントとは

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2021.04.27
DX時代のリスキルのあるべき姿とアプローチのポイント

企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速させていく上で大きなカギとなるのが人財のリスキルだ。デジタルをベースにビジネスモデルの転換や業務の効率化を図るには、新たに必要となる人財像とスキルセットを明らかにして、既存の社員たちが新たな環境でも資質・能力を発揮できるよう、スキルを再構築する機会を提供していくことが重要になる。
企業向けのリスキル支援サービス「タレント・ディスカバリー・プログラム」を提供しているアクセンチュアに、企業がDX人財の育成のためにリスキルを導入していく際の基本的な考え方やポイントを聞いた。

ビジネスの構造改革に伴い必須となる社員のリスキル

「ビジネスのあり方が変われば、求められる人財も違ってきますし、人財ポートフォリオも再設計する必要が出てきます。日本企業の労働生産性は国際的に見て低く、デジタルの力を活用して業務の効率化を進めなければ生き残れないという危機意識を強く持つ経営層は多い。こうした背景から、リスキルに対する関心が急速に高まっています」(図1参照)

図1企業が抱える人財に関する課題とスキル再構築の必要性

変化の時代に対応した人財ポートフォリオ変革の必要性 社員のスキルアップやマインドチェンジを促し、さらなる活躍を後押しする、学びと気づきの仕組みを作る
ビジネス変革による求める人財スペックの変化 今後より必要とされるスキル・マインドを持った人財の育成
不確実性の時代に耐える人財再配置の必要性 スムーズな配置転換により、多能工化・課題解決力強化等を促進

アクセンチュア株式会社 オペレーションズ コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 安本岳史氏は、多くの企業がリスキルに取り組み始めた背景をこう語る。

変化し続ける時代に対応していくための人財ポートフォリオの構築に向けて、企業は従業員の「リスキル」に取り組むことが不可欠。構造的な低労働生産性や、人財のミスマッチ・低流動性などにも対応した取り組みが求められる。
出典:アクセンチュア

事業変革と連動してリスキルを検討 社員の主体性や気づきが重要に

今般のコロナ禍に限らず、経営環境の不確実性は高まっており、企業の大規模な事業改革にも柔軟に対応できるように、必要とされるスキルやマインドセットを持った人財を育成したり、人財を円滑に再配置したりできる仕組みを持つことは重要だ。

では、今後求められるDX人財などを想定して、企業はどのようにリスキルに取り組むべきだろうか。主な留意点やポイントは次の通りだ。

①リスキルはすべての人財が対象
リスキルは、一部の専門人財やハイレイヤー人財を対象にするものだと思われがちだが、「大前提として、働くすべての人々が対象であると捉えるべき」と安本氏は強調する。

DXやビジネス変革に必要な人財といっても、その範囲は幅広い。ビジネスモデルの転換を主導したり、DXを活用した新しい事業・サービスを創出したりするような「変革創造人財」は重要だが、自社のビジネスや顧客を熟知し、既存の仕事をこなしながら、RPAの活用など業務のデジタル化にも抵抗感なく対応できる「変革適応人財」を育てていくことも欠かせない。(図2参照)

「経営層には『リスキルは全社的な課題だ』と認識していただき、幅広いリスキルニーズに対応した育成環境を整えていく必要があります」(安本氏)

図2DX・ビジネス変革人財を育成するための人財構成

DX・ビジネス変革人財を育成するための人財構成
変革創造人財
・デジタルを最大限に活用し、新事業やサービスを創造
・顧客が体験する価値を軸とした、サービス/ プロダクト/ オペレーションのあり方を設計・検証
変革推進人財
・変革創造人財の新規アイデアの事業化・実践・拡大をチームとして支援
・変革創造人財とも連携しつつ、デジタルを活用し、既存事業改革を推進
・事業の成長・改善に向け、技術やデータを活用した基盤を構築
変革適応人財
・これまでの領域・やり方にこだわらず、変化し続けるビジネスプロセスに対応
・自らが担当する業務の改善、実行

出典:アクセンチュア

②事業改革とセットで取り組む
しかし、人財育成だけ熱心に取り組んでも、良い成果は期待できない。事業の構造改革と連動させて人財課題に向き合っていくことが重要だ。

「まず構造改革の道筋を定め、必要な人財像を明らかにし、適切な配置転換やリスキルプログラムを検討する──という順序で考えるのが基本です(図3参照)。

図3DX人財を定義する

  役割 スキル(遂行能力) ナレッジ(知識・知見)
DX
ストラテジスト
自社の強みを最大限に生かしながら、革新をもたらすアイデアを創出。社会課題を解決する新規事業を追求するプロジェクトをリードする 変革シナリオ立案力
サービス企画力
新規事業立案力 等
財務・会計
業界トレンド
戦略フレームワーク 等
DX
コンサルタント
社内業務改革や顧客とのDX案件の先頭に立ち、先端技術を活用した業務改革プランの策定から実行フェーズまで案件全体をリードする 業務分析力
課題抽出力
業務プロセス設計力 等
先端IT技術
業界トレンド
ファンクション知識 等
DXデータ
サイエンティスト
社内業務改革や顧客とのDX案件の先頭に立ち、データや科学的な根拠に基づいた企画を実現することを担保する 仮説設定力
分析設計力
分析モデル構築力 等
アルゴリズム知見
データモデリング手法
大容量データ分析
クラウド基盤知識 等
DXエクスペリエンス
アーキテクト
社内業務改革やDX案件での顧客体験面で先頭に立ち、顧客の深層心理に基づいて最良の顧客体験を実現することを担保する 調査設計スキル
サービスデザイン力
デジタル
マーケティング力 等
デザインシンキング手法
インタラクション
デザイン知識
UI/UX 等
デザイン全般 等
DX
テクノロジスト
社内業務改革や顧客とのDX案件のIT面で先頭に立ち、先端技術や開発手法を取り入れて、システムの刷新をリードする アーキテクチャ
プランニング力
サービス・プロダクト
プランニング力
アジャイル開発力 等
先端IT技術
アプリアーキテクチャ
データアーキテクチャ 

