日本だけではない、先進国を覆う若年労働者の雇用問題 【前半】

若者が働くこと、若者を育てること

2003年以降、急速に社会問題化している若年労働者の雇用。最近では、高齢者に関連する雇用制度とも重なり、問題はより複雑化しているかのようだ。若年者雇用問題の核はどこにあり、何が若者の「働く」を阻害しているのか。若者の雇用・育成をどう捉え考えていくべきか──問題の本質に迫る。

1.日本だけではない、先進国を覆う若年労働者の雇用問題 (1/2)

先進各国が頭を悩ませる若年労働者の雇用問題

高止まりする若年者失業率、七五三”といわれる離職率――。ここ数年来、若年層の雇用問題は、社会問題化するほど、注目も集めている。

直近では安倍政権の経済政策「アベノミクス」の影響で完全失業率はやや改善され、転職市場は求人数が増えているものの、さまざまなデータからは、若年労働者を取りまく状況は依然、厳しさが続いていることが分かる。

下の【図1】を見てほしい。ここ十数年の日本の完全失業率は、4~5%台で推移しているが、15歳から24歳の若年層は、7~ 10%台の数値となっている。ミドルエイジに比べると、若者のほうがはるかに失業率が高いのだ。

【図1】  若年者の失業率は他世代に比べ高いまま

また「正社員になれない若者問題」も深刻だ。63~ 67年生まれ(現在46~50歳) の大卒男性は新卒での就職で92.4%が正社員だった。だが83~87年生まれ(現在26~30歳)の同タイプの正社員比率は76.3%(【図2】)。

【図2】  初職における正社員の比率(大卒)

また文部科学省の「学校基本調査」でも、若年雇用の厳しい現実を裏付ける。2012年の大卒者のうちのおよそ15.5%が就職や進学せず、アルバイトや契約社員などの有期雇用労働者として就業している人は3.9%。この調査から、大卒者のほぼ5人に1人が正社員という形態でないことがみてとれる。

だが若年者の雇用問題に頭を悩ませているのは日本だけではない。詳しくは8ページにゆずるが、労働政策研究・研修機構、労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員の濱口桂一郎氏によると「むしろ新卒一括採用があるという点においては、日本は他の先進国より恵まれている」と言う。

確かにAdecco USが調査したデータ(【図3】)によると、米国の大学で今年卒業する学生は150万人以上。だが就職が決まっていない学生は53%に及ぶ。同年の日本の大卒の就職率(2012年卒業)63.9%(うち3.9%の有期雇用労働含む)という数字と比べ、シビアな状況は比ぶべくもない。

また同調査では、米国の大学生は、1人当たり平均25,000ドル(約250万円)の学生ローンを抱えているとされ、就職できない場合、生活に行き詰る。一方企業は、新卒者にも「即戦力」としてのスキルを期待する。それは、企業の採用担当者の66%は「学生は就職する準備ができていない」、58%は「新卒の学生を採用する予定がない」という結果に顕著にあらわれている。よって学生は卒業後、インターンシップや有期雇用の形態で実務経験を積むか、ビジネス系のスクールで専門の知識・スキルを蓄えるしかない。だから卒業後、就職するまでの無職期間は平均で6カ月を要するといわれている。

【図3】  2012 年度 米国の新卒状況は

これと類似しているのが欧州諸国。こちらも若年層の雇用状況は容赦ない。いずれの国も15~24歳の若者の失業率は高い。フランスの場合、大卒者は民間企業への就職が相対的に不利で、教職に就くか、公務員を目指すのが一般的だ。産業界を目指す者は、実学志向の高等教育機関に進むが、こちらのコースを選択しても「新卒一括」で採用される門戸は開かれておらず、インターンやアルバイトなどでトレーニングを積んでから無期の雇用に移行する場合がほとんどだ。

このような欧米の若年雇用の実態は、70年代から続いている。もちろん各国とも、この状況を手をこまねいて見ていたわけではない。若年層の失業問題に対処するため、フランスでは年金受給年齢を引き下げ、高年齢者の早期引退促進政策を推進。高齢者の代わりに、若年層を採用するよう企業に働きかけたこともある。だが、スキルを持たない若年層は経験・技能を持つ高年齢者の代替にならないケースが多く、結果として、若年層の失業解消には繋がらなかった。「高齢者早期退職政策によって若年層の就業率を向上させる取り組みは、どの国も失敗した」(濱口氏)のが実情だ。