ここ数年、インターンシップに参加する学生が急増している。多くの企業も導入に積極的だ。そんな中、海外では一般的に行われている採用に直結したインターンシップが、日本でも解禁されるかどうかに注目が集まっている。実現した場合、日本の新卒一括採用にどのような影響が出るのだろうか。
ここ数年、インターンシップに参加する学生が急増している。多くの企業も導入に積極的だ。そんな中、海外では一般的に行われている採用に直結したインターンシップが、日本でも解禁されるかどうかに注目が集まっている。実現した場合、日本の新卒一括採用にどのような影響が出るのだろうか。
今年7月、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省がインターンシップ(就業体験)の推進に向けた検討会を立ち上げた。「適正なインターンシップの普及に向けた方策やさらなる推進に向けた具体的な方策等を検討」するという。
これまで大学は、早期の就職活動が及ぼす学業への影響を懸念しており、それに配慮して経団連も「インターンシップと採用選考は一線を画すべき」との立場をとってきた。しかし、中小企業を中心に採用選考としてインターンシップを実施することを望む声が出ており、外資系企業やベンチャー企業の一部には、すでに採用直結型のインターンシップを導入している例もある。政府が今年検討会を立ち上げた理由としても、産業界の実態や実情に合わせて、採用直結型のインターンシップの是非を検討するためとみられている。
今後、日本のインターンシップは採用活動とどう結びついていくのだろうか。それが実現した場合、日本特有の制度である新卒一括採用にどのような影響が出てくるのか。
「インターンシップを採用選考と完全に切り離し、社会貢献として位置付けることは、そろそろ難しくなってきています」
こう語るのは国内外の採用事情やキャリア教育に詳しい北海道大学・高等教育推進機構准教授の亀野淳氏だ。
「日本にインターンシップが本格的に入ってきたのは2000年頃。これを採用に活用したいと考える経営者は年々増えています。労働力人口の減少により人材の獲得競争が激化している上、グローバル人材など新しい採用ニーズも生まれています。これらに対応する有効な手段として、採用直結型インターンシップへの期待が高まっているのでしょう」
亀野氏が実施した「インターンシップと採用に関する企業アンケート」の調査結果によると、インターンシップと採用を結びつけることに対し、肯定的な回答をした企業は全体の約7割を占めた(図1)。また同じ調査で「新卒採用の課題」を聞いたところ、「自社の求める能力、技能・資格を有している学生が少ない」「自社のことをよく知らずに応募する学生が多い」「内定辞退者が多い」など、雇用のミスマッチに関する回答が多く、これがインターンシップへの期待感につながっている(図2)。
もう一つ、インターンシップの注目度が高まった直接的な要因が、採用スケジュールの変更だ。文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の主任研究員、平野恵子氏はこう語る。
「16年卒業の学生は面接解禁時期が4月から8月に、さらに17年卒生は6月に変更となりました。経団連による採用スケジュールの見直しが続き、混乱を招いたことから、企業と就活生との接触機会が減っています。それを補い、学生との接点として活用しながら、その後の採用スケジュールにつなげていく手段として、インターンシップが注目されています」
同研究所が実施したインターンシップについての調査結果を見ても、学生のインターンシップ参加率は徐々に伸びており、16年卒にいたっては前年比23.8%増の60.9%と、大幅に上がっている(図3)。ただ、「採用直結型のインターンシップが増えているわけではありません」と平野氏が続ける。
「採用期間の短期化に対応するため、会社説明会や採用プロモーションを目的としたインターンシップを実施して、採用活動に緩やかに結びつけようとしている企業が大多数です。採用直結型のインターンシップはまだ一部にとどまっています。各社とも試行錯誤を重ねている最中です」
インターンシップは約110年前の1900年初頭のアメリカで考案されたのが始まりといわれている。日本では学業優先の立場から、採用と結びつけるべきでないとの意見が根強いが、本家のアメリカや欧州ではむしろインターンシップと採用が密接に結びついている。
「アメリカで定着している就業体験型の教育プログラムには、『CO-OP(コープ)教育』と『インターンシップ』の二つがあります。前者は大学が主導するもので、教室での学習と企業での専門的な職業体験を組み合わせた教育プログラムです。参加した学生は単位を取得できるのが一般的ですが、後者は企業が主導で、学生に対し給与が支払われるケースが多い。期間は1~2カ月から長いもので半年間にも及びます。企業が学生に任せる仕事もおのずと高度で複雑な内容になります」(亀野氏)
