大手企業向けERP(統合業務パッケージソフト)で国内トップシェアを持つワークスアプリケーションズ。2014年には、世界初となる人工知能を搭載したERP「HUE」を製品化した。このような革新的な製品開発で、大きな役割を担っているのが海外で採用した高度なスキルを持つ新卒技術者だ。現在、日本、シンガポール、中国(上海)、インド、米国(ロサンゼルス、ニューヨーク)に拠点を持ち、過去5年に現地採用した技術者は約1,000人にもなるという。「革新的な企業システムを開発するためには当然、高度なスキルを持つ人財が必要です。日本人だけでは人財不足という状況がありました」(同社プロダクトソリューション事業本部松本耕喜氏)
海外営業活動を通じながら、マサチューセッツ工科大学(MIT)、インド工科大学(IIT)などトップ大学でコンピュータサイエンスを学ぶ学生の優秀さに注目。彼らの参画をもって革新的技術の開発に挑みたいと考えてきたという。「通常、企業の海外戦略は、市場として魅力ある国へ進出します。しかし当社は高度なスキルを持つ人財が多くいる国(エリア)を求めて進出。結果、今はインド、シンガポール、上海、ロサンゼルス、ニューヨークの5拠点となっています」
2012年、最初に拠点を設けたのが中国だったと松本氏。「海外もそうですが、学内の口コミで一気に人気が広がりました。今では、北京大学で、当社の社員が客員教授をしていたり、シンガポール国立大学では、当社のインターンシップが正式単位として認定を受けたりしています」
北京大学やIITなどのトップ大学から多くの採用に成功する要因となったのが「世界同一報酬・評価制度」だ。現在、世界共通で新卒社員の年俸は600万円に統一されている。「トップ1%と呼ばれる学生を採用するとなると、グーグルに代表されるような世界的著名企業との競合になる。特に、コンピュータサイエンスを学ぶ学生は人気があります。アジア地域で著名企業に採用で負けない最低ラインの新卒年俸が600万円だったのです」
この年俸に合わせ日本での年俸も底上げした段階という。「特にインドと中国は、国と大学がITに力を入れ、さらに人口が多いこともあり、高度なスキルを持つ学生が多くいます」
同社の場合、海外拠点の仕事は日本本社の"下請け"ではなく、最先端技術開発であり、日本語力は問わず英語が使えればよい。この点も外国人には魅力的だという。
ただし報酬と最先端技術開発だけで人財が獲得できるというものでもない。米国企業や中国企業と比べ、日本企業は高度人財には人気がないのが実情だ。「その理由は、高度人財であっても他の同期社員と同じキャリアからスタートするからであり、日系企業が敬遠されてしまう理由でもあります。当社の場合、最初から難しい問題解決型の機能開発や市場開拓の仕事を任せることによって、仕事を通じて本人の成長を図るとともに、年2回昇給・昇進の機会があります。この働き方と昇給の話が『これまでの日本企業とは違う』と、口コミで学生たちに広がっています」
さらに同社の多面評価(上司だけでなく部下と同僚も評価する)も外国人の採用と定着に効果が大きいという。外国人にとっては、納得性のある評価制度だと映るからだ。世界同一報酬という制度だけでなく、キャリア開発や評価制度など、外国人社員にも受け入れられる総合的な施策が功を奏した結果が現在の姿だといえそうだ。
すでに外国人社員比率は3分の1となり、海外と国内の人財交流も活発化。日本人社員の多くは海外へも赴任しており、日本人社員にとっても、よりタフな技術者になる良い環境になってきたという。「コンピュータサイエンスに特化した人財の採用に注力してきましたが、今後は海外でもセールスやコンサルティング職の採用も増やしていく予定です」