清水久三子氏
アンド・クリエイト代表
大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社。2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとしてコンサルタント・エンジニアの人材育成を担い、13年に独立。
プロジェクトマネジメント研修、コアスキル研修、リーダー研修など社内外の研修講師を務め、延べ3000人のコンサルタントの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。著書に『一流の学び方』(東洋経済新報社)など多数。
多くの業務がテクノロジーに代替されることが予測されるなか、人生100年時代にビジネスパーソンはどのように新しい知識やスキルを身につけていけばいいのだろうか。
人財育成を専門とする清水久三子氏は、「コロナ禍に直面し、人々の学びへの意識は高まっている」と指摘する。何を選び、どのような勉強をすればいいのか。学び続けるモチベーション維持の方法についても話を聞いた。
新型コロナは世の中の常識を一変させた。大きな変化に直面し、人々の意識は2パターンに分かれていると清水久三子氏は説明する。
「何かしなくてはまずいと危機感が学ぶモチベーションにつながっている人もいれば、不安や焦りを募らせるばかりで、落ち着いて学ぶどころではないと考えてしまう人もいます。この状況はしばらく続くでしょうから、ここの時間の過ごし方が、数年後に大きな成果の差となって表れるでしょう」
清水氏自身は、コロナ禍は学びにとって大きなチャンスと捉えている。一つはリモートワークによって通勤や移動時間がなくなった分、自由な時間が確保できるようになったこと。さらに、オンラインで提供される学びのコンテンツがバラエティ豊かになり、かつ品質も高まっていること。学ぶ機会は圧倒的に増えているといえる。
「今は人生100年時代、これまでのように60歳定年で逃げ切ることが難しくなっています。60歳以降も働くことを前提に、キャリアを考えなければいけません。テクノロジーが急速に進化するなど、変化の激しい時代なので、リタイアが迫った人だけでなく、若い人も学び続ける必要があります」
とはいえ、何を学べばいいかわからないという声も多い。さらにAdeccoGroupが2021年9月に実施した『学び直し調査』によると、「学び直しに取り組むために必要だと思うこと」として「自身のキャリアビジョンの明確化」と答えた人の割合が一番多かった(図1参照)。やりたいことが明確な人は必要なスキルや知識を特定しやすいが、この先どう生きていけばいいのか、また自分に何が合っているのかわからない人もいるだろう。その場合は、「できるだけいろいろな分野に触れることが学びにつながる」と清水氏は言う。
出典:Adecco Group『学び直し調査』(2021年9月実施)
(有効回答数:1700人/インターネットによる回答)
「例えば、月に3回新しいことに触れる、普段は会わないような人に月に何人会うなど、目標を決めてもいいでしょう。何がキャリアにつながるかわかりませんし、たとえ直接仕事に関係ないものでも、その経験は人間としての深みや幅を出すことにつながるはずです。また、10年、20年と長い目で見たときに、あの時のあの経験が今につながったと実感することもあります。きっちり計画を立て過ぎずに、まずは面白いと感じるもの、興味があるものにチャレンジしてみてください」
学びたい分野が決まったら、いよいよ勉強開始だ。清水氏が提唱する学びの4つのステップ(図2参照)を説明しよう。
ステップ1概念の理解 | 基本知識を「知っている」状態専門用語や基礎知識を理解する。書籍情報からのインプットで、知識の土台を構築。ゴールは、「その分野の言葉や概念を理解し、会議や現場でわからない内容をなくす」こと。エネルギーが必要で、最もつらいステップ。 | |
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ステップ2具体の理解 | 経験として「やったことがある」実践を試みて身体にわからせる。重要なのは、訓練となる機会をいかにつくり出せるか。待つのではなく、自分でどんどんセッティングしよう。どれだけインプットしても、実践しなければ「使えるスキル」にはならない。 | |
仕事と稼ぎにつながるレベル | ステップ3体系の理解 | プロとして「できる」このステップに入って初めて「稼げる」能力となる。 さまざまな方法、角度から何度も実践を経験し、ひたすら場数を踏み、臨機応変に対応できる力を身につける。そこから「自分の流儀・価値」が出せるようになる。 |
ステップ4本質の理解 | 第三者に「教えられる」本質を理解する。その領域を高いレベルでマスターし、人に教えることができる。「本質を理解する」とは、「つまり〇〇は△△である」と一言で語れるようになること。 文章より因数分解の形にするほうがより明瞭になる。 |
