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若手社員マネジメントのキーワード

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2024.11.19
コミュニケーションよりも「仕組み化」 若手社員マネジメントのキーワード

1990年代半ばから2000年代生まれの年齢層である「Z世代」。その多くが今、企業の現場で本格的に活躍し始めている。人手不足が年々深刻化するなか、若手社員の価値観やコミュニケーションの特徴を理解し、離職を防ぎ、活躍を促すことは、企業にとってますます重要になっている。企業は今の若者世代の価値観や行動規範をどう捉える必要があるか。活躍を促すためのマネジメントや接し方の留意点は何か。1on1ミーティングなどの方法は有効なのか。
イノベーション論の研究者であり、著書『静かに退職する若者たち』を発表するなど現代の若者の実像にも詳しい金沢大学 融合研究域教授 金間大介氏に聞いた。

若手社員との意思疎通に悩む
管理職

笑顔で1on1ミーティングをした翌週に、退職代行サービスを通じて「辞めたい」という連絡があった……。金間大介氏の著書『静かに退職する若者たち』の冒頭で紹介されるエピソードは、多くの管理職にとって人ごとではないかもしれない。「若手社員の考えや価値観が理解できない」「コミュニケーションをとっているつもりなのに、うまく意思疎通が図れない」「本音を聞かせてくれない」と悩む管理職は多い。イノベーションやマーケティングの研究者である金間氏も、ヒアリングのため企業を訪れるたびにこうした悩みの声をよく聞くそうだ。

もう一つ管理職からよく聞く悩みは、若手社員が「自分から行動しようとしない」ことだという。

わかりやすい事例としては、社内公募企画のケースです。若手社員を想定して参加を積極的に呼びかけても、主体的に応募してくるのはいつも決まった顔ぶれで、全体の1割程度しかいない(図1参照)と。最近の若者はどうしてこんなに控えめなのか、という声をよく聞きます」(金間氏)

図1Z世代全体の気質といい子症候群の若者の構図

Z世代全体の気質といい子症候群の若者の構図

Z世代のうち、はっきりと意思表示をする若者は1~2割ほど。半数以上が自分の気持ちや本音を隠して「いい子」像を演じようとする「いい子症候群」だという。

出典:金間大介氏の資料を基に作成

「いい子症候群」と
「平均至上主義」の若者像

イノベーション研究のなかで、非アントレプレナーに関する研究も行うようになったという金間氏。計101人の若手社員と企業の人事担当者を対象に実施したヒアリング調査では、非常に興味深い見解を提示している。現在の若者世代に共通して見られるのは、顕著な「いい子症候群」の傾向と、「平均至上主義」と呼べる価値観だと指摘する。

いい子症候群とは、親や大人世代から求められる「いい子」像を演じようとする心理的傾向のことだ。感じよく接するが、自分の気持ちや本音は明かさない。目立つことを嫌う。こうした傾向自体は、Z世代に限らず以前から若者世代に見られるものではあったが、金間氏は「Z世代を含む今の18~33歳の層はこの傾向が強い」という。大人とうまくコミュニケーションをとるためのテンプレートを持っていて、それを使っていつも愛想よく、そつのない会話をする。これは「平均値にとどまりたい」という思いに基づく防衛反応で、金間氏は「平均至上主義」と表す。周囲の仲間たちからこぼれ落ちたくないが、突出したくもないという価値観だ。なぜ今の若者たちはこのような価値観や行動特性を備えるようになったのだろうか。

平均からの脱落を恐れる一方で、平均以上の目立つ行動を避けるのは、負荷が増えるのに対して得られるメリットはほとんどないからだという。社内公募企画に参加しても成功する保証はないし、うまくいった場合の昇給や昇進などが提示されているわけでもないので、わかりやすい恩恵は期待しにくい。

「日本のこうした状況を、私は『ゼロメリット社会』と呼んでいます。多くの調査結果が示しているように、今、出世したいと考える若者は極めて少ない。若者にとっては、出世のメリットがほとんどない一方で、目立つことの負担が大きいと感じるのです。集団の平均にとどまるほうが、社会人人生の幸福度が高いという結論に至っているのでしょう。『いい子』像を演じるのも、余計な負荷や心理的ストレスを回避するための自己防衛なのです(図2参照)」(金間氏)

図2「あなたは大勢の前で褒められたいですか」という問いに対する回答結果

「あなたは大勢の前で褒められたいですか」という問いに対する回答結果 「あなたは大勢の前で褒められたいですか」という問いに対する回答結果

仕事の評価方法に関し、Z世代からは「大勢の前で褒められると、周囲の期待を集めるので嫌だ」「1on1で褒められたい。自分がやっていることが正しいと安心できる」などの声が聞かれた。

出典:SHIBUYA109 エンタテイメント「Z世代の仕事に関する意識調査」を基に作成

親世代の価値観が影響している可能性もあるという。1990年代初頭のバブル崩壊以降に社会人となり、経済成長を経験していない世代が、今の若者の親世代に当たる。「控えめに生きてきた世代であり、親心から、子どもたちに対しても大きな失敗をしないように育ててきたのかもしれない」と金間氏は言う。

そういった社会背景から「平均値からこぼれ落ちると戻ってこられない」という怖さが生まれる。仕事における経験・スキル・評価だけでなく、友だち付き合いや消費行動を含む生活全般で「真ん中にとどまらなければ」という気持ちがあるという。「ゆるブラック」への不安から退職代行サービスを利用して会社を去るのも、ファッションへの意識が高く、皆が同じようにトレンドを押さえた服装をしているのも、「身近な友だちや仲間の平均値から外れたくない」「余計なコミュニケーションコストをかけずに平均をキープしたい」という思いの表れだと金間氏は分析する。

