人財 働き方 仕事の未来 デジタル人財に求められるスキルセットとマインドセットとは

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2021.11.17
デジタル人財に求められるスキルセットとマインドセットとは

どれほど優れたデジタル技術を有する企業でも、それを活用して新たなビジネスモデルを構想・実現できる人財がいなければ、デジタルトランスフォーメーション(DX)は成功しない。自社が目指すDXに必要な人財を見極め、それを獲得・育成していくにはどうしたらよいのか。
また働く個人として、DX時代にふさわしい資質・スキルを身につけるにはどうすべきか。
企業のデジタル戦略や人財育成に詳しい三菱総合研究所に聞いた。

自社のDX戦略に必要なデジタル人財像を明確にすることが欠かせない

企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくうえで課題となっているのが、デジタル人財の確保・育成だ。総務省が2021年7月に公表した『情報通信白書』によれば、DXを進めるうえでの課題について日本企業に調査したところ、「人財不足」との回答が53.1%と最も多かったという。
日本におけるデジタル人財の絶対数の不足は、以前から指摘されてきた。しかしそれだけでなく、多くの日本企業が自社のDX戦略にとって必要な人財像を明確化できていないことも課題であると、小野寺光己氏は指摘する。

「一口にデジタル人財といっても、求められる資質やスキルは多様ですし、その企業がどんなDXを目指すのかによっても必要な人財は違ってきます。まずは自社のどの領域で、いつまでに、どのようなDXを実現したいのかというロードマップを作成することが不可欠。そのうえで、現時点での人財の状況と、今後自社に必要となるデジタル人財像を照らし合わせていく。それによってはじめて、どんな人財がどのぐらい足りないのか、明らかになるからです」

実際には、「DX推進」を掲げてはいるものの、戦略設計や人財像の明確化に出遅れている企業は少なくない。三菱総合研究所では、デジタル人財を図1のように整理している。一般にデジタル人財というと、データサイエンティストをはじめとする「システム・技術担当」をイメージしがちだが、当然ながら、デジタルスキルに長けた専門人財がいるだけではDXは成功しない。

図1デジタル人財の類型

類型 プロデューサー DXマネージャー ビジネス・サービス担当 システム・技術担当
主な役割
  • DX推進の主導
  • CDOを含む
  • DXを企画・推進
  • CDOを含む
  • サービス・業務の把握
  • 将来像の設計
  • プロダクトの責任を持つ
  • 変革後のサービス・業務の実況・実装
    (技術力を基に)
呼称の例
  • プロデューサー
    (プログラムマネージャー)
  • スクラムマスター
  • ビジネスデザイナー
    (含むマーケティング)
  • プロダクトオーナー
  • アーキテクト
  • データサイエンティスト
  • UXデザイナー
  • エンジニア/プログラマー
  • データサイエンティスト

出典:三菱総合研究所の図を基に作成

「企業をヒアリングしてみると、4類型のうちの『プロデューサー』『DXマネージャー』『ビジネス・サービス担当』の人財不足で悩んでいるケースが多い。つまり、自社の事業環境や技術的な強みなどを深く理解したうえで、DX戦略を立案する役割や、社内外の関係者との利害調整を図る役割を果たすような人々です。これらは外部登用によって獲得するのは難しいため、内部育成、つまり既存社員のリスキリングが必須になります。もちろん人を育てるのには時間がかかりますから、DX戦略のロードマップと共に、必要となる人財のポートフォリオや育成計画を作成し、計画的に進めていくことが大切です」(小野寺氏)

リスキル施策のポイントと留意点社員の資質やマインドセットに注目を

求められるデジタル人財を確保するためには、既存社員をどのようにリスキリングしていけばよいのだろうか。主なポイントや留意点は次の通りだ。

Point 1「表層スキル」だけでなく「基層スキル」に着目する

デジタル人財に求められるスキルは多種多様だ。例えば「システム・技術担当」であればシステム開発やエンジニアリングなどの技術系スキルが欠かせないし、「DXマネージャー」であれば、新事業・サービスの企画・設計や、プロジェクトマネジメントなどのビジネス系スキルがより重要になる。自社内で育成することが必要とはいえ、適任者が簡単に見つかるとは限らない。

