VOL.45 特集:ダイバーシティを実現させる「イクボス」という経営戦略

Case Study2 男性にも育児休暇取得を奨励業務効率化策を全員で共有

子育てサポート企業認定、男性育児休暇取得者12名、女性取締役比率50%と、ダイバーシティの推進で先端を行くグラクソ・スミスクライン。同社では昨年、多様性を持つ組織の構築とイノベーション促進のため、ダイバーシティ&インクルージョン・カウンシルを立ち上げ、さらなる制度の充実と全社的な意識改革に取り組んでいる。

このような中、ワークライフバランス推進の好例として昨年、厚生労働省の『イクボスアワード2014』特別奨励賞を受賞したのが、同社安全性管理部部長の大石純子氏だ。医薬品の治験情報の収集、評価、報告などを行う同部には、子育て世代の女性社員が多く、毎年数人が産休や育児休暇制度を利用しているが、昨年は初めて男性社員が育児休暇を利用したという。
「育休を取ってみたいという男性が現れ、とても嬉しく思い、得がたい機会だからぜひ取得するようにと働きかけました。出産後、最初の1カ月を一緒に過ごせば、育児の大変さが身に染みるはず。その経験があれば、将来、自分の部下が育休を取っても理解できる。そういう男性が増えていけば、分かり合える組織になるはずです」

グラクソ・スミスクライン株式会社
開発本部 安全性管理部 部長
大石純子 氏

育休を取った男性は部下を持つチームリーダー。5週間ほど休んだ後も育児に関わるため残業は極力せず、今まで以上に業務の効率化を考えながら働き、部内のいい手本になっているという。
部内には、時短勤務を利用したり残業の削減に努めたりする社員が多く、大石氏は業務の効率化と時間管理に注力する。
「仕事の効率化と時間管理は、人によって得意、不得意があります。そこで部内ミーティングのとき、それぞれが考えた効率化、時間管理の工夫を提案する機会を設定。この場で"こういう作業はムダだからやめよう"という提案を出し合うようにしました。中には、既存の承認プロセスを見直すべきという提案もあり、私とマネージャーがよく話を聞き、本当に上司の承認が必要か、または後から報告だけでも問題はないかを見極め、削減可能な承認プロセスは削減しています」

また部下が書類を作ったとき、上司が「ここが違うから修正してください」というやり取りが何回か繰り返されることが多かったという。そこで書類作成のチェックリストを作り、各項目を確認してから上司に書類を提出するようにした。これで書類の書き直しの回数が劇的に減ったという。

このような効果的な業務改善が部内で日常的にできるのは、同社には他社の事例を参考にした独自の改善手法があり、これを仕事に活用するよう働きかけているからだ。
「一つひとつの改善は小さいものですが、継続して行うと、改善点が集積され、かなり大きな効果が出ます」

また時間管理に関しては、苦手な部員に対して得意な部員がメンターとなり、1カ月間にわたり指導。結果、残業時間が短縮されただけでなく、より多くの仕事がこなせるようになったという成果が出た。このように、優れた業務改善、時間管理法を全員で共有するのがマネジメントの特徴だ。
さらに在宅勤務制度の利用も奨励しており、現在は部員の約3割が週に1日、在宅で働いている。

「これは特に働くママにとってよい制度ですが、勤務中に育児に時間を割くのは禁止しています。子どもを保育園に預けた後、集中して多めの仕事をまとめて行うのが目的。通勤時間がなく効率よく働けるため、独身者にも好評です」

残業は控え、効率よく働く――。多くの人が目指す働き方でもあるが、長時間労働が当たり前という企業がいまだある日本において、人事上の評価はどうなっているのか。
「弊社は昔から"残業しないで業務効率がいい人"を高く評価する文化がありました。だから私自身、子育て期には時短勤務などで乗り切ることができたのです。その恩返しとして、育児をサポートするイクボスとしてだけでなく、誰もが気持ちよく、長く働ける職場にしたいと思っています。イクボスになるには何をすればいいのかと悩んでいる方は、まずは部下がどうしたいと思っているのかを知ることから始めてはいかがでしょうか」