そもそも欧米では、日本のように未経験の新卒者を一括採用して、企業内で訓練するという発想がほとんどない。そのため、インターンシップは職業訓練的な意味合いが強く、その成果は採用の判断に直結する。
また欧州では、スペインやギリシャを中心に若者の失業率が高いことが問題になっているが、その中でドイツは若年失業率が例外的に低いことで知られる。その根底には、ドイツではインターンシップに加えて、独自の就業体験型教育が定着していることがある。
「学校教育と職業訓練を統合したデュアルシステムと呼ばれる教育プログラムです。中世の徒弟制から発展した制度で、製造業で活躍する技術人財の育成を目的としています。欧州ではエリート層が対象になることの多いインターンシップですが、デュアルシステムは中間層の技能を高め、失業率の低下につなげています」(亀野氏)
このほか、アジアでは特に中国でインターンシップが活発だ。中国では日本に近い新卒一括採用が普及しているが、企業側が学生を採用する判断材料として、インターンシップでの経験を重視する傾向にある。それに合わせて、学生はいくつもの企業のインターンシップに参加し、その実績をアピールして内定を獲得するという流れが定着しつつある。
一方、日本の新卒一括採用は、翌年3月の大卒者を大量に一括で選考・採用し、なおかつ入社後に自社研修で一から育成するという独特な雇用慣行だ。欧米型のインターンシップをそのまま日本に取り入れても、うまくいくとは限らない。
「未熟な人材を、自社で育てて活躍してもらうという考え方は、欧米に比べ社員の帰属意識の強い日本の企業文化に合っているのかもしれません。大量の人材を短期間で選考するために、今のように卒業年度に合わせて一斉に横並びのスケジュールで進めるやり方は合理的でもあります。今後もこの枠組みが大きく崩れることはないでしょう。ただし今後、採用チャネルの多様化は確実に進むはずです。その中の一つとしてインターンシップが取り入れられていくでしょう」(平野氏)
企業を取り巻く経営環境は大きく変わり、グローバル人材やイノベーティブな人材の重要性が強く認識されるようになった。新興国との国際競争や、AIやロボット技術の向上などで、単純労働の需要も減っている。従来の人事・雇用のあり方を見直していくことは避けられない。企業が必要な人材を確保していくためにも、社会全体で雇用のミスマッチを解消していくためにも、採用チャネルの多様化は不可欠だ。
「インターンシップを選考に活用するメリットは、面接よりも高い精度で人材の資質や成長の可能性を見極めることができる点です。『面接の評価と入社後のパフォーマンスの相関性はほとんどない』とする調査結果もあり、面接では学生の資質を十分には見抜けないのが実態。すごく優秀なのに“一発勝負”の面接には弱いという学生もたくさんいます。時間をかけないと成長性が判断できないような人物を採用したいケースには、インターンシップによる選考が向いているはずです」(平野氏)
ベンチャー企業だけでなく既存の企業にとっても、社内で起業家精神を発揮したり、新たなイノベーションを生み出したりするような人材が求められている。そんな突出した能力や資質を見出す手段としても、インターンシップは有望かもしれない。
「幅広い人材ニーズに対応する上で、採用方法の多様化が不可欠であることは明らか。もちろん学生が混乱しないよう、インターンシップも含めた採用スケジュールの目安を定めるなど、一定のルール作りは必要でしょう。しかし過度な規制を設けるよりも、前向きな議論が進むことを期待しています」(亀野氏)
最後に、インターンシップ活用のための留意点を平野氏に聞いた。
「インターンシップは採用活動に有効ではありますが、万能ではありません。過度な期待は禁物。選考方法を工夫するのと同じぐらい、採用後の人材育成に力を入れることも大切です。インターンシップから入社後の人材育成までを含めた採用活動の重要性について、全社的に意識を高めていくことが必要だと思います」
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広島大学経済学部卒業後、労働省(現・厚生労働省)、民間シンクタンクを経て、2001年より現職。人財開発・キャリア教育などを専門とする。
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キャリア・コンサルタント(GCDF-JAPAN)として、多くの大学のキャリア教育に関わるとともに、就職活動に関する調査や動向をもとに雑誌や専門誌への執筆を行う。札幌学院大学非常勤講師、北星学園大学非常勤講師。