安倍政権も推進するテレワーカー人口の増加。
在宅型テレワーク、モバイルワーク(モバイル型テレワーク)など、オフィスに捉われない柔軟な働き方は、ワークライフバランスとダイバーシティを推進する一方、なかなか定着しないのが現状だ。
テレワーク導入に立ちはだかる壁と、その打開策を探った。
2013年6月、安倍政権は週1日以上、終日在宅で勤務する「在宅型テレワーカー」の数を、2020年に全労働者数の10%以上にすると宣言した。現状では、週1日以上終日在宅勤務を行う労働者数は260万人(平成25年度、国土交通省調べ)。これは全労働者の4.5%に過ぎず、政府目標の10%にはまだ倍以上の乖離がある。
テレワークのメリットは、職場スペースの削減、資料のデータ化推進による業務効率の向上、通勤時間の削減、多様な働き方を認めることで優秀な人財を確保できるなど、多岐にわたる。特に昨今では、育児、介護退職を防ぐ手段や、災害時などの際の「BCP(事業継続計画)」対策として、制度の導入が期待されている。だがテレワークの推進は1980年代後半のサテライトオフィス構想に始まり、政府によるかけ声と議論が繰り返されてきたが、これまで大きく普及しなかった経緯がある。その理由とは何か──。
企業内の情報システムによるコミュニケーションを研究する富山大学の柳原佐智子氏はこう指摘する。
「今はユビキタス社会です。どこでもネットにつながり、何ら不便なくテレワークができます。実際、外回りの営業社員は当たり前に行っている。しかし、これを制度にするとなると、さまざまな課題が発生します。まず管理職がマネジメント(管理)できない、評価できないと嫌がります。そこで評価制度を変える必要があるとなると、それは難しいと判断され頓挫してしまうのです」
一方、現場で働く社員からは、上司がいないと指示・判断を仰げないと不満が出たり、また労働組合側からもサービス残業が増えると反対の声が上がるという。「しかし冷静に考えると、管理職は“監視官“ではなく、直接見ていなくても管理、評価は可能なはず。また指示を受ける方法も代替手段があるはずです。さらにサービス残業が増えるというのも、残業禁止にすれば解決できる。テレワークをしたい人もいるのですが、したくない人が従来の仕事のやり方で“できない理由“を強調することがよくあるのです」
また労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は、テレワークが定着しない理由を次のように指摘する。
「日本は欧米と異なり、空間および時間をみんなで共有することが重要な働き方になっている。だからテレワークでは管理も評価も難しくなってしまうのです。テレワークが定着したイギリスやオランダでは、資料がすべてデータ化され、自宅でも見られるなら何の問題もない、という感覚です。一方、日本では勤務時間内、時間外に本音での話ができないと、なかなか仲間として仕事の輪の中に入れない。この感覚が暗黙の前提となっている以上、テレワーク導入は難しいと思います」
さらに日本では共有するのは空間、時間、感覚だけではないという。
「日本は仕事を部署全体で共有するスタイル。たとえば休暇中の人の業務に対しても、必ず別の人が対応しフォローします。このように、"ジョブ共有型"のため、個人の業務内容を厳密には切り出しにくく、これが在宅ワークだけでなく、残業削減、有給消化促進などの障害になっています」(濱口氏)