VOL.45 特集:ダイバーシティを実現させる「イクボス」という経営戦略

Expert Knowledge 欧州に学ぶ育児支援制度

女性活躍と男性の働き方改革二つの推進がワークライフバランス実現の鍵

欧州では、イクメンやイクボスは当たり前と言われるが、実際スウェーデンの男性育児休業取得率は約9割もあり、男性の育児参加が積極的だ。

「これからは、少子高齢化により、女性の就業拡大と生産性の向上が不可欠となります。そのためには、部下のワークライフバランスに配慮しつつ、効率的に働き組織の成果も出す"イクボス"を増やすことが重要です」

そう語るのは、雇用労働政策を専門とするみずほ総研主任研究員の大嶋寧子氏。「実はスウェーデンも、1950年代までは日本と同様、男性が労働力の中心でした。しかし、60年代に女性の解放、男女共同参画に関する国民的な議論が起きました。そして、男女の機会均等を支える改革が税・雇用・保育などの幅広い面で進められた結果、男性の育休取得率が高い社会を実現しているのです」

また、ドイツは北欧、フランスなどには遅れたものの、2000年代に男性の育児参加を進め、女性が働き続けやすい社会を目指す改革が行われた。少子化による経済停滞への危機感からだ。

「ドイツには、子どもが3歳になるまで母が家で育児をすべきという"3歳児神話"もあって改革が遅れたのですが、05年にメルケル政権が誕生し、少額だった育児休業中の所得補償を67%へ拡大。期間は計14カ月ですが、片方の親が取得できるのは1年まで。両親がそれぞれ育休をとらないと、2カ月分の休業の権利がなくなる"パパの月"という、男性の育休取得を意識した制度を導入しました」

みずほ総合研究所株式会社
政策調査部 主任研究員
大嶋寧子 氏

profile
みずほ総合研究所 政策調査部主任研究員。1998年東京大学大学院修士課程修了後、富士総合研究所に入社。経済調査部(消費・雇用)、外務省経済局への出向(経済協力開発機構に関わる政策調整等)を経て、2005年より現職。主に雇用労働政策、家族政策を担当。

ドイツでは有給休暇を権利として行使する意識が強く、3~4週間のバカンス取得は当たり前。男性が育休を取得しないと2カ月分の給付付き休業の権利がなくなるため、かつて3%程度だった男性の育休取得率は、12年生まれの子どもの親についてみると29.6%まで伸びた。

一方、日本も両親ともに育休を取得すると育休期間が2カ月延長されるほか、14年度からは育児休業給付金が賃金の67%(半年後は50%)へと拡大。ドイツに似た制度となった。だが、日本の男性の育休取得率は2.3%と低迷したままだ。

「その理由は、そもそもの働き方が違うからです。ドイツは、効率的に働き、17時頃には帰宅して私生活を楽しむのが一般的。また、バカンス休暇をとる習慣があるので、上司は部下の長期不在を前提としたマネジメントに慣れています」

仕事も私生活も共に重視する働き方への転換を図り、残業削減や有休100%消化を促すことが、男性の育休拡大に必要と大嶋氏は言う。「しかし、日本では長時間労働ができる人にキャリアにつながる仕事を任せるのが現状。社員のプライベートを重視する働き方も実現しているとは言いがたい。だから男性の育休取得者が増えないのです」

そもそもスウェーデンやドイツでは、女性の就業拡大と、男性が育児・家事に参加できる働き方の改革が同じ問題の裏表として捉えられているという。「日本では、男性の働き方を変えることと、女性の活躍がセットになっていない。この点がもっとも大きな問題なのです」。

ドイツ 状況 男性育休拡大に関わる政策対応 男性育休による家庭の経済的負担 大きい 有効 育休中の給付充実(07年1月~) 有給休暇に対する労働者の権利意識 強い 有効 父親が育休取得しないと2カ月分の権利が消滅(07年1月~) 男性の普段の働き方 原則残業なし 労働時間の上限規制 労働時間の絶対的上限あり(1日8時間、一定の場合に1日10時間まで延長可) 職場で評価される働き方 時間効率が高い働き方 長期休暇への上司の対応力 高い(部下のバカンス取得を前提とした管理) 働き方改革の必要性低い 男性の育休によるキャリアへの影響 あり 有効 父親が育休取得しないと2カ月分の権利が消滅(07年1月~) 日本 状況 男性育休拡大に関わる政策対応 男性育休による家庭の経済的負担 大きい 有効 育休中の給付充実(14年4月~) 有給休暇に対する労働者の権利意識 低い 効果出にくい 父親が育休取得しないと2カ月分の権利が消滅(10年6月~) 男性の普段の働き方 残業前提 労働時間の上限規制 労働時間の実質的上限なし(法定の手続き、残業代の支払い等は必要) 職場で評価される働き方 残業前提の働き方 長期休暇への上司の対応力 低い(部下の長期休業を前提としない管理) 働き方改革に向けた政策対応に遅れ  男性の育休によるキャリアへの影響 効果出にくい 父親が育休取得しないと2カ月分の権利が消滅(10年6月~) 出典:みずほ総合研究所株式会社