現代は「100人のエリート社員よりも1人のオタクが勝つ時代だ」と、私はいつも強調しています。環境変化がこれだけ激しいと、「一律の価値観や人事評価の枠組みに基づいて、自社に適した人財に時間をかけて社員を育てていく」という発想は、もはや時代遅れ。人財育成よりも、社内にいる多様な、あるいは特異な才能をしっかり把握し、適切に人財を配置して仕事を割り振り、能力を発揮してもらうことがはるかに重要です。
予見できない未来に対応するために、ぜひ社内で埋もれている"異端児"に注目してほしいのです。環境が絶えず変化し先が見通せないのは、多くの人々にとって不安なはず。しかし10人に1人ぐらいは、新しいモノやコトが大好きで、こうした変化をむしろ積極的に楽しめる人がいるものです。従来の人事制度の枠組みでは評価されず、組織にも馴染みにくいため、社内では「ちょっと変わった人」くらいにしか思われていない人たち。しかし彼らのなかには、特定の分野において能力を発揮する天才肌の人もいます。こういう"異端児"的な人財こそ、与えられた課題をこなしていくエリートよりも、イノベーションを生み出す可能性を秘めています。
異端児を「育成」する発想は不要です。大切なのは、社内で埋もれている才能を「発見」して、その才能を発揮する「チャンスを与える」こと。
米国のシリコンバレーの先進的企業は、評価の枠組みを根底から変えています。例えば社員たちの「Twitterのフォロワー数」も重要な判断材料です。フォロワー数が多いのはそれだけネット時代に相応しい情報発信力を備え、強い影響力を持つ証拠。そうした隠れた資産ともいうべき能力を持った社員を生かさない手はありません。「勤務時間の2割は自分の好きな仕事をやってよい」とする米グーグルの有名な方針も、社員たちの「好きなこと」や「隠れた才能」を発見する手段なのです。
チャンスを与えるため、若手社員に新規事業の責任者を任せるようなサプライズ人事もどんどんやるべきです。私自身も30代でNTTドコモに転職し、新規事業だった「iモードビジネス」の立ち上げチームに抜擢されました。同社としても異例でしたが、当時の大星公二社長も「今までに無いようなプロジェクトには異端児的な人財を登用すべき」と公言してはばかりませんでした。新しいことに取り組むには、社内での摩擦も当然生まれますが、その摩擦こそ古い組織を活性化させ、イノベーションの原動力になります。
日本のホワイトカラーの生産性は先進国のなかで最低だといわれます。逆にいえば、企業の人事が環境変化に応じて変わっていけば、日本経済はまだまだ大いに成長する可能性があるということです。
日本の経営者はぜひ“異端児マネジメント”を取り入れ、異例のサプライズ人事をどんどんやるべきです。人事部もそれを実現するような戦略的人事としての提案に貪欲に取り組んでほしいと思います。
profile
早稲田大学政治経済学部卒業。米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒(経営学修士)。NTTドコモに在職中に、「iモード」「デコメ」「おサイフケータイ」など革新的なサービスを次々と立ち上げた。08年にドコモ退社、現在は慶應義塾大学特別招聘教授のほか、KADOKAWA・DWANGO、セガサミーホールディングス、ぴあなどの取締役を兼任。