黒田悠介氏
ディスカッションパートナー、議論メシ主宰
2004年東京大学理科一類で入学するも、心理学に関心を持ち文学部に転籍後、卒業。2社のベンチャー→2社起業(売却)→キャリアコンサルタント→フリーランス研究家→ディスカッションパートナー→コミュニティ主宰、という紆余曲折なジャングルジム型のキャリアを持つ。新しいキャリア論『ライフピボット』(インプレス)の著者。問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を主宰。
ハンチング帽とメガネがトレードマーク。
テレワークで通勤がなくなり、空いた時間に副業をする人が増えるなど、働き方はコロナ禍により大きく変化している。不確実な時代に、自身のキャリアをどう築き、将来を見据えていけばいいのか。
自分らしいキャリアパスを描くためのキャリア論を発信する黒田悠介氏に話を聞いた。
変化のスピードが速く、不確実性の高いVUCAの時代。このような時代に必要なのは、「計画ではなく準備」だと黒田悠介氏は指摘する。どれだけ綿密に計画を立てていても、物事が計画通りに進むとは限らないからだ。
黒田氏が勧める「準備」とは、一般的にいわれる、将来に備えて金融資産を蓄えるといったものではなく、日々の経験を蓄積することだ。
「自分で仕事を生み出したり、チャンスをつかんだりできるように、選択肢の幅を広げておくことが重要です。これからは、自分自身で自分のキャリアを舵取りしなければなりません」
その舵取りの際に役立つのが、過去の経験による蓄積を足場にして、新しいキャリアに踏み出していく「ライフピボット」という考え方だという。
例えば、黒田氏は新規事業の立ち上げをきっかけにキャリアに関心を持ち、ディスカッションを通してキャリア構築を支援するキャリアアドバイザーとなった。そして現在は経営者のディスカッションパートナーとして意思決定サポートも行っている。黒田氏の場合は、「キャリア」と「ディスカッション」を軸にして、ピボットしている。
「私のパターンは1例に過ぎません。地方の農家のために生きていくなど、人的ネットワークを軸にするパターンもあれば、1日2時間だけ働くなど、自分が望む働き方を軸にキャリアを組み立てるパターンもあります。人によっても、人生の時期によってもスタイルは変わってきます」
ライフピボットは、経験の蓄積と偶然によって起こる。偶然のチャンスをつかむために必要なのは、「スキルセット」「人的ネットワーク」「自己理解」の3つの蓄積だ(図1参照)。
プログラミングなどのテクニカルスキル、人と接する際に必要なヒューマンスキル、物事を抽象化したり論理的に考えたりするコンセプチュアルスキルの3つに分類される。何に時間を使ったか、何に感謝されたか、過去を振り返ってみよう。自分のスキルセットを認識することでライフピボットのカードとして使えるようになる。
広く多様な人的ネットワークは、新しい情報や機会をもたらしてくれる。日々の出会いから信頼を蓄積していこう。社内だけで広げることが難しい場合は、社外のイベントや勉強会に出席したり、ビジネスマッチングサービスなどの活用も効果的だ。誰と接し、誰から情報を得るかが自身の価値観に大きな影響を与える。
経験による感情と思考の動きを観察し、自分が何に喜びやつらさを感じるのかを知る。日々の仕事のなかで意味があると思えることと意味がないと思うことを分別していくことで共通点が見つかり、自分の価値観が明確になる。自己理解が深まれば、ライフピボットの失敗が少なくなり、キャリアの舵取りがうまくできるようになる。
まず、スキルセットは大きく3つに分類される。ライターならライティング、プログラマーならプログラミングといったテクニカルスキル。人と一緒に仕事を進めるために必要なヒューマンスキル。物事を抽象化したり論理的に整理したりするコンセプチュアルスキルだ。これらは仕事のなかで身に着くこともあれば、資格試験などで習得していくこともできる。
2つ目の人的ネットワークは、日々の仕事で得られるのがベストだが、社内のネットワークだけでは広がらない場合は、社外のイベントや勉強会に参加してみるのもいいだろう。黒田氏が人的ネットワークを広げるために活用しているのが、ビジネス系のマッチングサービスだ。「Yenta(イェンタ)」や「バーチャルランチクラブ」などを活用して、これまでに1500人もの人と出会い、そこから仕事につながったケースもあるという。
「会社員ならフリーランスの人と会ってみるなど、自分とは違う環境や価値観の人が集まる異質のコミュニティにもぜひ参加してみてください。異質性の高いコミュニティで幅広い情報を得て、同質性の高いコミュニティで深い情報を仕入れる。この2種類のコミュニティに参加するのがお勧めです」
3つ目の自己理解は「車のハンドルのようなもの」と黒田氏。どれだけスキルと人的ネットワークがあっても、自己理解がなければ自分にまったくフィットしない仕事にピボットしてしまう。自分は何に価値を感じ、何が好きか。あるいはどんなことにパフォーマンスを発揮できるか、自分自身の価値観を知る。自己理解が深まれば、ピボットのためのハンドルさばきが上手にできるようになる。
「3つの蓄積」を貯めていく方法としては、マッチングサービスの利用や自己発信といった「新しい人に出会う」アクション、イベントを主催したり、コミュニティに参加したりする「新しい場に出向く」アクション、ギグワークやギブワークをする「新しい機会を生む」アクションがある。「これらすべてを実行する必要はなく、自分ができそうなものを選んでやってみてほしい」と黒田氏はアドバイスする。
ライフピボットを考えるときのツールとして黒田氏が編み出したのが「ハニカムマップ」だ(図2参照)。
出典:山下正太郎氏の資料を基に作成
これは、今、自分自身にどんな蓄積があるのかを認識するためのもので、手持ちのカードがどれだけあるかを面で捉えることができる。真んなかのマスに現在のキャリアと手持ちのカードを書き、隣接したマスにカードの組み合わせから考えられる新しいキャリアの可能性を書き出していく。
「このスキルとこのネットワークを組み合わせたらこんなキャリア展開ができると、将来の可能性を面で捉えることができます」
1つの会社だけに属する時代から、今後はプロジェクト単位でさまざまな組織と仕事をするような働き方が増えていくだろう。多様な働き方に適応できるよう、20代、30代のうちから副業や社内起業を経験してみるなど、自分のライフに変化を起こして、ピボット慣れしておくことが大事だ。
「コロナ禍のような大きな変化が起こったときに、そこから何を学び、どう適応するのかという考え方をしていけば、長期的なキャリアの舵取りが可能になります。自分自身が自分の上司になるような観点で、どうすれば成長するか、変化できるかを考えてみる。それさえできれば、どんな状況にも適応できます」
黒田悠介氏
ディスカッションパートナー、議論メシ主宰
2004年東京大学理科一類で入学するも、心理学に関心を持ち文学部に転籍後、卒業。2社のベンチャー→2社起業(売却)→キャリアコンサルタント→フリーランス研究家→ディスカッションパートナー→コミュニティ主宰、という紆余曲折なジャングルジム型のキャリアを持つ。新しいキャリア論『ライフピボット』(インプレス)の著者。問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を主宰。
ハンチング帽とメガネがトレードマーク。