VOL.37 特集:『人財競争力調査』からひも解く“これからの”人財の採用と育成

組織と人の今とこれから

人財こそが企業の競争力の源泉──。ここ数年、世界のビジネスや教育機関の現場で広まっている共通認識だ。
国家行政単位で取り組まなければならないこのテーマと、日本の現状の採用育成について探ってみた。

103か国中21位――。これは世界における日本の「人財競争力」の順位だ。

昨年11月、アデコグループと、フランスやアブダビに拠点を構えるビジネススクール、INSEAD(インシアード)、ならびにシンガポール・ヒューマンキャピタル・リーダーシップ研究所が、『人的資産』をテーマにした「Global Talent Competitiveness Index(以下、GTCI)」を公表した(こちらに要約文を掲載)。

この調査は、教育やIT環境、起業のしやすさ、移民や外国人労働者などに対する市場の開放度合などを相対的に図ってランク付けしたもので、グローバルな観点で見て魅力がある市場はどこか、グローバル人財を惹きつける土壌には何が必要か、という点を48の項目から明らかにしている。

このランキングのトップはスイス、次いでシンガポール、デンマークと続いた(図1)。上位国には欧州勢が目立ち、トップ10に含まれる欧州以外の国は、前出のシンガポールと、アメリカの2カ国のみ。アジア勢では日本が21位、韓国は28位、中国も47位という結果だった。

アデコグループのパトリック・デ・メスネールCEOは、「このGTCIの取り組みからもわかるように、人財はいまやグローバル経済における主要リソースだ」と話している。

日本でも、「グローバルに活躍できる人財」の必要性が叫ばれて久しい。にも関わらず、なぜ日本の人財競争力はこれほど低いのか。

GTCIの選考に携わった、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の石倉洋子氏は、その背景と原因をこう分析する。

【図1】GTCIランキング

「GTCIは、他国から優秀な人財を集められる環境作りができているか、育成のシステムはどうか、自国の人財を流出させないだけの魅力はあるかなど、大きく6つの観点から評価しました。日本は、企業が競争する上での環境や研究開発費率などのイノベーション環境など「Enablers」(人財競争力を後押しする要素)は総じて高かった。それでも他の先進国に比べ順位が低いのは、他国から優秀な人財を集める『開放度』が圧倒的に低いことが主たる要因です」(石倉氏)

日本は、移民をほとんど受け入れておらず、外国人人財を呼び込む「External Openness(対外開放性)」は103カ国中73位と、かなり低い。医師や会計士など専門職の国家資格も、国際的な互換性がないため、グローバルに通用しない。企業の人事制度もグローバルスタンダードとは言い難い。これでは、世界中から優秀な人財を集めることは困難な環境と言わざるをえない。

慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授 石倉洋子 氏

profile
バージニア大学経営大学院(MBA)、ハーバード大学経営大学院(DBA)、マッキンゼー社を経て、青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専門はグローバル事業戦略、競争力。日清食品ホールディングス、ライフネット生命の社外取締役。

産業能率大学総合研究所 普及推進課長 杉原撤哉 氏

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中央大学商学部卒業。人材マネジメント全般の調査・研究や教育プログラム開発、コンサルティング活動に従事。現在は人材育成体系の構築や経営人材・ミドルマネジメントの育成、グローバル人材育成などの領域を扱う。

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