出典:アクセンチュア

例えば、これまで事務処理に手間と時間を要していた企業が、デジタル化によって業務効率を高めると同時に、より戦略的な業務に人財をシフトさせ、競争力や生産性を高めたいと考えた場合、これを配置転換や研修と適切に結びつけていく必要があります。例えば、これまで業務の大半を事務処理に費やしていた人財に、業務の集約や効率化などのBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を推進するスキルを身につけていただくなどの必要があります」(安本氏)

③人財要件とスキルギャップを明確に
事業改革の方向性と人財要件が大まかに明らかになったら、個々の社員が現時点で有しているスキルを把握するとともに、今後求められる人財要件とスキルを明確化する。スキルギャップがわかれば、1人ひとりにふさわしいリスキルが見えてくるからだ。これも、事業の構造改革と連動させながら進めることが大切だとアクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部人材・組織 プラクティス 日本統括 マネジング・ディレクター 植野蘭子氏は話す。

「例えば、コロナ禍で対面営業が困難になる中、デジタル化を含めた営業スタイルの抜本的な見直しに取り組んでいる企業は多いと思います。一案として、すべての営業社員が客先に毎日訪問してドアノックからクロージングまでを一人で担当するようなスタイルを改めて、チーム営業や提案型営業にシフトする方法が考えられます。ドアノックを実践する人、提案書を企画・作成する人、最後のクロージングを担う人というように役割分担してチームを編成していくのです。すると自社商材の説明ばかりするのではなく、傾聴力を高めて顧客の課題を聞き出し、それをベースにソリューションを組み立て、提案書を作るスキルなどが必要だとわかります。求められるリスキルの方向性がおのずと明らかになるのです」(図4参照)

④押しつけではなく、主体性や気づきを引き出すリスキル環境が重要
社員が自身のスキルの再構築に前向きに取り組めるような機運を醸成することも大切だ。

「定型的なオペレーション業務を長らく担当していた人が、私たちコンサルタントと一緒に業務改革に取り組むことで、『自社の課題を発見して改革を主導するという大事な仕事が社内にあることに改めて気づきました』『これが自分のやりたかった仕事かもしれません』などと言ってくださるケースは少なくありません。

社員の自律性・主体性が足りないという声を聞きますが、企業の大きな変革の波を体感した人がまだ少ないだけで、何らかのきっかけでマインドセットが変わる方は多いと思います。リスキルについても、お仕着せではなく、インスパイアされるような環境を企業側が用意できるかがポイントです」(安本氏)

⑤自分ができることを認識することが大切
とはいえ、自分の培ってきたスキルを再構築しなければならない環境は、多くの社員にとって不安なものだ。

「たしかに、前向きなマインドセットになかなか転換できない方も見られますね」(植野氏)

そこで、自分のスキルセットを棚卸しし、今できていることと未達のことをしっかりと見つめ直すことが大切だと植野氏は語る。

「『変革人財』という言葉だけを聞くと、自分とは違うと思われてしまうかもしれませんが、実は、スキルセットを細かく見ていくと、多くのビジネスパーソンがこれまでの業務で培ってきたスキルを生かせるケースが多くあります。例えばビジネス変革人財に求められる『プロジェクトマネジメントの能力』や『ステークホルダーとの円滑なコミュニケーション』などは、営業職が実践の中で身につけてきていることです。個人は現状のスキルを前向きに見つめ直し、今持っているスキルの延長でさらにスキルアップできると意欲を持ち、スキルの見える化を図っていくと、リスキルのスピードを加速させられると思います」(植野氏)

Profile

植野蘭子氏

植野蘭子氏
アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部
人材・組織 プラクティス 日本統括マネジング・ディレクター

東京外国語大学卒業後、自動車メーカーに入社し、人事部にて、海外人財採用・育成やグローバル幹部育成等、グローバル事業展開を人事・組織面から支える業務に従事。アクセンチュアに中途入社し、以降、幅広い業界において、グローバル化・デジタル化に向けた企業変革支援や人財・組織戦略、M&A支援などの戦略コンサルティングに従事。

安本岳史氏

安本岳史氏
アクセンチュア株式会社
オペレーションズ コンサルティング本部
マネジング・ディレクター

東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。通信・メディア・インターネット業界を中心に、全社構造改革・事業立ち上げ・オペレーション変革等を多数経験。また、人財業界向けコンサルティングにて10年以上の経験を有し、現在、オペレーションズ コンサルティング本部にて、人事・人財管理領域のBPO+DXサービスを担当。