従業員が「働きがいがある」と考える会社には、どのような特徴があるのか。
また、そこで人事部が果たしている役割とは……。
いくつかの企業の取り組みを見ながら、「働きがい」とは何かを探る。
新聞や雑誌で「働きがい」という言葉を目にする機会が増えている。元来普遍的な価値である働きがいが、昨今注目されているのはなぜか。企業の人事戦略に詳しい一橋大学の守島基博教授は、その背景には二つの事情があると話す。
「一つは、バブル経済崩壊以降の二十数年間にわたる効率重視の経営からの転換です。組織にとって、業績や目標達成は重要ですが、あまりに急激な成果主義一辺倒の流れによって、"チームでより良いものを生み出し、その流れの中で人を育てる" という、日本の現場にあった仕事の喜びが失われ、働くモチベーションが低下してしまった。そのあり方を変えようとしている企業がここ数年、増えているのだと思います」
「もう一つは、働く人の個性や自立性、創造性などが会社の業績を左右する時代になってきたということです。従業員一人ひとりが、それぞれの力を最大限発揮し、経営に寄与するためのベースとなるのが働きがいです」
働きがいとは、端的に言えば「自分が従事している仕事に意味が見出せること」だと守島氏は言う。毎日の労働に充実感があり、それが会社や社会への貢献につながっているという実感。それがすなわち、「仕事の意味」である。
「『仕事の意味』は、経営側が一方的に与えるものではないし、従業員が個人的に作れるものでもありません。企業全体のビジョンと、働く人の意志との結節点に生まれるものです。その結びつきをうまくコーディネートすることが、現場のマネージャーはもちろん、人事の大切な役割なのです」
守島氏は、これからの人事の最も重要な機能は「ケア」であると話す。従業員には、当然ながら仕事の成果を上げることが求められるが、それを促すのは現場のマネージャーの仕事である。現場全体が最大限の力を発揮できるよう、マネージャーを支援すると同時に、現場が「仕事の意味」を獲得することをサポートしていくこと。それがこれからの時代の人事に求められます。
「バブル以降、多くの企業の人事部は、経営サイドの意志を受けて、働く人を管理する役割を担ってきました。しかし今後の人事には、経営のビジョンと働く人のニーズをキャッチし、それらを取り込んだ人事戦略を立てることが望まれます。まずは現場に足を運び、個人が最大のパフォーマンスを発揮するために会社として何をサポートできるか、そのヒントを、対話を通じて引き出す。そして、従業員が自らの自立性に応じて働ける環境作りを目指す。
『規制の人事』から『人を育てる人事』へ──。働きがいを創出する人事部のチャレンジが求められている。
profile
一橋大学大学院商学研究科教授。1980年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。慶應義塾大学総合政策学部助教授などを経て、2001年より現職。