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2024.11.13
グローバル視点で考察するZ世代の特徴

Z世代をはじめとする若年層は、その上の世代と異なる価値観を持つ。
これは日本に限らず世界的な傾向である。ではそのなかで、国やエリアに特有の特徴はあるのだろうか。Z・ミレニアル世代年次調査を行うデロイト トーマツ グループの専門家3名に、日本とグローバルでの若年層の共通点や相違点、それらを踏まえた企業側のマネジメントの留意点などについて聞いた。

グローバル調査で見る
若年世代の現状

デロイト トーマツ グループは、若年世代を対象とする年次グローバル調査を行っている。12回目となる『Z・ミレニアル世代年次調査2023』では、世界44カ国の当該世代2万2856名を対象に、社会課題に対する意識、自身の就業観、職場におけるメンタルヘルスの状況などについてアンケートを実施。2つの世代にどんな傾向が見られるのか、日本とグローバルの違いはどこにあるか、興味深い結果が明らかになっている。

前提として知っておきたいのは、先進国を中心としたグローバルと日本、そのいずれも、少子高齢化・人口減少を背景に、若年層の離職防止が企業にとって重要課題になっている点だ。国際機関のOECD(経済協力開発機構)によれば、加盟38カ国の65歳以上人口の割合は2022年には18%程度だったが、2050年には27%まで上昇する見込みだ。少子化が進み、若年層は年々減っている。

「若年労働者の存在は、今後ますます希少になります。すでに若手人財の確保と離職防止は、多くの国々の企業にとって重要なアジェンダになっています」(渋谷氏)

若年人口が減ることで、彼らは「売り手市場」の状況にある。言い換えれば、若年層が勤務先を選ぶ判断基準は年々厳しくなっているということだ。企業が若手人財を獲得するには、その期待に応えることが不可欠だ。これもグローバル共通のテーマである。

「今の若年層はメディアやSNSを通じて、コンプライアンスの遵守や多様性に配慮した職場づくり、ハラスメントへの対策が企業に欠かせないことを熟知しています。働き手に配慮した施策をしっかりと導入しなければ、若年層に選ばれない。そういう時代になっていることを企業側は十分認識する必要があります」(小野氏)

世界的に若者が感じる
経済的不安の背景

今回の調査結果によると、経済情勢に関するZ・ミレニアル世代の最大の関心事として「生活費の高騰」が挙げられている。景気の停滞や悪化によって自分のキャリアやライフイベントが影響を受けることを危惧する割合も、グローバルで約50%、日本で約40%となった。エリアを問わず、若者の間で経済的な不安感と自身の先行き不透明感が広がっていることがわかる。グローバル共通の傾向だ。一方で、異なる価値観もある。

「欧州の若者は環境意識が高く、環境に配慮した企業を勤務先として選ぶ傾向があります。消費者としても、企業のパーパスや環境への取り組みを高く評価する。欧州では温暖化問題などについて日常的な報道が多く、自然に関心が高まりやすいのでしょう。それに比べ、日本の若者の環境意識は明らかに低い。教育や報道のあり方などさまざまな要因が考えられますが、日本の若者は社会課題よりも目先の経済的な危機感を重視しやすいと考えられます」(古澤氏)

日本と海外の違いには、各国の雇用の枠組みも深く関係している。例えば米国はジョブ型雇用が中心で、労働者に対する保護は弱い。必然的に若者は企業や社会が提供する訓練機会やキャリアアップのチャンスに敏感になりやすい。デロイト トーマツ グループの調査でも米国のZ世代はリスキリングに対する関心が高くなっている。

「一方欧州では、ドイツを例にとると、職業訓練を重視し、中等教育段階で進路が早期に分岐する教育制度が伝統的に定着しています。そのため大卒者は希少性が高く、レイオフで職を失うようなことはめったにありません。また欧州のなかでも特に労働者保護が強く、企業が積極的にリスキリング等の機会を用意している。このような労働市場を反映してか、同国のZ世代では、失業問題や教育訓練への関心は相対的に弱いといえます」(渋谷氏)

