2013年の改正労働契約法施行や2015年の改正労働者派遣法施行を契機に、「無期雇用派遣」が注目を集めています。派遣労働者や派遣事業者、派遣先企業にそれぞれどのような影響をもたらすのでしょうか。きっかけとなった法改正の背景や無期雇用派遣の定義、派遣労働全体への影響などを、有識者への取材を元に解説します。
「労働契約に期間の定めのない派遣労働という意味での『無期雇用派遣』は、以前からありました。それ自体が新しい働き方というわけではありません。ただ、今回の改正労働者派遣法において重要なのは、『有期』と『無期』の区別を明確にすることで、これまで曖昧にされていた派遣労働者の保護を強化したことです」
こう語るのは、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長、濱口桂一郎氏だ。
今回、無期雇用派遣について触れる前に、まずは労働者派遣法の歴史と、2015年9月末に施行された改正労働者派遣法について振り返ってみる。
大きな改正点は次の3つだ。
改正法施行からちょうど3年となる2018年に向けて、雇用安定措置の一環として、無期雇用派遣を拡大する可能性が出てきている。
もう一つ、派遣労働に関係するのが、2013年4月に施行された改正労働契約法だ。これにより、同じ職場で5年を超えて働いている労働者は、希望すれば無期雇用に転換できるとの規定が定められた。有期雇用契約を繰り返して同じ派遣事業者で働いていた派遣労働者の中からも、無期雇用を希望する者が出てくるだろう。この期限も2018年となる。
2つの改正法により、2018年は有期雇用のあり方にとって大きな変化の年となる可能性がある。そのため「2018年問題」と呼ばれている。最近になって、無期雇用派遣の注目度が高まっているのもそのためだ。
「派遣労働を含む雇用契約において、『無期雇用』と似て非なる考え方として『常時雇用(常用)』があります。同じ会社・職場に継続的に働いている点は同様ですが、常用の中には、有期契約なのに反復更新している結果として、事実上常用的に働いている人々が含まれます。彼らは、同じ職場に長く働いているにもかかわらず、契約期間の定めがあるため、ある日突然、契約更新を打ち切られるかもしれないという不安感があります。この状態は、労働者保護の観点からは望ましくありません。2015年の改正でこの点を改めて無期・有期という考え方を明確に取り入れ、労働者派遣法が派遣労働者の保護のための法律であることを明確に位置づけた。これこそが今回の改正の要諦だと考えられます」(濱口桂一郎氏)
有期雇用派遣(登録型雇用派遣)と無期雇用派遣の違いは下記の図の通りだ。
派遣労働者にとっての無期雇用派遣のメリットの1つは、派遣先で働かない期間も派遣事業者で勤務したり研修を受けたりすることで、給与が支払われる点だ。その意味で有期に比べて安心で安定的な雇用形態といえる。
一方、派遣先企業にとっては、有期派遣における3年の上限を気にせず、継続して働いてもらえるメリットがある。人手不足の深刻化で人財確保が難しくなっている中、無期雇用派遣を利用すれば、即戦力の人財を長期で確保できる。
では無期雇用派遣は今後どのように普及し、企業の人財戦略や人々の働き方にどんな影響を与えていくのだろうか。
「今回の法改正が無期雇用派遣の普及にどの程度つながるかは未知数ではありますが、今のところ、アベノミクス以降の景気拡大と人手不足の深刻化が追い風となっているといえます。
無期雇用派遣と有期雇用派遣はどちらも重要な働き方であり、一方が良いということではありません。すべての労働者にとって働き方の選択肢が増え、自分の経験や能力を発揮できる機会が広がるのは好ましいことだといえます」
また今回の労働法の改正は、働き方の多様化推進の契機になる可能性があると、濱口氏は指摘する。
「派遣労働においては3年や5年といった期限が大きな問題となりますが、その一方で、新卒正社員の3年以内の離職率はじつに30%以上。つまり3年以上継続的に働いてくれる派遣労働者は、正社員よりも業務・職務を熟知している可能性が高いといえます。
このように働き方が多様化する中、企業側にも今後の対応策が求められます。社員それぞれの働き方に応じて、その社員が無限定正社員なのか、地域限定正社員もしくは有期雇用契約社員や派遣社員なのか、というようにきちんと定義、明文化する必要があります。その意味で、現在の法改正による流れは、これを明確にするための一つのきっかけになりえるといえます。
また今回の改正による影響から、労働者一人ひとりが自分にふさわしい職場や働き方を模索するといった考え方が定着し、企業を超えた人財の流動化や同一労働同一賃金にもつながっていくことも考えられます」
濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
東京大学法学部卒。
労働省(現厚労省)入省。
東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)。