若手のマネジメント実践のヒントは
「ルール明確化」と「自己開示」

では、こうした複雑な特徴を持つ今の若手社員を、管理職はどうマネジメントすればよいのだろうか。金間氏は「すべてがコミュニケーションで解決するなどとは考えないでほしい」と強調する。ここまで見てきたように、今の若者の価値観や行動特性は、経済・社会情勢や家庭環境などを背景に、長い時間をかけて形成されたものだ。1on1ミーティングを取り入れたとしても、的確なコミュニケーションを図れなければ、テンプレート式の表面的な会話になってしまうかもしれない。わかりやすい短期的な成果を求めるのではなく、地道に取り組んでいく長期戦の姿勢が必要だ。

金間氏が主に課長クラスのミドルマネージャーに向けて推奨するのは、まず自分の権限でチームのルールを明確化する「仕組み化」だ。小さなことからでもいい。例えば、課長の権限で「朝の出社時に大きな声でおはようと挨拶する」と、ルールとして明確に決めるといったことだ。

「多くのマネージャー職は、ルールを守らない社員がいても注意しなくなっているが、そこはしっかりと徹底すること」と金間氏は加える。

この際、部下の行動に対して必ずフィードバックすることも重要だ。図3に示した調査結果でも、新入社員が「意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること」は、「成長や力量に対する定期的なフィードバック」が圧倒的な第1位となっている。フィードバックは管理職が身につける必要のある最も重要なスキルの一つといえるが、意外と怠りがちだと金間氏は指摘する。部下が想定していた締め切り日までに指示通りの資料を提出してきたとき、何のフィードバックもせずスルーしてはいないだろうか。若手社員は「スルーされた」イコール「自分が何か悪いことをした」と捉えてしまう可能性があるという。「これでOK」「問題ないよ」といった軽い内容でよいので、フィードバックは必ず行うことが重要だ。

図3新入社員が意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること
(上位3つ選択)

新入社員が意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること(上位3つ選択) 新入社員が意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること(上位3つ選択)

出典:日本能率協会「2022年度 新入社員意識調査」

「フィードバックする際に『評価』や『称讃』の言葉を盛り込もうと考える上司もいますが、それは不要です。かえって期待圧のようなものを感じさせてしまいます。若手社員は、評価や称讃を求めているのではなく、自分の行動が正しかったかどうかを確認するための『目安』がほしいのです。若手社員の価値観を理解し、軽いフィードバックでよいので、忘れず、できるだけ高頻度で行うことを心がけてください」(金間氏)

もう一つ、有効な方法として挙げられるのがメンター制度だ。一般的なメンター制度では、業務に対する一定の知識と経験を積んだ先輩社員がメンターとなるが、金間氏が推奨するのは、入社3年目ぐらいの若手社員がメンターとなり、新人社員との会話の機会を設けるというもの。先輩が業務上の指導をする機会というより、年次の近い若手同士が週1回程度のペースで、職場の小さな悩みや疑問を共有し合うイメージである。

ポイントは、上司への報告義務を一切なしにすること。会話内容を上司に報告されるとわかると、表面的な会話しかできなくなってしまうからだ。「このような仕組みをつくると、メンターとなった先輩社員たちは、後輩たちの面倒をかなり真剣に見てくれるはずです。入社1年目の社員が、このようなサポートを得られる心理的なメリットはかなり大きいでしょう。これだけですぐ主体性が生まれたり離職が顕著に減ったりという劇的な効果が得られるわけではありませんが、気軽に相談できる先輩社員がいることで、頼んだ仕事を締め切り過ぎても放置してしまうとか、突然会社に来なくなるというような深刻なトラブルはなくなっていくはずです」(金間氏)

今の時代、管理職が「部下の主体性を引き出すマネジメント」を目指そうとするケースは多い。しかし金間氏の提案する若手のマネジメントの手法は、そのイメージとは異なる。

主体性が重要だとはいえ、前述したゼロメリット社会のなかで、「自分なりの目標を見つけましょう」「やりたいことの実現に向けて頑張ろう」などと上司が繰り返し言っても、若手社員の心には響かない。むしろ、やりたいことや将来の夢を大人が問いかける姿勢は、見方を変えると一方的な主体性の強要とも捉えられてしまう。

「若者の主体性を引き出したいのであれば、全体の9割は明確なルールに基づいた行動を求めたうえで、管理職自身が挑戦したいことを率先して宣言するのが重要です。例えば飲食店であれば、新メニューのアイデアを思いついたから一緒に開発しないかとか、そういうレベルの宣言で構いません。責任はとるから一緒にやってみないかと、まず自分から宣言する。すると、手伝ってもいいですよと手を挙げてくれる人が出てくるものです」(金間氏)

管理職からの自己開示は、若手社員からの信頼獲得のきっかけになる。また、彼ら彼女らの主体性を刺激することにもつながるという。

「若者たちにも、前向きさはあるんです。大切なのは、彼ら彼女らの考えを理解して尊重し、信頼関係を築いていくこと」と金間氏は言う。目立ちたくない、平均にとどまりたいという気持ちの陰にある若手の価値観に寄り添いながら、一人ひとりの主体性を少しずつ引き出していくことが必要なのかもしれない。

Profile

金間大介氏

金間大介氏
金沢大学融合研究域融合科学系 教授
東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授
一般社団法人WE AT 副代表理事

北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士〈工学〉)、バージニア工科大学大学院。文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授などを経て、2021年より現職。博士号取得までは応用物理学を研究していたが、博士後期課程中に渡米して出会ったイノベーション・マネジメントに魅了される。それ以来、イノベーション論、モチベーション論等を研究。
主な著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)など。