VOL.44 特集:ニッポンの雇用と労働30年

Column 働くって何?
どんな働き方の時代が訪れようが、「自分の成長」を確認できるのが仕事

佐々木常夫マネージメント・リサーチ
代表取締役 佐々木常夫氏

ダイバーシティ経営に関する執筆活動・講演で活躍し、企業のコンサルティング実績も豊富な佐々木常夫氏。東レでキャリアを積む間、自閉症の長男を含む3人の子どもの育児、肝臓病とうつ病で入退院を繰り返す妻の看病をしながら実績を上げ、同期トップで取締役に就任。2003年には東レ経営研究所社長に就任し、「働き方」の質を高めるノウハウを広く伝えている。その佐々木氏は、日本人の「働き方」や「雇用」をどう見ているのか。

「女性社員の登用をはじめ、ダイバーシティの推進は待ったなしの状況ですが、なかなか進まない。長時間労働が当たり前という働き方が続いていたので当然のことかもしれません。でも年配の男性だけの企業文化の中で斬新な発想は生まれますか? 女性や外国人といった多様な人財の視点を生かすことで、強い経営につながるのです」と佐々木氏は強調する。多様性を生かす経営が、あくまで"成長戦略"であると訴える。

一方で、技術革新のスピードは加速しており、「働き方の未来」は不透明だ。実現化が間近な各種ロボットが、労働現場に実際に登場することで「少子高齢化で生産年齢人口が減少=人手不足」という雇用状況が大きく変わる可能性もある。10年後、20年後の働き方は予測しづらい状況だが「まずは目先5年の幸せな働き方を探る姿勢を持ちたい」と佐々木氏は話す。一人ひとりが幸せを感じながら働ける企業は、長く存続でき、競争力を高められるからだ。では、何から始めたらいいのか。

「まずは経営者が旗振り役となって働き方の改革を掲げ、社員全員を巻き込んでいくことが第一。そして現場を仕切る管理職の意識改革も重要です」

その過程では数々の混乱が起きるとも予測できる。例えば「部下が突然上司になる」といった場合も今以上に増えるかもしれない。現在でもこうしたケースに戸惑いを覚えるという声もあるが、佐々木氏は「立場にかかわらず相手を人として尊重する心があれば、自然体で付き合える」と訴える。自身は30歳を迎えた頃から、誰に対しても「さん」付けで呼んできた。フラットな信頼関係を築いておけば、環境変化による影響も受けにくいという。

その管理職も近年は人員削減や効率化によって、プレイングマネジャーが増えている。このため「自分の仕事が忙しくて部下育成ができない」という声も上がるが、それは管理職としての"怠慢"、と佐々木氏は断言する。

「芝居でもいいから部下の前では悠然と振る舞う。そうすると部下にとっては相談しやすくなり、いろいろな情報が入ってくる。結果、チームの成果は上がるのです。人事の季節に、人事部にまめに行って交渉をすれば、部下の異動希望もかないやすくなる。現場の仕事はできるだけ部下に渡し、管理職としての仕事に没頭すべきです」

しかし、部下も一杯の仕事を抱え、新たな仕事を依頼するのはためらわれる場合もある。「いや、部下にはやや多めに仕事を振るくらいが成長につながります。ただし社員の成熟度によっては、丸投げにするのではなく、"どう進めるか"まで丁寧に指導やフォローを行うこと。そして業務効率化を常に課題とすれば、部下の生産性も向上するはずです」。

職場には問題が絶えず生まれるもの。しかし「どんな状況でも改善点は必ず見つかる。先行きが不安であっても悲観することはない」と言い切る。

「私自身、家庭を重んじながら仕事を続けてこられたのは、自分の成長を実感できて面白かったからです。懸命に考えて工夫し、成果を出し、感謝されて認められる。仕事ならではの醍醐味を実感できる経験こそが、人にとって宝になるのではないでしょうか」

佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
佐々木常夫氏

profile
1944年生まれ。69年、東京大学卒業、東レ入社。妻の看病、自閉症の長男をはじめとする3人の子の育児に取り組みながらも、2001年に同期トップで取締役に就任。03年には東レ経営研究所社長に就任。

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