つまり女性登用やワークライフバランスなどへの取り組みは、自主的な活動として求められるようになるのだ。
「たとえば女性管理職比率の目標数値も、各企業が検討して定めることになります。これは企業の取り組みや姿勢を"見える化"することを意味します。企業の社会的評価にもつながり、学生や転職希望者も注目することになるでしょう。このように、社会的評価を活用して企業を変える方向に法律が変わってくる。企業は、そのためにどう準備するかが問われるようになります」
始動した2015年。雇用や労働を巡っては、今年もさまざまな課題が横たわっている。どんな問題が焦点となり、どのような対応が必要となってくるのか。
労働法に詳しい東京大学社会科学研究所の水町勇一郎氏に聞いた。
少子高齢化が進み、加速する人手不足。一部では非正社員を正社員化する動きも出ているが、2015年の雇用と労働を巡る動きはどうなるのか─。東京大学の水町氏に予測してもらった。
「労働に関する法律の動きから見ると、今年は2つの焦点があります。女性の活躍推進と、非正社員の待遇問題です。これらは女性と非正社員の問題にとどまらず、男性正社員も含めた働くすべての人に関わる課題です」
まず女性の活躍推進では、昨年「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」が改正・延長された。これにより子育て支援などを進める企業を認定し、税制上優遇する「くるみんマーク」制度が4月から「プラチナくるみんマーク」制度にバージョンアップ。より先端的な取り組みを行う企業を認定するようになる。「男性の育児休業取得率13%以上」「出産後1年の女性在職率90%以上」など取得基準がより厳格になる分、税制上の優遇も広がる見込みだ。
また成立が見送られた「女性活躍推進法案(女性活躍法)」は、再び国会に提出されることは間違いないという。
「次世代法と女性活躍法のポイントは、ルールに反したら罰則、という従来の法規制とは異なる点です。義務ではなく労使で話し合い、自社の行動や目標値を決め、それが法の方向性に合致すれば認定や税制上の優遇などが得られます」
つまり女性登用やワークライフバランスなどへの取り組みは、自主的な活動として求められるようになるのだ。
「たとえば女性管理職比率の目標数値も、各企業が検討して定めることになります。これは企業の取り組みや姿勢を"見える化"することを意味します。企業の社会的評価にもつながり、学生や転職希望者も注目することになるでしょう。このように、社会的評価を活用して企業を変える方向に法律が変わってくる。企業は、そのためにどう準備するかが問われるようになります」
もう1つの非正社員の問題に関しては、昨年パートタイム労働法が改正され、今年4月からは差別的取り扱い禁止の範囲が拡大し、さらに不合理な取り扱いの禁止が加えられる。
「労働契約法では有期労働契約者(非正社員)と正社員間の不合理な労働条件の違いを禁止していますが、この規定がパートタイムにも適用されます。また長期的には同じ規定が派遣労働者にも適用される時がくるでしょう。
つまり企業で働くすべての人に、不合理な違いがあると違法になるルールが広がるのです。
いま、正社員と契約社員間の不合理な扱いに関する裁判が全国で提起されており、今後その判決が出てきます。正社員と非正社員間のボーナス差、福利厚生の違いなどの合理性が検証されるわけです。この判決も視野に入れながら正社員と非正社員のあり方を真剣に考えていく必要があります」