組織 人財 アンケート調査 女性がリーダーになることの心理的ハードルをいかに下げるか

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2022.05.11

2021年3月に世界経済フォーラムから発表された「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本は総合スコアにおいて156ヵ国中120位で、先進諸国の中で最下位クラスにとどまっている。指標の一つである経済分野においては、管理職の女性の割合が低いことや女性の平均所得は男性より4割以上低いこと、またパートタイムの職に就いている女性の割合は男性のほぼ2倍であることなどが指摘されている。Adecco Group Japanが行った、「女性管理職を対象にした意識調査(2018年・2021年比較)」調査では、女性が管理職を目指したくない理由が明らかになった。Adecco Group Japanで、人財育成・組織変革を展開するリー・ヘクト・ハリソン事業部本部長の馬場一士が調査結果を読み解きながら、女性リーダーの活躍を推進する方法を探る。

昇進・昇格を望まない理由とは

「この数年で働く環境は大きく変化しました。最大の変化は、コロナ禍においてリモートワークが定着したことと、ジョブ型雇用を採用する企業が増えたことです。リモートワークのメリットの一つは、家事、育児、介護などと仕事を両立しやすくなることです。一方、ジョブ型の働き方には、仕事のミッションが明確に定義されることによって、自分のキャリアの方向性や注力すべきことが明確になるという大きな利点があります。

働く環境は総じてよい方向に向かっていると言えますが、Adecco Group Japanの調査からは、女性管理職を取り巻く環境は必ずしも改善されているとはいえないことがわかりました。本調査では、課長職相当以上の女性管理職約1000人の意識を調べたもので、2018年に実施した同主旨の調査結果との比較も行っています。

その結果を見ると、現在管理職にある女性の中で今後さらなる昇進を希望する人は約半数にとどまっており、2018年に比べて5.8ポイント減っています(図1)。昇進・昇格に挑戦したくない理由として最も多かったのは、『ストレスが増えるから』で、18年比で2.7ポイント増えています。同じく18年比で増加しているのが、『自分には向いていないから』『上司を見て大変そうだから』の2つでした(図2)。」

「ここには、リモートワークの負の側面があらわれていると考えられる」という。

図1 Q. 今後、昇進・昇格の打診があれば挑戦してみたいと思いますか(複数回答)

図2 Q. あなたが昇進・昇格に挑戦したくない理由はなぜですか(複数回答)

 

「リモートワークには、リアルの対話のようなきめ細やかなコミュニケーションがしにくいというデメリットがあります。とくにマネジメントクラスの人たちの中には、リモートワークになって部下との意思疎通や指示の伝達が難しくなったと考えている人が少なくありません。上司がリモートワークで苦労をしているのを見て、『自分には無理』と感じるようになった人が増えたと考えられます。

また、ビジネス全体を取り巻く環境が大きく変化し続けているため、マネジメントクラスに求められるタスクやミッションは増加する傾向にあります。デジタル化への対応や人財育成などの点で、以前よりも難しいマネジメントが求められていることを感じて、『大変そう』『自分には向いていない』と考える人が増えていると思います。」

女性が活躍できる組織の3つの要素

しかし、マネジメントの仕事が大変そうと感じる点では、男性も女性も同じはずだが、とりわけ女性が昇進・昇格に尻込みする理由は一体何なのだろうか。

「私は、『リーダー像』に大きな問題があると考えています。これまで、多くの日本企業のリーダー層は男性によって占められていました。つまり、従来のロールモデルとしてのリーダー像は、おおむね『男性的リーダー像』だったということです。それを目標にリーダーになるということは、女性が『男性のように』しなければならないことを意味します。これまでの男性リーダーのようなリーダーにならなければならないとすれば、『自分には向いていない』『ストレスが増える』と考えてしまうのも無理はありません。」

では、そのようなリーダー像を変えていくにはどうすればいいのだろうか。

「女性が活躍できる組織には、大きく3つの要素が求められると考えられています。『制度』『組織文化』『マインドセット』です。
『制度』とは、ジェンダーに関係なく平等に処遇を受けられる社内の仕組みを意味します。すでに多くの企業では、そのような仕組みの整備が進められていると思います。一方、より難しいのが『組織文化』と『マインドセット』の変革です。私たちは、その2点について企業向けの研修プログラムの提供等を通じて支援を行っています。

組織文化を変えるために最も重要な要素は、企業トップのコミットメントです。トップが『女性が活躍できる会社にする』という方針を掲げるだけでなく、その意志を継続的に示していく必要があります。カルチャーは一朝一夕に変わるものではなく、制度とも連動させながら、長期的に変革に取り組んでいかなければなりません。」

1. 制度

ジェンダーに関係なく平等に処遇を受けられる社内制度の策定や仕組みづくり

2. 組織文化

企業トップが「女性が活躍できる会社にする」という方針を掲げ、その意志を継続的に示していくことが重要

3. マインドセット

働く女性のマインド変革とあわせて上司のマインド変革をトレーニングすることが必要

私もリーダーになっていいんだ

「3つめの『マインドセット』は、働く女性のマインドを変革していくことを意味します。私たちが提唱しているのが、従来の『男性的リーダー像』を目指すのではなく『自分らしいリーダーシップ』を実現していくことです。『自分らしいリーダーシップ』とは何か。その人の性格、これまでの経験、得意なことと不得意なこと、価値観──。そういったその人特有の個性をいかしたリーダーシップです。

もちろん、すべてがそのままでいいというわけではありません。まずは『自分らしいリーダーシップ』という考え方を受け入れ、そのうえでリーダーに必要とされるロジカルシンキングや戦略的なコミュケーションの方法を学び身につけていくというのが、私たちが提供しているプログラムの考え方です。

ダイバーシティ&インクルージョンへの先端的な取り組みで知られるある企業では、このプログラムを受講した女性社員が、受講終了後に社長の前でプレゼンテーションをすることが定例となっています。ある女性は、自分がなぜこのプログラムを受けなければならないのか分からないまま参加し、リーダーになりたいという強い思いもなかったけれど、『自分らしいリーダーシップ』という考え方に接して、『私もリーダーになっていいんだ』と思えるようになったと社長に伝えたと言います。

多くの女性が、リーダーへの挑戦をハードルが高いと感じてしまうのは、『男性的リーダーシップ』が前提になっているからです。その心理的障壁を外し、いろいろな形のリーダーシップがありうるし、自分らしさをいかしたリーダーシップを実現すればいいという考え方を定着させていけば、女性管理職はもっと増えていくに違いないと私たちは考えています。」

多様化する人財に合わせた多様な育成方法を

女性の意識変革だけではなく、同時にリーダー候補を育てる上司の意識変革も必要だ。

「一般に、上司の立場にある人たちは部下を育成する際に、自分の考え方や経験をベースにして、自分と同じような人財を育てようとしてしまいます。いわば、自分のクローンをつくろうとするわけです。『自分らしいリーダーシップ』を実現するには、そのような育成方法を改めなければなりません。自分とは異なる存在である部下の人間性を尊重し、その人間性を十分に伸ばすような育成方法が求められます。

これはつきつめれば、女性の部下だけではなく、あらゆる人財の育成方法に当てはまる考え方であると言っていいでしょう。ますます多様化していく人財の多様な能力を伸ばすためには、一律の育成方法では通用しない時代になっていると考えるべきだと思います。

その人がその人の個性をいかしたリーダーになれる──。それが当たり前の世の中になっていけば、諸外国に大きな後れを取っている日本の女性活用は、今後確実に前進していくはずです。」

Profile

馬場一士
リー・ヘクト・ハリソン事業部 本部長

馬場 一士