「同一価値労働同一賃金」を考える

個々の企業の方向性に合わせ、「同一価値労働同一賃金」を含めた雇用施策を検討していくべき(2/2)

待遇格差の是正に向け、議論されているテーマの一つ、「同一価値労働同一賃金」。
日本の労働市場にこれを導入していくことはできるのか、企業はどのようにこのテーマを捉え、
雇用施策に取り組んでいくべきか──。東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授に伺いました。

欧米での「同一価値労働同一賃金」

ヨーロッパでの「同一価値労働同一賃金」は、人権保障の観点が出発点で、性別、人種などの違いを理由とする賃金差別を禁止する原則が根底にあります。それに加えてEU は、1997 年に「パートタイム労働指令」などにより、雇用形態を理由とした賃金格差を禁止しています。

ヨーロッパで「同一価値労働同一賃金」への取り組みが進んだ背景には、職種と役割に応じた賃金制度が、全国レベルの産業別の労働協約によって整備されていたことと、キリスト教の宗教観に基づいた共通認識があります。
一方、米国では「同一価値労働同一賃金」について法制化はされていませんが、市場における競争を重んじる米国社会の特徴により、同職種における賃金に大きな差が生じることはあまりありません。

ところが近年、これまで「同一価値労働同一賃金」の先進的な取り組みを推進してきたヨーロッパで新しい動きが見られます。それは、「長期キャリアによる雇用制度の導入」です。たとえばフランスでは、長期キャリアによる雇用制度を実現するために、企業の中で労使交渉を行い、同じ職務であっても、長期キャリアコースの場合は年次が進むと賃金カーブが上昇するという労働協約を結ぶ事例があります。この事例については裁判で、「同一労働同一賃金」の例外として許容されるという判決が出ています。企業間競争が激化していく環境において、企業内でキャリアと経験を積み、培った能力を最大限に発揮してもらいたいという、いわゆる 日本的な雇用の考え方”も、一部で見られるようになっています。

ところで、ヨーロッパの中でも特にオランダやデンマークが「同一価値労働同一賃金」の成功事例としてしばしば取り上げられますが、その成功要因の一つは国の規模にあります。規模がコンパクトなため、公労使の同意後、現場で制度を運用できるのが強みなのです。翻って日本の場合は、中央官庁でなされた労使同意を全国に行き渡らせることは容易ではありません。日本がオランダやデンマークを参考にすべき点は、各地域でそれぞれの企業や労働組合の特徴に合った労使関係を構築していくことです。世界の先進事例に学び、日本の実態に合わせてアレンジしていくことが今、求められています。

アデコの視点

グローバリズムの進展や少子高齢化といった社会環境の変化は、現実のものとして私たちの前に横たわっています。このような状況において、雇用・労働におけるシステムやメカニズムが先進諸国のそれと乖離することは、経済・産業を支える企業活動に大きな影響を及ぼすことになるのではないでしょうか。

企業の生産性を向上させ、競争力を高めるためには、欧米で一歩先を行く「同一価値労働同一賃金」を日本でも推進することが必要といえます。もちろん、戦後の高度成長を支えた日本型雇用慣行を否定するものではありません。水町教授のご指摘の通り、必ずしも欧米のやりアデコの視点方をそのまま導入することが正しいわけではないからです。 従来の雇用慣行の良さを残しながら、「同一価値労働同一賃金」を推進していく。専門性が求められる職種において適度に雇用の柔軟性を高めることで企業活動を活性化させ、さらなる雇用を創出するという好循環は、労使のみならず国益に資するものと考えています。

推進の過程において働く人の新たな職務へのマッチングやキャリア形成支援といった機能がますます求められるようになります。その機能を担っていくことこそが、総合人事・人材サービス企業としてのアデコの役割であると確信しています。