VOL.50 特集:「個々人に合ったオーダーメイドのキャリア開発」が企業を成長させる

Case Study 社員の自主性を尊重するキャリアプラン日本ヒューレット・パッカード株式会社

世界120カ国に400拠点を展開するヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)。古くから世界統一となっている同社の人事制度の特徴は「社員の自主性を尊重し、キャリアプランも自分で考える」ことだ。キャリア開発の基本的な考え方を、日本ヒューレット・パッカードの人事統括本部長の有賀誠氏が説明する。

「人事部がレールを敷くように社員を"コース管理"することなく、自分のキャリアは自分で責任を持って開発するのが、創業以来77年の伝統です。人事部としては、入社時、3年目、その後も多数のキャリアとスキル関連のワークショップ(研修)を開催し、キャリアメイクのためのヒントを多角的に提供しています。そのうえで、キャリアの成熟度合に応じて、個々人が"次はこんなプロジェクトや経験をしたい""10年後はこうなりたい"などとイメージしていきます」

上司は部下のキャリアを徹底サポート

社員が自身のキャリアを考えるうえで、直属マネジャーの役割も大きいという。

日本ヒューレット・パッカード株式会社
取締役執行役員 人事統括本部長
有賀 誠 氏

「2週間から1カ月に1回、マネジャーと社員は『1on1』という一対一の対話をしますが、この中で毎回必ずキャリアの話が出ます。この話を通してキャリアを固めていくのです。またマネジャーはカウンセラーの役割も担っており、部下のキャリアプランに対し、勉強方法をアドバイスしたり、なりたい職種の先輩に話を聞く機会を取り計らったりします。このようなサポートがマネジャーの仕事として定義されています」

他にも、知識・情報交流を図る社員の自主運営グループなど、社員個人がキャリア形成を考える機会は充実している。

そして描いたキャリアを実現していくため、重要な機会となっているのが社内公募制度だ。同社のイントラネット上では、常に世界中の膨大な社内求人情報が閲覧でき、国内外の希望する部門へ異動できるチャンスがある。国内の正社員約4000名のうち、毎年約200人が公募で異動している。

公募による異動が活発な理由は、上司に拒否権がないためだ。本人が自由に応募し、選考に通った場合、上司は異動時期にのみ意見することができる。
「マネジャーは直属の上司や部下、他部署の社員などによる360度で評価されますが、部下のキャリア支援も大きな評価対象となっており、支援しないと評価は下がります。支援が良いマネジャーのもとへと社員は異動しますから、社内に『人財流動市場』が形成されているのです」

そのため積極的に部下のキャリア支援を行い、マネジャーとしての能力も鍛えられるという。

人事部は人事管理を行うのではなく、社員を支援する

また育児や介護など、働くうえで制約がある人の場合、残業時間が少ない部門に異動するなどしてキャリアを継続することも容易なため、現在、介護・育児・出産を理由に辞める社員はいないという。社員が自ら考え異動希望を出し、その支援は上司が行うため、人事部の役割は限定的となっている。
「人事部は管理するのではなく、社員が困っていたら支援するのが役割です。たとえば、あるマネジャーが部下のキャリア目標領域に知見がなく困っていたら、その領域のエースに話を聞けるようにするなど。人事部員がカウンセラーとして直接相談に乗ることもあります」

では社員が自発的にキャリアを考えると、将来どのようなキャリアを志向する例が多いのだろうか?
「やはり営業職は経営人財、技術職はアーキテクトなどのリーダーです。ただし、最終的にはどちらにも経営と技術両方の知識が必要になります。そこで、たとえば技術職のアーキテクトを目指す人の場合なら、ミニMBAの講習を必ず受講してもらうなど、あらゆる側面からキャリア開発を支援するようにしています」