人財こそが企業の競争力の源泉──。ここ数年、世界のビジネスや教育機関の現場で広まっている共通認識だ。
国家行政単位で取り組まなければならないこのテーマと、日本の現状の採用育成について探ってみた。
日本でもこれからの組織作りでは、この「グローバルスタンダード」の考え方は必要な要素の一つだ。
本題に入る前に、まず日本企業で行われているグローバル人財育成の現状について把握しておこう。
産業能率大学総合研究所の「グローバル人材の育成と活用に関する実態調査報告書」(2012年)によると、「グローバルリーダーの育成がうまく進んでいない」と回答した企業は「どちらかといえば当てはまる」と答えた企業も加えると76.8%に及んだ。また、「日本の職場のグローバル化対応(外国人社員のマネジメントなど)が進んでいない」と回答した企業も75.9%にのぼるなど、各社がグローバル人財のマネジメントに苦しんでいる様子が見てとれる(図2)。
この現状について、産業能率大学総合研究所の杉原徹哉普及推進課長は「企業が長期戦略を描けていない」と分析する。
「人財の採用や育成が、“点”の取り組みで終わってしまい、どんな人財を採用し、どのように育てて活用していくのか、大きなシナリオを描けていない企業が少なくない。他社が“グローバル人財”を育成すると言っているからわが社も…というような横並び意識の取り組みでは意味がありません。また、量的な目標はあるものの、どのような能力が求められるのかといったそもそもの部分が軽んじられている側面もあります」
また、同調査によると、海外派遣者の体系的な育成の仕組みを整備している企業は16.7%に留まり(図3)、海外赴任者の赴任前教育の期間も平均約30日程度だ。その教育も6割以上が「語学」中心で、異文化適応やマネジメントを教育・研修する企業する企業は1割以下と少ない。結果として、現地の文化や生活を受容できなかったり、現地スタッフとの間でトラブルが生じたりするケースが多かったようだ(図4)。
図2~4 出典:産業能率大学総合研究所経営管理研究所「グローバル人材の育成と活用に関する実態調査」報告書(2012年)
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バージニア大学経営大学院(MBA)、ハーバード大学経営大学院(DBA)、マッキンゼー社を経て、青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専門はグローバル事業戦略、競争力。日清食品ホールディングス、ライフネット生命の社外取締役。
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中央大学商学部卒業。人材マネジメント全般の調査・研究や教育プログラム開発、コンサルティング活動に従事。現在は人材育成体系の構築や経営人材・ミドルマネジメントの育成、グローバル人材育成などの領域を扱う。