まずは、全体像の把握。基本情報や基本知識を一通り頭に入れる段階だ。
「学びたい分野に対して、たまたま目についた1冊だけを読む人が多いのですが、それだとその本が全体のなかでどの程度のレベルなのか、どの範囲を押さえているのかがわかりません。また、最初から難しい本に当たってしまうと、やる気を失ってしまう可能性もあります。ある程度知っているジャンルなら2~3冊、新しい領域なら20~30冊に目を通して、全体像を把握できると、自分が深掘りしたい部分が見えてきます」
次は、学んだことをアウトプットしていくステップだ。
「コミュニケーションを学んだのであれば、プレゼンテーションしてみる。英会話なら外国の方と実際に話してみるなど、具体的に実践してみることで身体にわからせることができます」
ステップ2までで習得した知識やスキルは、暗黙知であることがほとんど。それを形式知化するのがステップ3だ。ここからは応用の段階となる。
「学んだ内容を文章や図解で体系化してみてください。次にまた同じことをしてもできる、再現性のある状態にしておくことが重要です。これができれば、どんな場面でも成功できます」
このステップまで習熟できれば、仕事のチャンスにつながるようになる。
最後は一言でまとめられる状態だ。
「本質を因数分解し、一言で説明してみてください。これができれば、人に教えられるようになります。ここまでいくと、このテーマは卒業。達人のレベルです」
4つのなかで最も重要なのは、ステップ3の「体系の理解」だという。ステップ2で満足し、辞めてしまう人が多いからだ。もう一段、自分のものとするためにきちんと言語化し、体系化しておくと汎用的なスキルとなり、キャリアに結びつくチャンスが広がる。
4つのステップをやり切るには、継続するためのモチベーション維持が必要になる。何か秘訣はあるのだろうか。
「ハードルを高く設定せず、スモールステップから始めることが重要です。そして、学んだ時間、内容を記録し、見える化することで、やる気を維持できます。私はコロナ禍で改めて英会話を学び直していますが、スマホアプリを活用しています。本業の波もあり、毎日1~2時間を確保するのが難しい日もあります。そのため、ゼロでなければよし、とハードルを下げています。
毎日10分、英文を眺めるでもいいと考えれば、気持ちがラクになりますよ」
従来の通勤時間を学びの時間にするなど、時間を決めておくのもおすすめだ。夜に設定すると、疲れて気が重くなってしまうため、朝に短い時間を確保すると効果的。曜日を決めるなら、週の終わりの金曜日よりも月曜日のほうがモチベーション高く学べる。
さらに、一人で黙々と学ぶと途中でくじけてしまうため、人に宣言するのも継続の秘訣だという。清水氏はSNSに投稿し、やる気を高めている。
「始めるときに、学んだことを毎日投稿しますと宣言しました。みんながすごく応援してくれるので励みになります。最初は成果が見えづらく、つらいかもしれませんが、継続するうちに成長を実感できて楽しくなります。楽しくなる前にやめてしまう人が多いのですが、これはもったいない。お伝えしたようなさまざまな工夫をして、どうかこの壁を越えてほしいと思います」
学びの意識が高まっている時代に、企業はどのように学びを提供していけばいいのだろうか。欧米に比べて、日本企業は学びの提供機会が少ないというデータもある。
「企業も学びの機会を提供するべきですが、会社が押し付け、社員がやらされ感で出席する研修では、学びの効果は低くなります。せっかく予算をかけるのであれば、テーマを社員から提案してもらうなど、積極的に学びたいと考える社員に対して学びを提供したほうが効果は高くなります」
受け身ではなく、個人の学ぶ姿勢が問われる時代なのだ。
「学ぶことも一つのスキルです。一度成功体験をつくれれば、その後、新しいテーマを学ぶときも、身構えず楽しく学べるようになります。学びの環境は間違いなく良くなっているので、ぜひ挑戦してみてください」
書籍を多読し、キーワードを付箋に抜き出すだけでもある程度知識を身につけられる。しかし、それらをブログに落とし込んでいくと、その過程を一度アウトプットすることになるので、さらに記憶への定着率が高くなる。
ラーニングジャーナルに書くべきこと
清水久三子氏
アンド・クリエイト代表
大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社。2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとしてコンサルタント・エンジニアの人材育成を担い、13年に独立。
プロジェクトマネジメント研修、コアスキル研修、リーダー研修など社内外の研修講師を務め、延べ3000人のコンサルタントの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。著書に『一流の学び方』(東洋経済新報社)など多数。