過去の数々の挑戦と失敗が「はやぶさ」プロジェクトを成功に導きました。
挑むことからすべては始まる
宇宙開発は挑戦の連続です。これまで人類が到達できていない領域に挑み、人類が利用できる空間を広げていくのです。
宇宙開発においては、到達の範囲を広げていくことがまず先であって、そこで得た技術や空間をどう利用していくかは、その後に考えてもよいと思います。つまり、実用化の目的があっての開発ではなく、まずは新しい開発に挑むということです。これは、あるいは世間の常識に反した考え方かもしれません。しかし、宇宙開発に長年携わってきた私の経験からすると、「役に立つこと」を優先しようとすれば必ず「使える技術がすでにあるのだから、それを使おう」という発想が出てきてしまいます。実用性を優先する考え方からは、未知の領域に挑戦しようとするマインドは決して生まれない。まずは挑むこと。そこからすべては始まると、私は思っています。
達成感と無念さは紙一重
挑戦には失敗がつきものです。私もこれまで、数々の失敗を経験してきました。よく思い出されるのは、1995年の「M-3SⅡロケット8号機」の打ち上げです。ロケットは軌道に乗ったものの、それは予定を外れた軌道でした。このロケットに私は十分な自信を持っていました。しかし、結果は望ましいものではなかった。私は、宇宙開発の難しさを再認識させられました。
もうひとつは、日本初の火星探査機「のぞみ」の失敗です。「のぞみ」は、火星の周回軌道上から火星を観測することを目的とした探査機でしたが、細かなトラブルが多く、最終的にはミッションを断念せざるを得ませんでした。