GTCIランキング上位国に北欧諸国が目立つ中で、米国とともに先進国としては比較的上位にある英国。英国企業のどんな取り組みが、国内外の高度人財を惹きつけているのか。ロンドンで人事コンサルティング会社を経営する石山久美子氏に、英国の人財採用事情をレポートしてもらった。
The Project Company
代表取締役社長&コンサルタント 石山久美子氏
英国での人財採用は、「その業務で最も成果を出せる人を雇う」という考えが基本です。その仕事における経験や実績、スキルが最も重要で、人種、国籍、学歴、年齢などは関係ありません。これまでと異なる経験や視点を持つ人財が欲しい場合は、海外経験や異業種バックグラウンドがある人物を国籍に関係なく採用します。人種差別が法律で禁止されている英国では、人種を採用基準にすることも、制度を分けることもできません。この職務実績重視の環境が、英国労働市場のダイバーシティに貢献しているといえます。
そのため、採用時には国内外の高度人財の中から、その業務に最適な人財をいかに探し出し、獲得するかが焦点になります。英国企業には、多様性豊かな国内環境、魅力的な産業クラスター、優れた高等教育機関の3つの理由から世界中の高度人財が集まる環境が整っています(下図)。
英国に集まった人財にアピールするため、英国企業は自社ブランドの認知向上にとても熱心です。各企業の人事担当者はネットワークを構築して最新情報を交換し合い、社内制度を柔軟に運営しています。労働生産性改善を目指したマインドフルネス研修の導入や、個人のライフステージや嗜好の尊重のために経営幹部のパートタイム勤務を認めるなどがその一例です。また、社外に自社の取り組みを発信することにも積極的です。
採用チャネルも多様化し、人財サービス会社、ヘッドハンター、インターンシップ制度、社員のネットワークなどの利用のほか、Linkedin(ビジネス特化型SNS)による採用も増え、あらゆるリソースを最大限に活用しています。
こうした採用時の取り組みは、日本企業もすぐに導入できますが、まずは社内の環境を整えることが先決です。英国のように競争が激しい労働市場で個々人が生き残っていくには、さまざまな成長機会を得て成果を上げ、高評価を獲得するというサイクルを短期間で繰り返すことが重要です。
そうした働き方に慣れた外国人財に応えるためには、彼らに成長の機会を提供できる優れたマネージャーが不可欠です。日本企業ではその環境が十分に整っていないために国内に魅力を感じず、海外で働く日本人も決して少なくありません。
海外事業所を持つ日本企業であれば、事業所で働いている外国人財を社内環境や人事システムの整備に活用するべきでしょう。グローバルな労働市場で高度人財を獲得するためには、世界の現状を知り、自社の長所をさらに強化していく必要があるからです。まずは、人事部でのダイバーシティ推進が柔軟でクリエイティブな組織を実現するための第一歩であり、高度人財獲得の呼び水となることでしょう。
profile
一橋大学卒業後、シャープ勤務を経て渡英。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で国際人事マネジメントの修士号を取得後、英国企業で人事コンサルタントとして勤務。2009年に独立、2014年、ロンドンでThe Project Companyを設立。