日本企業のグローバル化が進む中、従業員の国際間競争も浸透しつつある。ところが現在の日本人は、肝心の“やる気”が低いといわれる。その理由とは?また、社員のモチベーションを上げる方法とは?識者の声を聞きながら、モチベーションの本質を探っていく。
全社員のうち3%――。ある調査で浮かび上がった、「会社に貢献したい」という意欲の高い日本人の割合だ(タワーズワトソン調べ)。しかも、この調査によると、こうした傾向は長きにわたり続いている。もう少し質問を絞り、「私は、会社の成功のために、求められる以上の仕事をしたいと思う」という問いを投げかけても、グローバルでは実に78%の従業員が「非常にそう思う」と答えたのに対し、日本人従業員でそう答えたのは、半数を下回る49%に留まった。日本人は活力を失ってしまったのだろうか? タワーズワトソンのデータ・サーベイ部門ディレクター岡田恵子氏は、こう分析する。
「当社ではモチベーションに近いものとして『エンゲージメント(組織への貢献意欲)』という概念を提唱し、調査していますが、日本人のエンゲージメントのスコアは長年、G8の中で最下位です。もっとも日本人の場合、こういった調査の回答として『どちらともいえない』を選択する傾向が多分に見られるので、実際に極端にエンゲージメントが低い人が多いわけではありません。ただ、低成長の長期化、企業の業績不振、それによる社員の報酬の減少、管理職ポストの削減など、さまざまなマイナスの要因が絡んだ結果、『組織のためにがんばることが自分のやりがいだ』と、言いきれなくなっている現状があります」
組織(経営)に対する不信――。一橋大学大学院教授の守島基博氏も、日本人のモチベーションが低い理由の一つを、そう総括する。
「大きな理由の一つは、目標管理制度の偏った運用にあります。本来、評価は人材が以前より成長した部分、すなわち能力開花を確認し、それを認証することにありました。ところが最近の評価の仕方は、従業員に短期的な目標設定を求め、そこから逆算して、今何が不足しているか、マイナス面で評価するようになりました。要するに評価制度がただの進捗管理になってしまったのです」
守島氏は、従業員に課される目標があまりに短期的になったことで、社員一人ひとりが目標や希望を持ちにくくなっている、と指摘する。
「成長期の日本企業には、テレビ番組『プロジェクトX』に出てきた成功譚のように、従業員がやってみたいと思うことを『やってみろ』と言えるだけの経営的余裕も、リスクが取れる上司もいました。しかし20年近く厳しい経済環境が続いた今の日本の組織に、そのような大きなチャレンジに経営資源を投入する体力はありません。なおかつ上司自身も短期的な目標に縛られているため、部下に挑戦を促すことが難しくなっています」
部下の積極的な意志や夢を尊重してあげられないマネジャーは、部下から尊敬されなくなるのは必然だ。そして守島氏はこの“付いていきたい人がいなくなった”問題もモチベーション低下の要因だ言う。
「日本人は、昔から『あの人みたいになりたい』という人に私淑することで、モチベーションを高める傾向があります。しかし今の管理職は自身の仕事が忙しい上に以前ほどの裁量はなく、さらに高い報酬を得ているわけではない。また自らの目標達成のために、仕事ができる部下とばかり仕事をしたがる人も増えている。よって若年層は以前ほど上司に憧れを抱かなくなってしまいました」
上司像が魅力的に見えなくなったことは、若手が昇進意欲を失うことにも直結している。
「過去の日本企業でよくあった姿として、『がんばれば上のポストが待っている』と、昇進が社員のモチベーション管理の有効な一つの方法でしたが、出世しても何もいいことがないと思われては、モチベーションが低下するのは当然です」