「誰にどの役割を任せ、どんなスキル教育をするかを検討する際には、『表層スキル』だけでなく『基層スキル』に着目することがポイントになります」と奥村隆一氏は話す。

行動科学の研究によれば、人間が持つ能力は、知識やノウハウのように目に見える『表層スキル』と、資質や価値観など目には見えない『基層スキル』があり、じつは後者のほうがパフォーマンスを大きく左右するという。氷山の目に見えているのはごく一部であり、実際には水面下の部分が大きな割合を占めることに例えて、この概念は「氷山モデル」とも呼ばれる(図2参照)。

図2いかなる方法で「自社が期待するデジタル人財」を獲得するか?

  • 採用だけでは不十分。社内の人財の育成が鍵
  • 業務遂行に用いる「能力」は4つの要素でできている
  • 「資質・価値観」と「基層スキル」から適性のある人を見つけ、効果的に知識・ノウハウ・スキルの獲得を支援することが重要
【職業人財が保有する能力の構成(イメージ)】
特徴 表層の人的資本特性 容易に開発・変更が可能 基層の人的資本特性 開発・変更が困難 知識・ノウハウ 表層スキル 基層スキル 資質・価値観
例示
業務遂行に必要な専門知識(製品知識、会計・財務知識など)、営業ノウハウ、語学力、ITリテラシーなど
プレゼンスキル、コミュニケーションスキル、交渉スキル、リーダーシップ力、時間管理スキルなど
外向性、柔軟性、ストレス耐性、協調性、活動性、分析志向など(ビッグファイブ、ソーシャルスタイル、ストレングスファインダー)
機械や物体を対象とする具体的で実質的な仕事や活動が好き(職業興味領域)、新たな課題や困難な課題に挑戦することに仕事の価値がある(仕事観)

人間が持つ能力を氷山に例えた行動科学による考え方。目に見える知識やノウハウなどを表層スキル、目に見えない水面下の資質や価値観などを基層スキルに分けており「氷山モデル」とも呼ばれる。

出典:三菱総合研究所「キャリア開発のイノベーション」『MRIマンスリーレビュー 2019年8月号』を基に作成

「表層スキルは習得が比較的容易であるのに対し、基層スキルは人の資質や価値観に由来するので、簡単には変えられないという性質があります。文系人財のなかにも、プログラミングを習得する素養があって、研修を受けるといち早く身につけられる人がいるように、『基層スキル』に目を向けて適性のある人を見つけ、その人に対して『表層スキル』の獲得を支援していくと、効率的にリスキリングができますし、本人としても能力を発揮しやすくなります」(奥村氏)

Point 2DX時代に適したマインドセットも考慮すべき

基層スキルと同様、デジタル人財の育成においては社員のマインドセットに注目するのも有効だ。
「DXは既存のビジネスモデルを劇的に変える可能性があり、自社の事業に関する考え方や価値観などの見直しを迫られることが多いです。そのため、DXに先進的に取り組んでいる企業では、現状踏襲をよしとしない姿勢や、変化する状況でも苦にせず頑張れるメンタリティなど、DXに前向きに取り組めるようなマインドセットを重視して社員を育成しているという声がよく聞かれます」(小野寺氏)

図3は、DXに合致しやすいマインドセットの一例だ。デジタル人財の育成では、一般的な人事評価に加えて、個々の社員のマインドセットを把握しておくことも重要になるだろう

図3デジタル人財に求められるマインド・行動特性(企業インタビューより)

プロデューサー DXマネージャー システム・技術担当 ビジネス・サービス担当
  • 〇 現状を変えたい、現状踏襲をよしとしない
  • 〇 目前の仕事に対して、自身で動き、考えて解決しようとする
  • 〇 自ら新しいものを生み出す
  • 〇 変化する状況・要望を苦にしない
  • 〇 発想を転換できる
  • 〇 単一施策や短期的な結果で評価・判断しない

