VOL.43 特集:人事・採用コンサルタントに聞く優秀な人財を見抜き、獲得する「採用術」

Adecco's Eye

大企業を中心に、新卒の採用数が増えている。そのあおりを受け、一部では学生を十分に採用できない「新卒不足」が顕著になってきた。
そんな状況下で優秀な学生をとるためにはどうすればよいのか。現代の若者を知り尽くす人事・採用コンサルタントに、そんな「採用術」について聞いた。

「ネームバリューがあり、業績が良くて、伝統がある大企業への志向がここ数年、より顕著になってきています」

そう最近の就活生の「大企業志向」について語るのは、学生と若手人財の就職をサポートするリバースキャリアパートナーズ代表取締役の坂本章紀氏だ。経団連による新卒採用選考の指針変更に加え、企業の採用意欲が高まっていることから若手人財の“不足感”が強まっている。「一部の大手・人気企業に優秀な学生を根こそぎ奪われる」と危機感を抱く人事担当者も多い。

だが、ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授の川上真史氏は、「採用側が視点を変えれば、能力ある学生を採用することは十分可能」と語る。
「時代は変わっているのに、多くの企業が望む理想の人財像は従来のまま。たとえば、高学歴、受け答えがハキハキしている、積極性がある、社会常識があって礼儀正しいなど。このような“旧基準”で採用を行っていれば、人気企業に学生が集まるのは当然です」

実は、今の時代に能力を発揮する学生は学歴を問わず多数いる、と川上氏は断言する。
「経済産業省主催の『社会人基礎力育成グランプリ(大学生がゼミ・研究室単位で、授業を通じてどれだけ社会人基礎力が伸びたか、成長度合いを競う)』では、偏差値の高い、いわゆる難関大学の学生でなくても、社会人としても活躍できるだけの能力を身につけ、多くの人たちが表彰されています。このような学生たちこそが、今の時代に合った"新基準"で評価される人財なのです」

学歴、根性、協調性は旧基準
好奇心や創造的思考が必要

では、具体的に新基準とはどんなものなのか。
「成績の良さ、知識の多さではなく、自分が持っているスキルや知識を現実に、また柔軟に使いこなせる能力を評価することです。知識を蓄えるだけではなく、実際に使って試行錯誤しながら行動に移し、成果につなげられる人財が求められているのです」(川上氏)

気合・根性、忍耐力などは旧基準の評価指標といえる。新基準で評価される学生は、理不尽な指示や環境に耐え忍ぶのではなく、好奇心や興味関心をモチベーションにして仕事をする。また、集団への同調性ではなく、異質な人や文化との出会いをポジティブに捉え、個性を発揮しながらチームで仕事ができる(ダイバーシティ&インクルージョン)のが特徴だ。

さらに、実際の現場でよくある、あちらの言い分を立てればこちらが立たずというような矛盾した状況でも、論理的思考をもとにただ一つの正解を探すのではなく、創造的思考をもとにより良い「最適な解答」を出そうとするため、問題解決力も高い。したがって、これらの特徴を持つ学生に焦点を合わせた採用システムや、学生へのアピールへと変更することが有効なのだ。

具体的にはどう変えればいいのか。まず、募集告知において大切なのは、“若い力やITの力で会社を変えたい”というアピールだ。
「論理的な思考ができて、グローバルに活躍できる人財などと抽象的に訴えてはだめです。今の20代は子どもの頃からネットで情報を集め、自ら発信してきたITネイティブ世代。自己主張ができる学生に対し、『当社では若い人の発信力や冒険心、新たな技術を求める会社である』と訴えること。すると『遅れている企業体質を自分が変えてやる』という意欲の高い学生から応募があると思います」(川上氏)

前出の坂本氏は“下積み期間が少なく、早く成長できる”というアピールも、多くの学生が興味を示すと話す。「大企業では研修制度が充実している半面、プロジェクトを主担当で回すまで5~10年ほどかかります。一方、中堅企業なら2~3年で任されることもある。就職人気ランキングの高い会社の2~3年目社員と、中堅企業の同世代社員を比べると、私が見る限り、明らかに後者の方が成長しているし、優秀です。つまり成長機会を早く享受できるのが中堅企業なのです」

このことに気付いていない学生は意外に多く、自社アピールの大きな武器になるという。
「具体的には、『入社2~3年後を見てください。当社ではこんな仕事(経験)をしています。そのために、20代でもこんな権限や役職を与えています』というようなアピールが有効でしょう。実際に、入社数年の先輩社員と会わせると、よりリアリティが出ます」

圧迫面接は逆効果
客観的なフィードバックは○

セミナーやインターンシップでは、できるだけ職場のリアルな姿を見せた方がいい、と川上氏は言う。
「今の学生は生の情報に触れたいという欲求が強く、会議室で作業をするだけのインターンシップでは意味がありません。特に社員が苦悩していたり、熱い議論を交わしていたりするシーンなどに興味を持つのです。セミナーでは新入社員が入社後に直面した課題を紹介し、そのうえで実際に行った解決策や会社が行ったフォローを提示する。すると、学生はかえって安心します」

実際の面接では、もっとも重要なのは面接官の対応だと川上氏は話す。
「面接では、“上から目線”の物言いや権威主義的な態度はとらない方がいいでしょう。圧迫面接のように、学生を試すようなやり方もNG。必要なのは、学生が納得できる"まっとうな意見"です。面接官は学生の志望理由や経験を主観ではなく、事実だけに焦点を合わせて率直に聞き、客観的な立場からフィードバックするのがいい。たとえば、『あなたのこういう能力は高く評価できるし、当社のこういう業務に生かせると思う』などです

内定後の対応も重要だ。優秀な学生にとってここ数年は売り手市場。内定を出しても、辞退されてほかの企業に行ってしまったという話は引きも切らない。内定辞退の防止のためには、内定者同士がつながるSNSに人事担当者や現場の社員も加わり、コミュニケーションをとることが有効だ。自社について情報発信したり、内定者からの質問に丁寧に答えたりすることが内定者の不安を解消することにつながる。

最近の学生はオフの部分でもつながりを望む傾向がある、と坂本氏は言う。内定後も就業体験、合宿、パーティなどで絆を密にすることも欠かせない。「人事担当者も、自社はなぜ新卒者を採用するのか、またどんな能力を発揮する人財を必要としているのかについて、とことん考えていただきたいです。そのうえで学生と率直に話し、相互理解を深める。それが、企業とマッチングし、能力を発揮できる人財を獲得する基本となるのです」

坂本章紀氏
株式会社リバースキャリアパートナーズ代表取締役

profile
早稲田大学社会学部卒業。NTT勤務を経て、我究館館長として多くの学生、社会人の就職、転職をサポート。2011年に独立。就職コンサルタント、人財育成コンサルタントとしてセミナーや講演会、企業研修などで活躍中。

川上真史氏 ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授

profile
京都大学教育学部卒業。タワーズワトソンなどでコンサルタントとして活躍。ボンド大学大学院非常勤准教授、株式会社ヒューマネージ顧問、明治大学大学院兼任講師。数多くの大企業の人財マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

Adecco's Eye