高い経済成長が続くベトナム。美しい自然やフランス植民地時代の面影を残すコロニアル建築、野菜たっぷりのベトナム料理などさまざまな魅力を持ち、人気の観光地となっている。2010年にベトナムに移住し、ベトナム在住日本人向けメディアなどを手掛ける三好辰也さんに、ベトナムにおける人々の働き方や仕事に対する考え方などについて聞いた。
経済成長の著しいベトナム。目の前の仕事に懸命に取り組めば、自然に給与も上がる
――三好さんは日本で会社勤めをしながら起業を目指していたそうですが、どんなきっかけで独立し、ベトナムに移住したのですか。
実家が自営業だったので、子どものころから「いつかは自分も会社を起こしたい」と思っていました。大学卒業後はデジタルマーケティングの会社に就職しましたが、同僚と一緒に起業アイデアを出し合いながら機会をうかがっていました。そうしたなか、海外でフリーペーパー事業を手掛けていた知り合いから「ベトナムなど東南アジアでも事業を展開したい」と言われ、彼のビジネスパートナーになって自分たちも事業を立ち上げようと決意しました。海外で働くことに思い入れがあったわけではありませんが、新しいことにチャレンジしたいという思いは強かったので、2010年、同僚と2人でベトナムに渡りました。その後、インドネシアとシンガポールにも事業を広げています。
KiuPlat(キウプラット)という社名には『東南アジアで生活している日本人を応援したい』という想いを込めたと語る三好さん(写真左)
――ベトナムの人々のキャリア観について教えてください。
ベトナム人にとって、仕事は人生における最優先事項ではありません。家族との時間が何より大事なので、残業はせず、定時に帰って家でゆっくり過ごします。会社帰りに同僚と飲みに行くこともありません。有給休暇も全部使って、家族や恋人との時間に充てています。
日本では、10年後、20年後のキャリアイメージを明確に考え、計画的にキャリアを積んでいく人も多いと思いますが、ベトナムではそういった考えはあまりありません。将来を考えるよりも、目の前の仕事にひたすら向き合うという意識が強いですね。
ベトナムは高い経済成長が続いており、給与水準も年々上がっています。最低賃金は10年で約2倍に増えました。そのため、長期的なキャリア展望を立てなくても、目の前の仕事に懸命に取り組んでいれば、自然と道は開けるという考えを持つ人が多いようです。
――ビジネスで重視される考え方について教えてください。
ベトナムでは多くの企業が成果主義を取り入れていて、成果さえ上げていればプロセスは問われません。そのためか、ベトナム人は自分で考え、自分のやり方で仕事を進めたいと考える人が多く、上司にやり方を決められたり、指示されたりすることを嫌う傾向にあります。
ポジティブに受け止めれば「独立心が強い」といえるでしょうか。ベトナムは国として「独立・自由・幸福」というスローガンを打ち出しており、国民性を表しているなと感じます。
独立心の強さは、就労観にも表れています。1つの会社で長く勤め上げる人はほとんどおらず、より良い環境を求めてどんどん転職していきます。自分で会社を起こす人も多いですし、副業を持っている人も非常に多いです。
三好さんのオフィスでは、ベトナム人スタッフ、インドネシア人スタッフが一緒になって、日本人向けに現地の情報を発信するメディアを運営している。
――ベトナムでは「副業を禁止することを禁止する」法律があるそうですね。
ベトナムでは副業が当たり前なのです。当社のベトナム人スタッフも、副業で食品容器の専門店を経営していたり、自作のバッグを販売していたりします。本業での経験を生かして副業している人も多いようです。
日本では、副業の目的は収入を増やすためという人が多いと思います。もちろん、ベトナムでも収入が目的の1つになっているとは思いますが、人生をより楽しく豊かにするために、自分が好きなことを副業にしている印象です。