そして日本はメンバーシップ型雇用の要素が色濃く残っている。しかしZ世代は従来の雇用慣行のもとで、自分たちがこの先、上の世代と同じように安定的キャリアを歩めるとは考えていない。その一方で、学習機会やリスキリングへの関心度は同じ経済水準の国々のなかで最低レベルである。不安はありつつも、限られた所得や時間をどうリスキリングに投資すべきか判断しかねている状況かもしれない。

もう一つ興味深いのが、「2年以内の離職意向」の年次調査結果だ。2019年から2023年まで、グローバルではZ世代とミレニアル世代の意向の変化はおおむね相似形を取っている。しかし日本では、直近2年間でZ世代の「2年以内の離職意向」が40%という高い水準で推移しているのに対し、ミレニアル世代は13%と、前年調査よりさらにポイントを下げた(図参照)。

2年以内の離職意向

2年以内の離職意向 2年以内の離職意向

Z・ミレニアル世代に2年以内の離職意向を聞いた。グローバルと比較しても、日本のミレニアル世代だけが前年同様に低い水準で推移している。

出典:デロイト トーマツ グループ「Z・ミレニアル世代年次調査2023」を基に作成

日本では、Z世代は不満があると早々にその職場に見切りをつけるが、ミレニアル世代は不満があっても今の職場にとどまろうとしているように見える。これは世代間の相違というより、ライフステージの違いが影響している可能性があるという。調査対象となったミレニアル世代の多くが30代後半と、結婚や出産、住宅購入などを経験するライフステージにある。一方で日本の労働市場は流動性が乏しく、自発的なリスキリングを促す仕組みもないため、良い条件での転職は期待しにくい。

「ミレニアル世代は転職に明るい未来を見出せず、離職意向があってもアクションに移せずにいるのだと思います。企業側もライフステージに応じた柔軟な勤務形態や制度を十分整備できていません。こうした課題が放置されたままでは、ミレニアル世代に続くZ世代やその後の世代も、活力を失っていく可能性があります。世代論ではなく、日本の構造的な課題を示唆しています」(古澤氏)

実践的な成長機会の確保が重要に
AIが若者に与える影響

国内でもグローバル人財の新卒採用に取り組む企業は増えている。今後、企業は若者世代にどう対応していくべきか。基本的なことだが、多様性が進むなかで、個の違いを認めながら組織としての力を発揮させるマネジメントや人事施策がますます重要になる。

「若い世代の価値観や志向性の多様化は、今後さらに強まっていくでしょう。企業を見る目もより厳しくなるなかで、いかに自社の魅力を伝えるか、人を引きつける人事施策を打てるか。キャリアパスの提供も含め、個を中心としたマネジメントに取り組む必要があります。そして、個人の成長と企業の成長を両立させる。難しい課題ですが、企業側がどれだけ本気で取り組むかが問われます」(小野氏)

もう一つ意識しておきたいのはAIの影響だ。AIの発展によって、従来の若手が「下積み」として経験してきた実務領域はさらに縮小するだろう。雇用が一気になくなるわけではないが、仕事の種類は変わり、結果的に成長する機会までが減る恐れがある。

「実践から学ぶ機会は、人として必要なコミュニケーション能力や共感力、想像力、チームをまとめる力などを伸ばすために必要なものです。若者たち自身が実践の場を求めていくことが必要ですし、政府や企業が実践の機会を意識的に提供していくことも重要です。併せて、労働市場の流動化や個の自律のための施策も、国全体として推進していく。それによって、若い世代が新しいことにチャレンジできる機運が生まれるのではないでしょうか」(小野氏)

Profile

小野隆氏

小野隆氏
デロイト トーマツ グループ パートナー
デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 執行役員

古澤哲也氏

古澤哲也氏
デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 執行役員
Human Capital Offering Deputy Leader

渋谷拓磨氏

渋谷拓磨氏
デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 シニアアソシエイト