出典:企業インタビューを基に三菱総合研究所作成

Point 3DX時代に合致したOJTの実践を

DXに必要な技術的な知識やノウハウであれば座学的な研修でも習得可能だが、実践的なDX推進能力は、実務を経験しないと身につきにくい。その意味でOJTは必須だ。ただし、これまで日本が得意としてきた上意下達型のOJTは見直す必要がある。今までにないビジネスモデルの創出を目指すDXでは、過去の経験や実績はほとんど役に立たないからだ。

「デジタル人財の育成に必要なのは、先輩が後輩に知識を一方的に教えるようなOJTではなく、実践のなかで経験したことを共有し、互いに学び合うような関係性を前提としたOJTです。最近では一部の日本企業でも、社員の自発性を育む狙いから『学習する組織』という概念を取り入れている企業が増えていますが、互いに能力を高め合うような組織文化自体をつくっていくことが、DX時代の人財育成に求められているのだと思います」(奥村氏)

Point 4育成のためのネットワークを構築する

ある程度規模の大きな企業の場合、社内にデータサイエンティストのようなデジタル人財がいても、複数の部署に別々に配属されているために、交流や情報交換がしにくいケースがある。
そこで、社内SNSなどを活用して専門人財向けのコミュニティを開設し、人財育成に生かす例が出ているという。

「デジタルテクノロジーは進化のスピードが極めて速く、個人でキャッチアップするのは限界があります。知識や技能の水準を維持・向上させていく仕組みとして、デジタル人財のネットワークを構築するのは有効な方法です。技術系専門人財はもともと絶対数が少ないので、同じような立場の人が身近におらず、悩みなども相談できずに辞めてしまうケースが珍しくありません。デジタル人財のネットワーク構築は、離職防止という意味でも寄与するものと考えています」(小野寺氏)

キャリア自律はますます重要にキャリアビジョンを自ら発信すべき

最後に、DX時代に対応するために、個人はどのような心構えを持つべきか、二人にアドバイスを聞いた。

「キャリア自律意識を持つことがますます重要になります」と奥村氏は強調する。

「よくいわれていることではありますが、会社の寿命がどんどん短くなる一方で、人生100年の時代となり、私たちが1つの会社で一生勤めることも、1つの専門性だけで生きていくことも難しくなります。今回はデジタル人財をテーマにお話ししましたが、10年後にはまったく別の人財像が求められているかもしれません。自ら学び続ける意欲を持ち続けること、キャリアは会社に与えてもらうものではなく、自分自身で切り拓くものだという意識を持つことが、個人にとって極めて大切だと認識しています」(奥村氏)。

また、自分の興味・関心やキャリアに対する考えを、積極的に周囲に発信することも大切だと小野寺氏は話す。

「基層スキルやマインドセットの話にも関係しますが、DX時代に相応しい人財が社内のどこにいるのかと、企業側も悩みながら探しているのが実情です。人事やマネジメント層の目に留まるよう、興味があることには自発的に手を挙げていく。そういう場がないとしても、自分はこういう領域に興味がある、こんなキャリアビジョンを持っているんだと、日ごろから上司などに伝えていく。そういう姿勢こそが、変化の時代に大きな意味を持つのではないかと思っています」(小野寺氏)

Profile

奥村隆一氏

奥村隆一氏
株式会社三菱総合研究所
キャリア・イノベーション本部

得意とする分野は、労働政策、社会保障政策、少子高齢・人口減少問題。主な業務実績は、三菱総合研究所50周年事業研究(社内研究)、未来提言研究(ポストコロナ研究、社内研究)、リカレント教育等の人的資本投資に関する調査研究(内閣府)、人生100年時代にむけた新規事業開発支援(A社)、未来提言研究(未来の会社、社内研究)。

小野寺光己氏

小野寺光己氏
株式会社三菱総合研究所
DX技術本部
デジタルコンサルティンググループ

得意とする分野は、事業・経営サイドからのDX戦略立案、デジタル人財の育成支援、データ・AIを活用した新サービス開発、既存事業高度化、新サービス立上げなどのDX遂行支援、Fintech、決済領域。主な業務実績は、DX戦略策定・遂行支援(金融業)、マーケティング高度化プロジェクト(カード会社)、新規事業立上げプロジェクト(決済、自動車メーカー)、データ活用に関する企画・PoC・事業化支援(金融業)。