――ベトナムではテレワークが浸透していると聞きました。ベトナムの平均年齢は約31歳と若いですが、だからこそITへの親和性が高いのでしょうか。
コロナ禍以前から、テレワークは当たり前のように行われていました。若い人が多いからという理由もあるかもしれませんが、どちらかというと前述のように「自分のやり方で仕事がしたい人が多い」からだと思います。
働く場所も自由に選びたいとの考えから、カフェやコワーキングスペースなどで仕事をしている人を多く見かけます。ほとんどのカフェが電源・Wi-Fi使い放題で、会社以外の場所でも仕事ができる環境が整っています。
スマホで仕事を完結している人も多いのには驚きますね。例えばECサイトの運営や顧客対応、マーケティングなどの仕事をスマホだけで行っている人は少なくありません。カフェでスマホを操作していると休憩しているように見えますが、顧客とのリレーションのためにスマホで素早く対応しているのです。
――自由でマイペースな働き方をする人が多いということは、会社への帰属意識も低く、人間関係もドライなのでしょうか。
会社の同僚と一緒に何かをするのは大好きですよ。ベトナムの企業では社員旅行やグランピング、バーベキューなど、イベントがとても盛んで、社員の家族も呼んで盛大に盛り上がります。このようなイベントを充実させないと、魅力を感じてもらえず、転職されてしまいます。
三好さんの会社の社員旅行は、バスでの移動中もにぎやか。全力で楽しむのがベトナム流だ。
当社も社員旅行などのイベントを積極的に行っています。以前、社員旅行の前にスタッフから「みんなでおそろいのTシャツやキャップを用意してもいいですか」と聞かれて、仲間意識がこういう形で表れるのかと思いました。高度経済成長期の日本のようだと感じます。
社員旅行中はベトナム人スタッフ、インドネシア人スタッフでチームを組み、ゲームなどで対抗戦を行う。チームビルディングにも効果的だ。
一方で、日本とは違うところで、気を遣う点もあります。ベトナム人は自尊心が高く、人前で注意されたら辱められたと感じ、とたんにやる気を失ったり、あっけなく辞めてしまったりします。指摘すべきことがあるときは、別室に行って1対1で話をする必要があります。褒めたり感謝したりするときは、みんなの前で行うのが基本です。
女性は勤勉で働き者が多く、出産後の復帰率も高い
――ベトナムでは女性の就労率が高く、世界平均を大幅に上回っていると伺っています。
成果主義が徹底されているためか、仕事において男だから、女だからという考えはなく、平等です。これまで培われた文化などの影響もあるのか、どちらかというと女性の方が勤勉でたくましく、まじめで熱心な人が多い印象がありますね。
子どもができたら出産ぎりぎりまで働き、産休後も仕事に復帰する人が圧倒的に多いです。産休制度などワーキングマザーをサポートする制度が整備されていることもありますが、「子どものためにも自分がしっかり働き、家族を支えたい」という意識が強いようです。
――三好さんはベトナムのどんなところに魅力を感じていますか。
思いつめない性格の人が多い点ですね。失敗してもくよくよせず、次また頑張ればいいさと気持ちを切り替える前向きな姿勢がいいなと思います。国が成長のただ中にあるという背景もあると思いますが、とにかくポジティブで行動力があると感じます。
臆せずに自分の考えをどんどん言うのもベトナム人の特徴ですね。自信を持って堂々と発信する姿は見習いたいですね。
Profile
三好辰也氏
PT. KiuPlat Media代表取締役
2011年、ベトナムのSunrise Advertising Solutions Co., Ltd.に参画し、ベトナム在住日本人向けのメディア「週刊Vetter」の創刊・発行に携わる。2013年にインドネシア・ジャカルタでPT. KiuPlat Mediaを創業し、「週刊Lifenesia」を創刊・運営。2016年に創刊したシンガポール版「週刊SingaLife」の共同オーナー・ビジネスパートナーでもあり、ベトナムとインドネシアを行き来している。