VOL.36 特集:キーワードで読み解く 2014年の雇用と労働

組織と人の今とこれから

加速する高齢化、上向きつつある景気――。
環境が変わるなか、雇用と労働市場にも変化の兆しが見受けられる。迎えた2014年、いったいどのように動くのか。日本型雇用はこのまま続くのか。
今年のキーワードとなりえる語句から探ってみた。

Keyword3 新卒採用数々の疑問が呈されるも制度が変わるまでの道のりは険しい?

新卒一括採用は、日本独特の雇用慣行だ。学校を卒業した若者を、長期間の雇用を前提として、会社の中で教育していく。その間は転勤、配置転換など不特定な就業条件が生じる――濱口氏、安藤氏は、日本の新卒採用は世界に類がない、特別な雇用形態だと言う。「欧米の企業に新卒で採用されるのは、一部のエリートと呼ばれる人たち。多くの新卒者は、どこかの会社のポストに空きが出たら、その業務を遂行できる条件に合った人が応募し採用される。“座る椅子”、“その仕事”自体と契約するのが世界標準です」(安藤氏)

つまり欧米の会社員のほとんどが「限定正社員」にあたるのだ。一方で日本の新卒社員は、どんな役割にも対応できることを求められると濱口氏は指摘。「日本の企業は社員を、その時の経営状況や環境に応じて異動させ、活用してきました」(濱口氏)。そして、このやり方は高度経済成長期など、景気が上向いている時期には強みを発揮した。「企業の多くは、産業や景気の変動に合わせて人財の配置転換を行えたため、社会の変化に対応できた側面があります。新卒採用を毎年続ければ、安定した年齢別組織構造が維持できる、研修機会の提供が一律で効率が良い、人財管理がしやすいなどメリットも大きかったのです」(濱口氏)

しかしグローバル化と言われて久しい昨今では、この一括採用の弊害も指摘される。一つは新卒採用時に希望の仕事に就けなかった「学卒未就業者」が増加していることだ。初職でフリーターになると、社員同様の能力開発の機会を失い、結果としてフリーターのまま高齢化しがちだ。また年金保険料を支払えない人も多く、その分、国の社会保障費の財源は減っていく。さらに一括採用を堅持しようとすれば人財の流動化が停滞し、ダイバーシティ(社員の多様化)が進まず、それゆえ、現場でイノベーション(革新)が起こりにくく、グローバル化に対応できないなどの問題が指摘される。

現状の新卒一括採用とそれがもたらす影響を、一部解決できる施策として、「限定正社員の存在が期待されます。現場に入り技能を鍛えスキルなどを高めた上で、長期的な契約での就業形態へとステップアップしていく。新卒時に希望通りの就職がかなわなかった人が再チャレンジできる仕組みの一つとして、限定正社員は活用できる可能性があります」(安藤氏)

企業にイノベーションを起こすには、新卒採用の仕組みを見直し、欧米型の中途採用社会に変えることも検討していく必要があると主張する識者もいる。だが、濱口氏も安藤氏も「すぐ変えるのは難しい」と口を揃える。

「最初から戦力となる人財を採用するためには、教育機関の在り方を『実学志向』に変えていく必要がある。しかし現実的にそれは難しく、かつ企業としても採用の目的はさまざまなため、すべてが即戦力の人財を採用する、ということにならない」(濱口氏)

とはいえ、企業側も新卒者に過去のような手厚い研修を施す経営的な余裕はあまりない。イノベーションを起こす多様な人財も必要だ。加えて大卒の3割が3年以内に退職してしまうなど、採用のミスマッチの問題もある。昨今、新卒採用についてはインターンシップ制の導入など、新しい施策を取り入れる企業も増えている。2013年からは採用活動のスケジュールが変更になるなど、見直しの動きは続いている。新卒採用をめぐっては2014年も引き続き、模索が続く年になりそうだ。

【図3】 新卒採用実施企業比率は依然として高水準

労働政策研究・研修機構 統括研究員 濱口桂一郎氏

profile
1958年生まれ。東京大学法学部卒業後、労働省(当時)入省。欧州連合日本政府代表部一等書記官、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て現職。

日本大学大学院 総合科学研究科 准教授 安藤至大氏

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1976年生まれ。東京大学大学院修了。政策研究大学院大学助教授などを経て現職。専門は契約理論、労働経済学。著書に『雇用社会の法と経済』など。

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