取材協力 鈴木康司氏(コンサルタント)
では、日本企業には強みがまったくないのでしょうか。もちろんそんなことはありません(表3)。「徹底した品質管理や、ものづくりに打ち込む姿勢、顧客を大切にする考え方。そういった日本人の特性に共鳴する声はアジア諸国には多く、それゆえ日本企業員のロイヤリティが高いという際立った特徴があります。社員が自社の製品やサービスに対して強い誇りを持っているという点で、日本企業は欧米や現地企業の優位に立っていると言えるでしょう。また、『時間と手間をかけた人材育成』という考え方も、日本企業ならではのものです」 しかし、そのような日本企業の特質は、アジアのビジネスパーソンに十分に伝わっているとは言えません。日本企業に求められているのは、改善すべき点は見直しつつ、日本企業独自の魅力を広くアピールしていくことなのです。
日本企業がアジアで優秀な人材を獲得し、その定着を図るために必要なことは、おおむね、次の3 点に集約されます。
1点目は、横並びのシステムを改め、能力や意欲に見合ったキャリアを築けるような仕組みを作ることです。
2点目は、キャリアパスの多様性を確立することです。「本社」「ローカル」といった枠組みにとらわれることなく、国や地域を越えて人材を動かす。個人が高いパフォーマンスを発揮できる場所や、ポジションの選択肢を広げる必要があります。
そして3 点目。とりわけ、学生を対象とした自社のPR 戦略を練り直すこと。広告宣伝によるイメージアップはもとより、現地の大学に講座を開設するなどして学生との結びつきを強める、あるいは、英語や現地の言語のウェブサイトを充実させる、といった方法が考えられます。この施策は拠点単位ではなく、グローバルで統一した方針を策定すべきと鈴木氏は言います。
現在、円高を背景としたアジア地域でのM&A が加速しています。M&A は、事業拡大だけでなく、優秀な人材獲得の大きなチャンスでもあります。「今後、アジアにおいて力のある組織作りを実現するには、自社で優秀な人材を獲得し育成するという方法と、他社から取り入れた人材の最大活用という両面で、人事戦略を考えていくことが求められるでしょう」
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